目指すはドリームキャストの夢の続きとマニアの理想郷--セガ竹崎氏に聞く「it-tells」 - (page 2)

ユーザーが期待することを知り、求める物を提供する循環を作りたい

--it-tellsを立ち上げることになったきっかけを教えてください。

 そもそものきっかけはSEGA IDの整備です。僕が関わる前から「ファンタシースターオンライン2」(PSO2)をにらんで、当時「ファンタシースターユニバース」をはじめとするPCオンラインゲームのIDシステムを一本化しようという動きがあったんです。

 それと同じ頃に、セガはアーケードゲームからモバイルまで手広くやっていて、それが強みにもかかわらず、それぞれが独自に管理しているせいか、お客様を横串でみられない状態にあることをなんとかすべきだと当時のトップが話していました。当時、社内で「セガユキビタス」と言っていたんですよね。そのあたりを考えると、まずは全社で顧客IDを一本化する必要があるという結論に至りました。その時点ですでにPSO2の開発が進んでいたので、その認証システムをベースに全社で使えるシステムを構築しようと考えました。

--SEGA IDの運用によるメリットはありましたか。

  • SEGA ID

 顧客IDをSEGA IDに一本化したことによって、ユーザーがセガのどのゲームを並行して遊んでいるかは見えるようになりました。そこで、アーケードゲームでお試しゲームをできるようにしたり、アーケードゲーム間でアイテム付与やプレゼントを企画したりと送客支援を試してみました。ただ、セガのゲームは奥の深いゲームが多いせいかあまり複数タイトルが平行して遊ばれず、ひとつのタイトルに絞ってお金と時間をつぎ込んでくださるユーザーさんが多いことがわかったんです。ある意味、セガらしい結果だと思いました。ID統合で開発効率は上がるしコスト面でも利点はあったんですが、お客様に関して見えてくるものが少ないなと。

 そこで改めて考えてみて、そもそも僕らがやりたいこと、そして知りたいことは、お客様が何を望んでいるか、それに対してセガが何を提供できるかということを突き詰めていくことなんじゃないかと思ったんです。

 振り返ると僕が入社前にいちセガファンだったころ、セガに対してやってほしいことや検討してほしいことなど、たくさんの要望を持っていました。メガドライブを世に広めるためにはちゃんと商品広報すべきだとかね。その頃の僕はしゃにむにセガが好きで、自分の利益なんてまるで考えていなくて、本心でセガの成功を願ってファンとして何かできないかといつも考えていたんです。

--熱心なファンであればあるほど、そのコンテンツやジャンルなどを知ってほしいと思う欲求があるのはわかります。

 自分の好きな物事がもっと広まって、たくさんの人に知ってほしいという気持ちを強く持っている人は多い。特にゲームやアニメなどのファンの方であればなおさらでしょう。この気持ちをうまくくみ取っていくことはできないのかなと。セガはボリュームのある奥深いゲームを作るのが得意ですが、ちゃんとした手がかりもないまま開発を進めると、間違ったものができてしまう危険性をはらんでます。もちろんさまざまな方法でお客様の意見を聞きますけど、もう少し前の段階から、そもそもお客さんが何を望んでいるかが見えた方がいい。お客様が何を思って何に期待しているかを飲み込んだ上で、クリエイターの独創性を発揮して新しいものを作った方が、ヒットの確率は上がるはずです。

 開発者が心血注いで作ったゲームが、よりたくさんの方に遊んでもらえる可能性が拡がって、お客さんにとっても、自分たちが遊びたいと思っているゲームがセガからリリースされる。“たられば論”ではありますけど、そういう良い循環を目指したいんです。

 そのシステムをどうやったらできるかを考えた中で、改めてSEGA IDを使ってユーザーの声を直接聞ける環境を整えたいと思ったんです。それができれば、SEGA IDを統合したことの価値が出てくるのではないかと。ただ、最初はあくまでオプション的な機能として、SEGA IDのページにセガに対する意見を書ける程度のものを考えていたんです。

--ご意見投稿のような形ではなく、コミュニティサイトとして運用することにしたのは。

 SEGA IDのオプション機能という形にすると、すでにSEGA ID対応のゲームをしている人たちの閉じた集まりになって拡がりがなくなってしまうので、管理こそIDにひも付けるにしても、オープンな別のサービスとして独立させた方がいいだとろうという考えに至りました。

 さらにオープンな場にしたとしても、ゲームタイトルにひも付いたものにしてしまうと、結局そのひとつのゲームの世界に閉じたものになってしまって、コミュニケーションがより深く狭くなっていくだけで横のつながりは生まれにくいと。もう少し人がフレキシブルに動き回れるコミュニティのありかたを模索するなかで、実際にPSO2のお客様にもアンケートを取ってみたところ、そこで見えたニーズは「気の合う仲間と遊びたい」「気の合う仲間をさがしたい」というものだったのです。じゃあ、一緒にゲームを遊ぶときに気が合う人、仲良くなれる人ってどんな人なのか追及していくと、きっと価値観が同じか興味の対象が同じであることなんですよね。そこが同じであれば、名前だって性別だって関係ないわけです。

 それを突き詰めていくと、気が合う仲間になれるかどうかは相手が「名無しさん」であっても、共通の趣味や話題がどれだけあるかですから、それが一目でわかるといい。さらにその人の発言は、その人の価値観を判断する材料にもなります。それがわかれば「この人と一緒に遊びたい」と思ってくれるんじゃないかと。しいてはタイトルにとってもいい環境が作れるのではないかと考えました。

 そんな生い立ちなので、既存のSNSのようなものを作ろうと思って企画したわけではないんです。セガのゲームを遊んでいるユーザーがより楽しく、気が合う仲間を探して一緒に遊べる流れを作って各タイトルを盛り上げる。それだけではなく、たとえばPSO2ユーザーでアイドルグループの推しメンが同じ人が集まっているところに、PSO2ユーザーじゃないけどその話題なら参加したい人が参加してくればもっと面白いですよね。そういった、自分の好きなものを宣言して、集って、いろんな人が交差する場所があればいい。こうやって考えていった結果がit-tellsになりました。

 そう考えると、これからSEGA IDやit-tellsでやろうとしていることは「インターネットで世界をつないでdream(夢)をbroadcast(広く伝達)する」というドリームキャストのビジョンに少しは近づいていけるんじゃないかなと思ったのです。当時大川さんが思い描いた時代は、まさに今僕たちが生きている時代なのですから。ハードという物としてはなくなってしまいましたが、今からでもドリームキャストでやりたかったことを少しずつ実現していきたいと改めて思ったので、it-tellsのデザインはドリームキャストを踏襲しました。

--タイトルロゴやサイトの外観からして白にオレンジ、逆三角形のマークなどドリームキャストをほうふつとさせます。

  • サイトトップページ(クローズドベータテスト時のもの)

 開発を進めながら、社内では「もうこのサービスはドリームキャスト2でいいんじゃね?」と言っていたぐらいですから(笑)。そもそもドリームキャストも中身はセガハードですけど、セガ色を払しょくした名前や外見にして、今まで以上にたくさんの方に遊んでいただきたいという願いで作っていましたからね。

 ただ、ドリームキャストに対する固定概念もみなさんにできてしまっていますから、気持ちの中では「ドリームキャスト2」であっても、そのまま名づけるわけにもいかず、そうじゃなくても中にはセガのゲームのコミュニティがいっぱいありますから「セガコミュニティ」なんて名前にしたらさらにとっつきが悪い。少しでも一般的なコミュニティに見えて、新しいサービスだとわかるように、it-tellsという名前にしました。

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