金融業界がIT技術を活用し、保守的な運用にドラスティックな変革を加えようとしている。それが近年話題に上るフィンテックだが、2017年9月20日に日本経済新聞社と金融庁、そしてFintech協会が開催したイベント「FIN/SUM WEEK 2017」では、金融系IT企業の関係者が多数登壇し、最新の取り組みを披露した。本稿ではマネーツリー主宰の「金融業界最大級のAPI『MT LINK』の責任者が語る、デジタルバンキングの最前線 」と題したワークショップの様子をご報告する。
マネーツリーは、個人向けにPFM(パーソナルファイナンシャルマネジメント)サービス「Moneytree」と経費精算機能を持つ「Moneytree Work」、そして、法人向けに、Moneytreeの基幹システムをAPI化し、国内の銀行口座や証券口座など約2600社以上に対応する金融プラットフォーム「MT LINK」を提供している。
フィンテックの普及が日本の金融業界に与える影響として、同社常務取締役兼「MT LINK」事業部長、フィンテック協会理事のマーク・マクダット氏は、「プレイヤーマインドからカスタマーマインド」「フィンテックを取り込む企業の優位性」「非金融系企業の参入」と3つのポイントを掲げた。
多くの金融関係者は、消費者に寄り添ったカスタマーマインドを持っていると回答しつつも、現状は行内のシステム制限で対応できないケースが少なくないという。個人・法人問わず消費者は賢くなっている。だからこそ金融企業は、つなぎ止めた顧客を手放さないため、顧客の需要に応えるフィンテックの活用が欠かせないという。さらにスタートアップや他業界の大手プレイヤーがIT技術を活用して、金融サービスを提供し始めるケースは少なくない。ここから既存の金融業界におけるパワーバランスは著しく変化していくだろう、とマクダッド氏は自身の見解を披露した。
そのため、「お金の流れを可視化する仕組み」(マクダッド氏)として、多様なソースからデータを収集し、共通のデータとして格納するDA(データアグリゲーション)の重要性が増すという。金融業界にDAを当てはめれば、利用者同意の元に各金融機関などの口座へ定期的にアクセスし、情報を一括化するマネーツリーの各サービスが該当する。市場には多種多様な資産管理アプリケーションが登場しているが、「今後はデータを分析して資産を投資に回すといったロボットアドバイザーが登場する」(マクダッド氏)と予測した。他方で今後の金融形態の1つに「Neobank」が加わるという。
これは、銀行の勘定システムはそのままにAPI基盤を利用し、銀行代理業務免許を取得したフィンテック企業が窓口となり、利用者に沿ったUX(ユーザー体験)提供や集客を担う。「日本の金融機関が持つ強みは信頼関係。特に地方に行くほど高まる。だからこそ『デパート銀行』は1つの回答」(マクダッド氏)だと説明する。銀行によって金融業務も得手不得手があり、最終的には個別サービスの提供につながるからこそ、銀行はフィンテックのサービスプロバイダーとして、自行のブランドを活かした展開を行うべきだとマクダッド氏は強調した。
例えば大手デパートで扱う商品はデパートが生産したものではない。だが、それはデパートのブランディングで販売し、顧客対応も基本的にデパートが手がける。利用者、フィンテック企業、銀行の三者が皆、ウィンウィンの関係となる世界が日本にフィットしたフィンテックの進め方だと同氏は語る。
なお、マネーツリーでは、ワークショップ開催時にMoneytreeをバージョンアップし、Siri経由で口座残高を確認するデモンストレーションを披露した。「プライバシー情報に関わるため、音声のみ提供する」としつつも、Fintechサービスをより手軽に使えるようになるための一つの手段として、音声認識には可能性があるようにみえる。