ドラえもんは実現できるか--AI×IoT時代に「人と人の間」はどう変わる - (page 4)

 議論パートにおいて、まず「人間を超えるAIが生まれるのか、簡単に言うと『ドラえもん』は実現しないのか」という問いを投げかけた堀江氏。これに対し乾氏は「たぶん出来ないと思う」と回答した。AIは機械学習に依拠しており、機械学習では比較的簡単にできる部分、まだまだ難しい部分があると示した。深層学習に対する期待は大きいものの、AIが自我を持って自ら考えるというのは難しいといい、そこに至る方法論さえ見つかっていないのが現状だとする。

「ドラえもん」のような自我を持つAIは、現在の技術では実現が難しい
「ドラえもん」のような自我を持つAIは、現在の技術では実現が難しい

 秋永氏は、期待値が上がると「ドラえもんができるのでは」と思われてしまい、「SFチックになってしまう」と傾向を指摘。AIを現実路線から検討するならば、さまざまなサービスからの積み上げになるだろうとした。

 秋永氏が以前ある銀行から依頼された案件では、店舗での待ち時間に、来店客と雑談するAIを開発することになった。しかしながら「銀行という立場上、無制限に話されると困る」と条件を付けられ、天気やニュースなどのみを会話する、「およそAIとは呼べない物」が生まれそうになったという。秋永氏はAIを「目的を持って役割を達成する、のび太の目的を100パーセント遂行するドラえもんというマシン」と条件付ければ、実現の可能性はあるとした。一方で、SF作品のように、AIが人間に合わせてくれるという世界は、現在の技術では難しいと語った。

 機械と人間の役割分担について問われた乾氏は、「機械の得意な部分は分野、あるいは入力されるデータで全く異なり、業界ごとに丁寧にデザインしていかなければならない」と語った。また、人は無から創造するのは難しいが、候補から選ぶのは簡単だと述べ、「機械が候補を作って、人が最終的に選ぶという役割分担は上手くいくのでは」と提言した。堀江氏も、朝日新聞社メディアラボが、ベンチャー企業のレトリバと共に開発した見出し生成機能を紹介。AIが記事本文の内容から見出し候補をいくつか提示するもので、社員にも人的リソースを他の部分へ回すことができると好評だという。

朝日新聞社メディアラボが開発した見出し生成機能のデモ
朝日新聞社メディアラボが開発した見出し生成機能のデモ

 「なぜ日本のIoTはガラパゴス化するのか」と問われた市来氏。市来氏は、5年ほど前には「こんな製品を作った」と自慢する会社が多く見られたが、今では製品に「Works with Alexa」などと記載されるように変化したという米国の例を挙げ、欧米の「繋がるのが当たり前、繋がる方が価値がある」という風潮を解説した。しかし日本では、「これは人に渡したらもったいない」というスタンスが主流となっており、見ているところが違うのではないかと苦言を呈した。

 鉄道においても、大阪の梅田駅のように、ターミナル駅が離れているという事例が見られる。これは駅の建設当時、駅を隣接させると旅客を取られるという考えにより、わざと離した位置に構えた名残だという。一方で東急では、旅客の利便性を考えるならば駅は隣接していた方がいいという思想を、戦前から持っていたと市来氏は語る。市来氏は、同様の発想の違いが、コネクティッドホームの世界にもあるのではないかと指摘した。

 秋永氏は、各企業によるユーザーデータの奪い合いはかなり熾烈だと吐露した。ドコモはユーザーに回線を提供するほか、独自サービスを提供する形でデータを収集する。一方、GoogleやAppleもAndroidやiOSといったOSなど、さまざまな形でユーザーデータを収集している。仮にデータが収集できなくなると、企業は良質なサービスが提供できなくなる。また、データを蓄積した先には、AIやIoTといった将来に関わる産業が広がっている。サービス品質の維持や今後の発展のため、各企業とも対抗企業の上を行く収集先を探しているという。

 乾氏は、AIやIoTの技術は全ての産業に浸透していくインフラ的技術でもあるので、協力しつつ競争力のある技術を作っていかなければならないと提言した。また、機械と人間で役割を分担する設計については、個々の事業ごとにきめ細かく設定する必要がある。各企業が生み出すデータを蓄積するIT化を実行し、AIの設計に繋げていかなければならないと指摘した。

 パネリストの提言を受けて、堀江氏は「AIやIoTと一括りにせず、産業とか業界ごとにしっかり落とし込んで議論していく必要があるのではないか」と、討論を締めくくった。

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