企業がビジネスプロセスをデジタル化し、そこで得られる[データ]から新たなビジネス価値を生みだす[デジタル・トランスフォーメーション]が注目されている。多様なシステムで生成されるデータを集計、可視化し、意思決定を支援する[ビジネスインテリジェンス(BI)][ビジネスアナリティクス(BA)]、そしてデータをもとにした機械学習(ML)を通じてモデルを生成し、ビジネスプロセスの自動化や高度化につなげる[人工知能(AI)]の開発など、データの活用領域はかつてないほどの勢いで、急速に拡大を続けている。
富士通クラウドテクノロジーズ(以下、FJCT)が7月に提供を開始した[Starflake]は、一般的な企業にとって、これまで敷居が高かった[人工衛星]の撮影画像から得られるデータを、こうした[データ利活用]の取り組みに、より容易に取り入れることを可能にするサービスだ。
現在提供されているのは、任意の場所の森林面積、植生面積の時系列変化データ[Starflake forest]、水域分布の時系列変化データ[Starflake water]、地表面における[夜間光]の時系列変化データ[Starflake nightview]の3種類。データはCSV形式で提供され、参考価格としては、200キロメートル四方範囲内の1地点について、年間のデータ(nightviewは月次、forest、waterは2~10日程度の時間分解能)を取得した場合で100万円(税別)となっている。
[Starflake]を提供するFJCTのビジネスデザイン本部データデザイン部では、企業からの受託による[データ活用支援]を事業として手がけている。社内にあるデータの活用についてのコンサルティングや技術支援、加えてオーダーメイドのAIモデル作成などが主な業務だ。
実績としては、口腔ケア製品を製造するメーカーとの共同開発による[舌の画像から口臭の強さを推定するスマホ向けアプリ]のモデル作成、不動産業における中古物件買い取り時の価格査定業務を標準化する機械学習モデルの開発、飲食店における店舗来店客数の予測モデルの開発など、多岐におよんでいる。
[Starflake]を企画した大きなきっかけのひとつは、企業のデータ活用を支援していく中で「地理情報データは、企業のデータ活用にあたって非常に有用なものであるにも関わらず、現状では扱いづらく、活用が進んでいない」と感じたことだという。
データデザイン部プランナーの金岡亮氏は「一般的なデータ分析においても、企業が持っている情報と、地図上にプロットできる外部の地理情報が組み合わさることで、説明力が格段に上がるケースは多い。にもかかわらず、値段的に高価だったり、分析に使えるよう前処理を施す段階で非常に手間が掛かったりするという理由で、ほとんど使われていないのが現状。その状況をStarflakeで変えていきたい」と話す。
[Starflake]では、人工衛星で撮影された画像からディープラーニングなどを通じて、[夜間光量][森林量][水域分布]などをデータ化し、それらをCSVファイルに加工して提供する。標準地域メッシュでいう[5次メッシュ](約250メートル四方)までの粒度で、これらの情報を含んだデータとして提供されるため、同様のメッシュ情報を持つ他のデータとの組み合わせも容易だという。こうしたデータを、ユーザー企業が独自に用意しようとすると、企画から前処理までを含めて、利用できるようになるようになるまでに数カ月以上掛かってしまうが、[Starflake]では、内容に応じて約2週間から1カ月程度で利用可能になるというスピード感も売りのひとつになっている。
では、[夜間光量]や[森林量][水域分布]などのデータからは、どのようなデータと組み合わせることで、何が分かるのだろうか。
金岡氏は、例として[不動産公示地価]と[nightview]との組み合わせで、よりリアルタイム性の高い地価の予測や、中古不動産物件の見積もり精度向上などが可能なことなどを挙げた。一般に[公示地価]は年に1回の頻度で更新される。一方、[Starflake nightview]の時間分解能は現状[1か月]単位での取得が可能となっている。
「社内で行った分析では、住宅価格の高さと、その地域の夜間光の多さとの間には、かなりきれいな正の相関があることがわかっています。また、時系列で夜間光の変化を見ることで、新たに再開発が行われていたり、住宅や施設が着工されていたりする地域も、ある程度知ることができます。今後、その地域が経済的に活性化する可能性を分析するにあたって、夜間光は、より粒度の細かい地価予測、物件価格の説明変数として利用できます」(金岡氏)
また[forest]や[water]は、水域や森林を管理する自治体の業務を支援するためのデータや、災害発生時の被災地域の予測データ、環境アセスメント用のデータとしても活用が可能という。
データデザイン部のデータサイエンティストである吉田孟弘氏は、[Starflake]の衛星データは、上記のような典型的な例に限らず、より多くの業種、業態で有効に活用できるはずだと話す。
「これまで、人工衛星のデータは、その扱いの難しさもあって、測量会社など、本当に一部の企業にしか活用されていませんでした。しかし、世の中には、店舗を持った流通小売業、飲食業、配送業、不動産業、金融業など、地理的な特性とビジネスとの間に、何らかの関係がある業界、業種がまだまだたくさんあるはずです。Starflakeは、そうした、これまで衛星データの活用ができていないところに、少しでも広く、扱いやすい地理データを提供したいという思いで展開しています」(吉田氏)
既に多くの企業が導入しているBIやBAの仕組みに、[Starflake]の地理情報を重ね合わせるだけでも、そこから得られる知見は大きく広がる可能性がある。例えば、ある商品について、AとBという2つの地域で、売り上げデータに大きな差があるとする。ビジネス側としては、AとBでなぜそのような差が出ているのかについての知見が得たい。しかし、POSなどの既存のシステムから得られる数値データのみでは、十分に説得力のある説明が難しいケースもある。その際、[Starflake]の提供する地理データ、夜間光データを、既存の数値に重ね合わせることで、環境や地域的な特性に基づく、新たなインサイト(洞察)が得られる可能性は高まるはずだ。
「これまで、長くBIやBAに取り組んできた企業であれば、既に社内にある分析に使えそうなデータは、ほぼ使い尽くしている可能性もあります。今よりも、もう一段、データの解像度を上げて、説明力や精度を上げていくための手段としても、Starflakeは活用できるだろうと考えています」(吉田氏)
FJCTでは、[Starflake]によるデータの販売に加え、これらのデータとユーザーの持つデータの組み合わせや分析、モデル作成などに関する支援・開発にも取り組んでいきたいという。また、そうしたデータを基軸にしたコラボレーションなども積極的に展開したい考えだ。