建物の空気環境のさらなる進化に取り組むパナソニック エコシステムズは、換気をはじめ、「調湿」「除菌」「気流」などの高い技術力を武器に世界に打って出る。IAQ(Indoor Air Quality:室内空気質)事業のグローバル拡大を見据え、2021年4月に中国の住宅市場に向けて新しい空質システムの販売を開始する。
パナソニック エコシステムズは、パナソニック ライフソリューションズ社に属する事業会社の1つ。室内空気質を追求する「IAQ事業」と空気や水、エネルギーに関するソリューションを手掛ける「環境エンジニアリング事業」から成り、「空気と水の環境事業でくらしを支え、快適で永く健やかに過ごせる社会の実現を目指す」をミッションに据える。
事業としての歴史は古く、1909年に創業した川北電気企業社が母体。1913年に国産としては初めて量産化した「交流式扇風機」を発売し、この時点から空気質の向上に貢献していた。
1956年に松下グループに参加する以前から、扇風機の部品である碍盤(がいばん)の製造を通して付き合いがあったという。「1917年、当時、碍盤部品の品質が優れず、松下幸之助さんに碍盤を依頼。品質の良いものが出来上がってきた」(パナソニック エコシステムズ 代表取締役社長の小笠原卓氏)という関係だったという。
1962年に松下精工、2003年に松下エコシステムズと社名を変更し、2008年からはパナソニック エコシステムズとして運営。創業110年を迎えた2018年の翌年にあたる2019年から現在のミッションに取り組む。
IAQの事業領域は、天埋換気扇やレンジフードといった設備から、空気清浄機、天井扇といった家電までと幅広い。昨今では、除菌と脱臭に特化し注目を浴びている、空間除菌脱臭機「ジアイーノ」などのヒット商品も持つ。
現在、注力するのは、ホテルや店舗、クリニック、オフィスといった非住宅分野だ。小笠原氏は「2019年度に1767億円だった事業規模を、2025年度には3000億円へと成長させる。その牽引役を担うのが非住宅市場」と事業戦略を話す。
非住宅分野の2019年度における構成比は全体の30%程度。これを40%にまで引き上げることで、市場の成長以上の事業拡大を狙う。小笠原氏は「健康、快適、省エネ空間のシステム化に取り組み、非住宅施設におけるIAQの体験価値を向上させていく。これは大きなビルに限ったことではなく、小、中規模の施設をターゲットにしている。人間は一生のうち約60%を住宅、約30%を非住宅の建物内で過ごす。30%の部分の空気質も改善することで、社会に貢献していきたい」とした。
課題に感じているのは、少子高齢化、生産人口の減少、社会保障費の増大など、現在を取り巻く社会課題そのものだ。「水と空気で健康を維持していく。平均寿命が伸びる中、健康を維持することで、平均寿命と健康寿命の差を縮め、生産人口の減少に歯止めをかけたい。また、快適な労働環境が築けるのは水と空気が大きな要素になっている。ウイルス対策にもきっちりと取り組み、安全で快適な労働環境を提供していきたい」と、空気と水から社会課題解決の糸口を探る。
同時に、エアコンや空気清浄機、除湿機、加湿機といった複数ある機器についても「室内の空気をエアコンを使って循環し、不純物は空気清浄機が取り除く。除湿したり、加湿したりと、今までは単品の機器を組み合わせて空気質を作っていた。これからは、空間の価値も提供する時代」とシステム化への変化を促す。
2021年4月に中国で発売する空質システムは、VRF(Variable Refrigerant Flow)を使って複数の室内機を制御するシステムに、新たに開発した調湿ユニットを加え、湿度をコントロール。空調と湿度の融合で居住空間を最適化するというもの。日本に先んじてシステム化を取り入れる。「今までは温度と湿度を別々に制御していたが、両方を同時に調整できるようになる」(小笠原氏)とメリットを強調する。
2025年度における市場規模3000億円のうち、新しい空質システムで100億円、ジアイーノで500億円を担う計画。「ジアイーノは国内で250億円、それ以外で250億円を計画している。春日井と中国が生産拠点だが、今後、北米向けの生産も検討を開始する。パナソニック エコシステムズでは北米でも事業を展開しており、換気扇などは省エネ・長寿命・静音の製品特徴からシェアも高い。その市場にジアイーノを投入していきたい」(小笠原氏)と、抗ウイルス、抗菌へのニーズが高まる中、ジアイーノの海外展開を推進。増産体制も万全だ。
新しい空質システムについては、「室外機と室内機が1対1で設置されている日本の住宅で、中国のシステムを取り入れることは難しいが、日本に適した形で空質システムを導入していく予定」と日本での展開も視野に入れる。「日本の住宅の空調はルームエアコンが主体になっているため、システム化においては非住宅をメインに据える。2021年10月をメドに非住宅向けのシステム化を始め、その後住宅向けに次亜塩素酸技術との融合など、アレンジしたものを2021~2022年にかけて導入していきたい。非住宅向けのシステム空調という新しい取り組みになるが、販売体制をしっかりと構築することがポイントだと思っている」(小笠原氏)とし、次亜塩素酸技術も視野に入れたグローバル展開を目指す。