グローバルICTの今後を4テーマで読み解く--主要IT系媒体が2回目の討論(前編)

 グローバル化におけるIT活用の最適解とは何か。主要IT系メディアの代表4人が議論を展開する。4つのテーマに分けて活発な討論が行われたが、まず論じられたのは、東日本大震災をきっかけに明確になってきたICTガバナンスの重要性だ。


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左から着席順に
朝日インタラクティブ CNET Japan編集長/別井 貴志
アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp編集長/大谷 イビサ氏
ITR シニア・アナリスト/舘野 真人氏
アイティメディア ITインダストリー事業部
エグゼクティブプロデューサー/浅井 英二氏
日経BP コンピュータ・ネットワーク局ネット事業プロデューサー兼 日経コンピュータ編集プロデューサー/星野 友彦氏

震災後に見えてきたICTガバナンスの重要性

 主要IT系メディアの代表の多岐にわたる討論は、9月に行われた前回に続き、10月28日に「グローバルICT討論会」という形で実施された。「NTT Communications Forum 2011」のイベント会場で行われた討論は多くの聴衆を集め、90分にわたって続けられた。

 テーマは、「東日本大震災を受けて企業のICT戦略はどう変ったか」「グローバルICTガバナンスのあるべき姿とはどのようなものか」「グローバル時代におけるクラウドの価値とは」「変わりゆくICTパートナーの条件」という4つである。


4人の論客が集い、活発な議論が展開された「グローバルICT討論会

 東日本大震災を受けて企業のICT戦略はどう変わったか。まずはっきりしているのはIT投資のポートフォリオが変化したことが挙げられるだろう。ディザスタリカバリやBCP(事業継続計画)関連の投資を増やさざるを得ない状況が発生した。

 これについて、日経BPの星野氏は、「『日経コンピュータ』の調査で、日本企業300社のCIO、システム部長にこの問題について聞いています。結果はこの2項目について投資の優先順位を上げているという企業が非常に多かった」と話す。

 星野氏は「BCPについて、日本企業は長年取り組んできている。しかし、日経BPの別の調査では99%の企業が、東日本大震災ではBCPがうまく機能しなかったと答えている」と話す。確かに今回の震災は「想定外だった」という印象が強い。長年取り組んできた事業継続の計画がどうにもならなかったのはしょうがない、という考え方もできる。

 星野氏は今回の震災の被害の特長を「点ではなく面で起こっている」と表現する。被災地域は広域となり、サプライチェーンの寸断が注目された。「BCPも点ではなく面を意識したものになっていたかをもう一度各企業が確認する必要があるだろう。そしてITを活用して冗長性の高いBCPやディザスタリカバリを構築していかなくてはいけない」(星野氏)

 アイティメディアの浅井氏は東日本大震災によってIT部門の役割があらためて明確になったと話す。

 「世界でも有数の火山国、地震国である日本にいて想定外という言葉だけで済むはずがない。今投資のポートフォリオが変化しデータセンターを移設したり、新設しようという案件が経営サイドから出されているケースも多いだろう。こうした事態においても情報システム部門は、さまざまなトップダウンの指示に対しても冷静に必要な情報を示し、的確な判断に貢献しなくてはならない」

 さらに震災発生後のICTの問題点についてより具体的に話すのは、CNET Japan編集長、別井貴志だ。別井はバックアップデータを確保できても、再度活用する手立てを失うケースについて指摘する。

 「確保したバックアップデータの形式を、システム上で変換する方法が分からないという例がかなりあったようだ。ベンダーやSIerに任せていたので復旧方法も彼らを頼るしかないということらしい。連絡が取れて何とか復旧にこぎつけることができればいいが、相手も被災してしまっていたら大変なことになる」

 データやシステムそのものの標準化の重要性もあらためて気付かされたということだろう。

 無尽蔵に予算があるわけではないので、災害対策関連のIT投資については何がポイントなのかを見極めて合理的に進めていく必要がある。アスキー・メディアワークスの大谷氏は、例えば万が一のためのバックアップシステムの構築などには必要なコストと経営の判断の間で折り合いがつかないことも多いと話す。

 「経営サイドをIT部門が説得しきれないことも多いようだ。『普段は使わないシステムにそれだけの投資をするのは…』と二の足を踏む経営に対しどう対応するかがポイントになる」

 ここまで述べられてきたように、東日本大震災は企業のICT戦略に大きな変化をうながすことになった。「今回の震災は日本企業のさまざまな脆弱性を露呈させた」(星野氏)という感想を持つ人も多いだろう。ではその脆弱性を克服するにはどうすればいいのか。それには個別の問題をつかみつつ、さらに本質的な変革を進める必要がある。それを具体的にいえば「ガバナンスの再構築」といえるのではないか。そう投げかけるのがこの討論会の1つの狙いだともいえるだろう。

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