クラウド、ビッグデータ、IoTといった先進技術は、今やグローバルビジネスの進化を支えるテクノロジーとして不可欠な存在となっている。中でも、モノのインターネットと呼ばれるIoT(Internet of Things)は、工場や倉庫の生産・物流・品質管理などに加え、スマートメーター、災害発生の予兆検知、建設・土木工事現場の遠隔監視など、さまざまなシーンで新たな価値を生み出している。
だが、IoTのさらなる普及拡大に向けては「乗り越えるべき壁もあります」と、KDDI ビジネスIoT企画部長の原田圭悟氏は指摘する。
「従来のIoTデバイスは、消費電力が大きいため、電源を確保できる場所に設置することが前提でした。またLTEに代表される携帯電話網は通信コストが高いため、一定の費用負担に見合うビジネスモデルでしか活用されていないのが現状です」
IoTによるデータ活用において、その取り組みが加速しない課題とは?
通信エリアに関しても、既存の携帯電話網は山間部などの非居住地、地下室やマンホールといった場所では使えないケースが多く、IoT活用には適していないとされていた。そこで、こうした課題を解決するために登場したのが、新たな無線技術「LPWA」である。LPWAが従来の技術と大きく違うのは、少ない電力消費で長距離のデータ通信が行える点にある。LPWAは世界中で複数の規格が策定されているが、IoT向けのLPWAとして本命視されているのが「LTE-M(Long Term Evolution for Machines)」である。
既存のLTEの空いた帯域を使うLTE-Mは、広域なエリアカバレッジに加え、上り/下りとも最大1Mbpsの通信速度を持ち、扱うデータ量が少ないIoT通信としては必要十分な実力を備えている。また、無線免許を必要としない周波数帯を利用する他のLPWAとは異なり、日本でLTE-Mのサービスを提供するのは、総務省から免許を交付された通信キャリアに限定される。各キャリアに割り当てられた専用の周波数帯で通信を行うため、電波干渉が起こりにくく、安定した接続環境が整えられるのである。
世界標準規格として制定されたLTE-Mは、既に海外でサービスが開始されているが、日本でも2018年1月よりKDDIが初の商用サービスを開始した。それが「KDDI IoT通信サービス LPWA(LTE-M)」である。
「『KDDI IoT通信サービス LPWA(LTE-M)』は、単3電池2本で10年稼働する『省電力』、非居住地や地下なども含めて今以上に広く届く『広域エリア』、月額40円からの『低コスト』という3つの特長を兼ね備えています」と原田氏は言う。
そうした特長を同社ではどのように実現したのだろうか。
まず「省電力」では2つの低消費電力技術に注目したい。1つは待受時の電波サーチの頻度を下げる「eDRX(extended Discontinuous Reception)」。もう1つは指定した期間の電波サーチを止める「PSM(Power Saving Mode)」だ。この2つの技術によって、単3電池2本で10年稼働する低消費電力を実現。電源のない環境でも電池駆動によって、さまざまな機器のIoT化が可能となり、適用シーンや柔軟性を格段に広げるのである。
次に「広域エリア」では、データを複数回再送することでIoTデバイスと基地局間のデータの送受信成功率を向上させる「カバレッジ拡張技術(Coverage Enhancement)」を適用。基地局から端末までの伝送距離を従来のLTEより5km以上延ばすことが可能となり、非居住地や地下駐車場、マンホールなどでもIoTの活用が可能になるという。
「低コスト」については、「LPWA10」、「LPWA100」、「LPWA500」という、データ容量に応じた専用料金プランを策定。LPWA10で契約回線数が500万回線超の場合、1回線あたり月額40円という破格のコストとなる。
こうした3つの特長に加え、KDDI IoTコネクト LPWA(LTE-M)では、回線(SIM)管理に必要な「SIM制御」や「SIM発注」、「各種ログ情報(トラフィック量、課金データ、回線状態一覧など)の提供」を、Web上のサービスポータルから利用可能。またKDDI独自の「SIMセキュリティ」や「インターネットVPN」機能をオプションサービスとして提供している点も大きなポイントだ。
「あらゆるモノがインターネットにつながるIoTでは、どうしても脆弱性を抱えたIoTデバイスがサイバー攻撃で悪用されたり、情報が流出したりするリスクが発生します。そこで、お客さまサーバと機器間を閉域網で接続する『インターネットVPN』と、暗号鍵で不正アクセスを防止する『SIMセキュリティ』を独自に提供し、お客さまが安心してIoTビジネスを展開していただけるようにしました」と原田氏は説明する。
KDDIが提供するのはこれだけでない。増え続けるIoTデバイスを容易に遠隔管理できるよう、通信サービスにあわせて「KDDI IoTクラウド デバイス管理」の提供も開始した。これはIoTデバイス管理プロトコルの世界標準「OMA Lightweight M2M」に、KDDI独自の機能をアドオンしたもの。顧客ニーズにきめ細かく対応した機能が作り込まれている。
例えば「デバイス状態管理」では、IoT機器ごとのバッテリー残量や電波受信状態を見える化するほか、設定した閾値をキーとして、アラーム通知を受け取れる。また「デバイス遠隔設定」では、省電力モードの設定変更や通信間隔の値をリモートで簡単に行うことができる。ネットワークの混雑状態を自動判断し、最適なタイミングで「ファームウェア更新」ができる機能も用意した。
こうした先進的なサービスをKDDIがなぜ提供できるのか、それは、同社が15年以上も前から、当時「M2M」や「ユビキタスネットワーク」と呼ばれていたIoTに関する技術とノウハウを、実践的なサービス提供の中で蓄積してきたからにほかならない。
「長年にわたってM2M/IoTのビジネスを展開してきたことで様々な気付きを得られました。その1つが、膨大なデバイスを1カ所で集中管理したい、できるだけ現場に行かずに設定変更やアップデートを行いたいという、お客さまの強いご要望でした。今回提供するデバイス管理機能でも、それらのご意見をしっかりと反映させています」(原田氏)