翌10回の審判では、当時イー・ライセンスと協議を持った民放連の担当者が登場。問題とされた「JASRACへの支払額にアドオンする形であれば、イー・ライセンス楽曲は利用できない」との発言自体は認めたものの、「議論がヒートアップした中での発言であり、民放連の総意ではなかった」と釈明した。
むしろ注目されたのは「議論がヒートアップした」経緯。「そのときは3回目の会合だったが、急に1・2回目と異なる条件を突き付けてきたり、事前通達もなく2名の弁護士を伴って現れて恫喝まがいの発言を受けたりした」とし、前回審判における三野氏の説明を大きく覆す内容が示された。
これに対し、公取委は「議事録を見る限り、そのようなやりとりは見受けられない」としたが、その議事録を作成したのがイー・ライセンス側であり、しかも録音テープ自体はすでに存在しないことなどから、信憑性に疑問符がつけられる結果となる。
加えてこの回、公取委の供述調書作成作業に問題点があるとの指摘まで浮かび上がってくる。出廷した民放キー局の担当者は、公取委の担当官に「(供述調書は)あなたの話したことをまとめるものではなく、ただの取り調べだ」と言われ驚いたことを証言し、またJASRAC代理人に提出した陳述書と内容が異なることについて「5人の担当官が会社まで訪ねてきて、なぜ内容が違うのかと問われた」という事実まで示された。
第11回、イー・ライセンスに楽曲管理を任せていたエイベックスからの参考人招致も、公取委側が情勢を盛り返すにはいたらない。自社の楽曲利用を回避されていたとの状況についても「部下からそう報告を受けた」とした程度で、第9回でJASRACが示した利用実績を覆すほどの証言は得られなかった。むしろ、権利元であるエイベックスすらも正確な状況を把握していなかったことで、イー・ライセンスとの情報共有がうまくいっていなかったことを印象づける結果となってしまった。
排除措置命令を取り消しとする審決案が示された後、公取委側はコメントを差し控える姿勢を取っている。排除措置命令を出した当時の審判官は、そのときの狙いについて「長い目でみれば利用者側にも競争促進効果があり、決してJASRAC以外の新規参入事業者にシェアを分け与えよという趣旨ではない」と説明していた。しかし、審判で明らかになった事実の数々を見る限り「イー・ライセンスの主張のみをすべて採用した上での排除措置命令だった」と言わざるを得ない。
その結果、審判官が波及効果として期待していたという市場の透明性確保や活性化、著作権管理事業法の有り方を改めて考える動きなどは手つかずとなり、強引で詰めの甘い調査手法だけが浮き彫りとなって幕を閉じる運びとなった。結審の後、公取委の担当官は何を思うのか。重い口を開いてくれることに期待する。
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