共働き世帯が増えて、女性の就労率が上昇した昨今、保育施設は社会インフラとなりつつある。しかし、OECDの調査によると、日本の保育者の業務時間と社会からの評価は、調査対象国の中で最下位。また、保育士の離職率は約10%と高い。保育現場における業務の効率化や、保育者が働きがいを感じられる環境づくりは、社会課題となっている。
このような中、保育業界のDXを推進するユニファが、AWS主催のアーキテクチャーで競うスタートアップのためのコンペティション「AWS Startup Architecture of the Year Japan 2020」で国内優勝を果たした。
そこで、保育施設向けサービス「ルクミー午睡チェック」について同コンペでプレゼンテーションをした、ユニファ取締役CTOの赤沼寛明氏にインタビューを実施。前編では、同社の手がける事業やサービスへの想いを聞いた。
まず、ユニファの事業内容を教えてください。
ユニファは、2013年に代表の土岐(土岐泰之氏)が立ち上げた会社で、主に保育施設向けのサービスを提供しています。AIなど最新のテクノロジーを活用して保育業務の負担を軽減することで、保育者の方々が“保育のプロ”として注力するべき本質的な業務にフォーカスしていける、「スマート保育園®」を目指して活動しています。
もともとコンサルファームで忙しく働かれていた代表の土岐さんが、自身のキャリアよりも家族を優先されて退職し、東京から奥さんの職場である愛知県へと移住。その後、さまざまな事業アイデアの中から保育を選んだという、会社立ち上げのエピソードもユニークですよね。
そうですね。代表の土岐自身、前職はかなりのハードワークで、家族コミュニケーションという点で課題を抱えていました。それが起業のきっかけとなり、ユニファは「家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを 世界中で創り出す」というパーパス(存在意義)を掲げて事業を推進しています。
設立当初は、園内の写真や動画をオンライン上で購入できる「ルクミーフォト」というサービスをリリースしました。次に、2018年からは「ルクミー午睡チェック」という、乳幼児の午睡(お昼寝)を見守る医療機器を提供しています。さらに「ルクミー体温計」「ルクミーシフト管理」などのルクミーシリーズや、保育者のモチベーションを可視化する「キッズリー保育者ケア」など、さまざまなプロダクトを開発しています。
われわれとしては、保育現場の課題に対してトータルソリューションを提供していくことで、保育者の方々に時間のゆとり、心のゆとりをもたらし、保育の質を上げていく、それがさらにお子さん自身やご家庭にもよい影響を与えていけるのではないかと考えています。
では、ルクミー午睡チェックがどのようなサービスなのか教えてください。
まずは、ルクミー午睡チェックの前提からご説明します。保育施設内での死亡事故は年間10〜20件、実は約90%が睡眠中に発生しています。うつ伏せ寝になると突然死のリスクが上がるのです。このため保育施設では一般的に、毎日のお昼寝(午睡)の時間には保育士さんが園児1人ひとりの体の向きを5分間隔でチェックして、手書きで記録しています。
ルクミー午睡チェックは、センサーで睡眠中の園児の体の向きを数秒間隔で検知し、うつ伏せ寝になった場合はアラートでお知らせするプロダクトです。お昼寝前、お着替えのタイミングで、午睡センサーを各園児の上着に装着すると、睡眠中の体の向きのデータがアプリで自動記録されるので、手書きでチェック表を作成する手間も省けます。
センサーの形状についてはいろいろと検討しました。最初はマットタイプなども考えましたが、1人ひとりに装着するセンサーでなければ体の向きを検知できません。お子さんが勝手に外してしまわないか、どこかに当たって怪我をしないか、万が一お昼寝中に外れてもリスクが少ないかなど、保育者の方々にプロトタイプを使っていただきヒアリングを重ねて、現在の形状に決まりました。
実際に利用した保育士の方々からの反応はいかがでしょうか。
現在、サービス全体の導入件数は延べ1万件を超えています。全国に広がっておりまして、保育士の方々の、精神的負担の低減につながっています。皆さん、他の業務と並行して午睡チェック業務をされているので、どうしてもチェック漏れや、チェック時以外の見落としに不安があるかと思いますが、従来のチェック業務を継続しつつ、そのサポートという形でルクミー午睡チェックを導入することで、ダブルチェックになっているとのことです。
実際、ある園でICT機器活用前後での保育士の感情分析テストを実施したところ、ルクミー午睡チェック導入後、ストレスの多い状態から、緊張度を保ちつつもストレスが少ない状態に変化したというデータが得られました。園児たちの命を守るという精神的な負荷の高い業務においては、ICT機器の活用が心のゆとり確保につながります。
また、アプリの自動記録によって業務効率化になるという点も、ご好評いただいています。
プロダクト開発において、こだわりや大事にしていることは何ですか。
いかに現場で活用いただけるか、受け入れてもらえるかは、すごく大事にしている点です。たとえば、幅広く定量的なアンケートを実施して、本当の需要はどこにあるのかをリサーチしたり、保育の現場にも何度もお邪魔して、「これだと使いづらい」「ここは手間がかかった」など、現場からのリアルなフィードバックを得ることで、忙しい業務の中でも本当に活用できるプロダクトになるまで、ブラッシュアップしています。
今回コンペで高い評価を得た、ルクミー午睡チェックを支えるアーキテクチャーについても、ぜひこだわりをお聞かせください。
ルクミー午睡チェックは、保育士の方々のサポートという位置づけではあるものの、「命に関わる」というプロダクトの性質上、信頼性と運用面での安定性に重きをおいてアーキテクチャーを設計、開発しています。技術面でも、センサーというハードウェアを使っているので、そちらの安定性や信頼性をいかに担保するか、いろいろと頭を悩ませながら工夫して作り込みました。
そういったところが、コンペでの評価や保育事業者さんからも信頼いただけているポイントかと思っていまして、ビジネス的な実績にもつながっていると考えています。
(後編に続く)※「スマート保育園®」、「スマート幼稚園®」、「スマートこども園®」」はユニファの登録商標です。