では、営業活動の現場ではどのようなAI活用が進んでいるのか。日立ソリューションズ産業イノベーション事業部でカスタマーエンゲージメントソリューション部主任技師を務める江角忠士氏は、「普及期に入ったAI活用による営業活動効率化」と題し、営業活動におけるAIへの期待とともに、AIを活用した営業効率化の事例を紹介した。
江角氏は、企業がAIによる営業活動支援に期待する背景として、「顧客・市場の変化、労働環境の変化、新たなITシステムやデバイスの普及により、顧客の“真のニーズ”へ的確に対応する必要が顕著になってきました」と指摘する。
しかし、顧客の“真のニーズ”を把握し、的確な提案をすることは容易ではない。顧客が営業担当者に望むのは「課題に対する解決提案」だ。営業部門の人数も限られている状態においては、効率的かつ効果的な営業を支援するシステムが求められる。ただし、従来からの営業支援システムは活用度が低く、その効果は限定的だという。
AIに対するニーズは、「不足労働力の補完・既存業務の省力化」と「新たな価値創造、付加価値向上」があると江角氏は指摘する。では、これらのニーズを満たすために、現在の汎用AIサービスをどのように活用できるのだろうか。
「不足労働力の補完・既存業務の省力化」で期待されるAI活用は、「AI部品による既存システム活用」と「検索の効率化」だ。具体的には音声認識技術や画像OCRを活用して、作業の効率化を図る。たとえば、音声入力で活動報告書の作成負担を軽減したり、画像OCRで顧客が使用する製品の画像から製品情報や修理履歴を把握したりする。こうした作業はこれまで担当者が手入力をしたり、直接訪問して確認をしたりしていた。江角氏は「汎用的なAIサービスを既存システムに取り込めば、煩わしい作業も効率化できます」と説明する。
また、「検索の効率化」では、AIがメールやスケジュール帳から顧客対応内容やその履歴、スケジュールなどを判断して次のアクションを喚起したり、過去の類似案件から関連情報を提示したりする。「先の兼城氏も指摘したとおり、お客様は『最新の情報を提供してくれる』といった『+α』の提案を期待しています。より質の高い提案を実現するためには、AIを活用した施策が重要になるのです」(江角氏)
実際、日立ソリューションズでは「Dynamics 365」とマイクロソフトのパブリッククラウドである「Azure」に備わるAI画像・言語認識サービス「Cognitive Services」を活用し、AI画像認識システムの実用化に取り組んでいる。2018年8月には画像認識AIでパンの種類を識別するシステムを披露した。これは、スマートフォンで撮影したパンの種類をCognitive Servicesが自動判別し、その種類や材料・アレルギー情報などを表示するシステムだ。
こうした技術はすでに実証実験が始まっている。たとえば、チョコレートメーカーのゴディバ ジャパンは2018年7月、上記のシステムを利用し、スマートフォンアプリで商品を撮影した、情報を照会する実証実験を実施した。同システムは店舗スタッフの利用を想定したもので、顧客からの商品に対する問い合わせがあった場合、画像データを基に商品情報を検索したり、商品に含まれる材料やアレルギーにかかわる情報を確認したりできるという。
最後に江角氏は、「すでにAIは身近に存在しています。AIをシステムの“部品”として利用することで、既存のボトルネックを改善し、営業活動の生産性を向上させられるのです。また、AIは人間のアイデア次第で、さまざまな新サービスを創造する可能性を秘めています」と語り、AIを活用した営業活動の効率化が一層加速することを強調した。