すでに多くの業界で、デジタルアニーラの先行利用が始まっている。2018年にはリクルートコミュニケーションズが、富士通と共同でデジタルアニーラを活用したマーケティングテクノロジーの共同研究を始動させた。
また、金融業界もデジタルアニーラの活用に積極的で、ある金融機関では、株式のポートフォリオを最適化するためにデジタルアニーラの概念検証を進めている。
「株式で安定的な運用を行う場合、ある銘柄が上がったらそれに連動して下がる銘柄を同時にポートフォリオに組み入れることがよいとされていますが、20銘柄の組み合わせだけでも100京通り以上にも及びます。そこでデジタルアニーラを用いて最適な組み合わせを超高速に導き出そうとしているのです」(東氏)。
さらに、化学・製薬の分野では、分子の類似性を瞬時に検索するためにデジタルアニーラを活用している。従来は、類似性検索の処理を高速化するために分子の部分的な特徴を適宜抽出する必要があった。それがデジタルアニーラの活用によって、分子全体を検索し、分子間の類似性を高精度、かつ瞬時に検索することができるようになる。
このほか、デジタルアニーラによって倉庫棚のレイアウトを最適化し、倉庫内での人の移動距離を月当たり45%削減した製造業や、メンバー全員の希望を満たすシフト表を作成し、人員の配置を最適化した製造・小売業などの事例もある。
「現実世界には、従来のコンピュータでは実質的に解くことができなかった組み合わせ問題が数多く存在しています。デジタルアニーラは、そうした問題を一挙に解決するソリューションとして大きく注目され、活用が進んでいます。2018年以降はグローバル展開も本格的に始動させるつもりです」(東氏)
組み合わせ最適化問題と同様に、今日のコンピュータに性能的なブレークスル―を求めている一つに、人工知能(AI)技術のディープラーニングがある。膨大なデータから学び、最適解を導き出すディープラーニングのアルゴリズムは、コンピュータのコンピューティングリソースに大きな負荷をかける。一方で、産業用ロボットや自動車、コミュニケーションロボットなどをディープラーニングによってリアルタイムに自律制御しようとするといった動きも活発化しており、ディープラーニングの基盤には飛躍的な性能向上が必要とされ始めている。
デジタルアニーラは、組み合わせ最適化問題に照準を絞った専用システムであり、ディープラーニングの処理を高速化させる仕組みではない。ディープラーニング処理の高速化に特化したハードウェアとして、富士通では、ディープラーニング専用のプロセッサ「DLU(Deep Learning Unit)」の提供を始動させる。デジタルアニーラと同様、こちらもスーパーコンピュータの開発で培ってきた富士通の並列化技術を土台に開発されたものだ。ディープラーニング用途に特化した専用のプロセッサコアを数多くチップに搭載させ、独自のインターコネクト技術により、大規模なニューラルネットワークの処理にも対応するスケーラビリティも確保している。
「現在、汎用のGPUが、ディープラーニングのアクセラレータとして一般的に使われていますが、汎用プロセッサによるディープラーニングの高速化には限界があるというのが富士通の考え方です。ディープラーニングの高速化エンジンとして、DLUは他のプロセッサを大きく凌ぐ性能を発揮すると確信しています」(東氏)。
ディープラーニング、量子コンピューティング、そしてハイパフォーマンスコンピューティング──。これら3つのテクノロジーは、今後のIT革新、ビジネス変革を担う技術だ。富士通では今後も、それらの進化、高度化、そして融合をなお一層推し進め、企業の拡大に貢献していく構えだ。