AIがさまざまな業務へ適用されるなか、具体的にどうAIを活用していけばいいのか悩むケースが増えてきた。特に、事業会社や業務部門の担当者は、AIのテクノロジー的なメリットだけでなく、それが業務にどんな価値をもたらすのかを知る必要がある。
そんななか人気を集めているのが富士通クラウドテクノロジーズが開催するデータサイエンス基礎講座だ。
AIが業務のさまざまなシーンで活用されるようになってきた。代表的な例は「製造現場におけるディープラーニングを使った予兆検知」や「コールセンターにおける自然言語分析を使ったチャットボット」などだろう。
AIが一躍脚光を浴びた数年前は、ITや統計学、数学などの知識を持った専門家の力を借りながら、どのような業務にどう活用できるかを試行錯誤しながら探っていくことが多かった。だが、現在は、考え方や適用領域もかなり整理され、テンプレートを当てはめるようにAIが活用できるケースが増えている。身の回りでも、スマートスピーカーへの音声支持やスマホでの翻訳/通訳アプリなど、何気なくAIを利用していることが多い。
「AIの民主化」「AIのコモディティ化」といった言葉があるように、誰でも簡単に、自然な形でAIを利用できるようになってきたのだ。しかし、このようにAIが浸透していくなかで、むしろ悩みが増えたという企業の担当者も多いのではないだろうか。
たしかに、既存のAIのパッケージやフレームワークが自社の業務にうまくマッチすれば、AI活用の道はスムーズに開ける。しかし、マッチしなければ、自分たちで一から試行錯誤せざるを得なくなる。試行錯誤しようにもそのノウハウがない場合も少なくない。
企業にメリットをもたらすはずのAIが悩みの種になってしまっているのだ。
実際、経営層から「うちもAIで新しいことを何かやれ」といった指示を受けたものの、何から手を付けていいかわからず担当者が困り果てるというケースはよく見られる。こうした事態はどう解決できるのだろうか。
そんななか「フレームワークを使いながら、ビジネスシーンで活用できるAIを自分たちの力で作っていくことが大事です」とアドバイスするのが富士通クラウドテクノロジーズだ。同社は、AI活用に向けたデータサイエンス基礎講座を開催しており、こうした企業の悩みに解消する方法をアドバイスしている。そこで、担当者にAIの考え方や実践方法を聞いた──。
富士通クラウドテクノロジーズは、クラウドサービス「ニフクラ(NifCloud)」やIoT活用支援サービス「IoTデザインセンター」などを展開し、企業のクラウドやIoT、AIの活用をサポートしている企業だ。同社のビジネスデザイン本部データデザイン部プランナーの金岡亮氏は、こう話す。
「企業のAI活用で起こりやすいミスの1つは、AIベンダーやツールベンダーに取り組みを丸投げしてしまうことです。データを渡せば、何か自分たちにも気づかなかった知見を探し出してくれると期待してしまう。ただ、このような進め方をすると、かりに何か知見を得られたとしても取り組みが次につながない場合がほとんとです。『とりあえずPoCを実施して終わり』ということが起こりやすいのです」(金岡氏)
PoC(Proof of Concept)は、本番の前にアイデアを検証する工程のことだ。概念実証などと訳され、PoCで得た結果を具体的な機能に落とし込んで検証し、本番サービスへとつなげていく。本来は、本番で運用してこそのPoCなのだが、PoCが目的化してしまい、そこで取り組みが止まってしまうのだ。
金岡氏は「取り組みを他人にまかせてしまう背景には、AIを漠然ととらえ、自分たちが何をしたいのかを明確化できていないことがあるようです。逆に、AIを活用できている企業に共通しているのは、AIでできることの輪郭を把握しながら、自分たちでできないことをベンダーに助けてもらうという姿勢があることです。自社の課題を解決する手段の1つとしてAIを使っているのです」と説明する。
では、企業の担当者は、AIをどう理解し、どう課題を解消していけばいいのだろうか。そもそもAIはできることがたくさんあり、業務でどう使うかは簡単には把握しきれないという難しさがある。その一方で、AIのパッケージやが自社にあわない場合は、まったくAIの取り組みが進められないということになってしまう。
「そこで提案しているのがフレームワークの活用です」と金岡氏は話す。
ここでいうフレームワークとは、富士通クラウドテクノロジーズがこれまでの取り組みのなかで得た知見やノウハウを、企業がAIの取り組みを推進しやすいように、考え方やアプローチの独自の枠組みとしてまとめたものだ。既存のパッケージやフレームワークなどがマッチしない企業が「AIを自社なりに組み立てるための方法論」と言うことができる。
データデザイン部プランナーの加藤大己氏は、このフレームワークについて次のように説明する 「まずAIをどう理解するかですが、われわれのフレームワークでは『AIは4つの要素の組み合わせで決まるソフトウェアである』と定義しています。4つの要素とは『1. AIで解きたいタスク』『2. 教師データ(≒タスクの正解となるデータ)の存在』『3. データモデルの種類』『4. タスクの解き方(=アルゴリズム)』です。4つの要素にはそれぞれ項目があり、その項目を組み合わせて、AIをビジネスシーンに適用するにはどんな方法があるかを導いていきます」
4つの要素にはそれぞれ項目があり、それらを組み合わせることで解決の糸口を探ることができる仕組みになっている。
「例えば、空港での顔画像認識を行いたいという場合、解きたいタスクは『分類』であり、データは『非構造化データ』で、アルゴリズムは『深層学習』が適用できそうだ、などと考えていきます。このように理解すると、それらを機能と実装するメドが立てやすくなります」(加藤氏)
AIを学び始めると、アルゴリズムは何がいい、ディープラーニングは何階層がいい、などと細かな仕様や技術にこだわってしまうことがある。ただ、それらはビジネスへの活用を目的とする場合、枝葉末節にすぎない。ビジネスに不可欠な要素だけを組み合わせて「AIは4つの要素の組み合わせで決まるソフトウェア」とすっきり理解することこそが重要なのだ。