米国環境NGO RAN声明:メガバンクのTCFD開示、森林破壊リスクの視点から不十分 (2019/10/11)

「気候関連財務情報開示タスクフォース」サミット、東京での開催を受けて

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」(注1)サミットが8日に開催されたことを受けて、銀行のTCFD開示は森林破壊リスクの視点から不十分であるとして、以下の声明を発表しました。

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TCFDの提言に従って、日本の3メガバンクが「炭素関連資産」のポートフォリオ全体に占める割合等を開示したこと(注2)は評価できる。しかしこれらの数字は、メガバンクが投融資を通じて促進している熱帯林減少や泥炭地の破壊と、それに伴う二酸化炭素の排出が反映されておらず、不十分な開示と言わざるを得ない。

メガバンクは多額の融資等を通じて、東南アジアでの熱帯林や泥炭地の破壊を起こしているアブラヤシ農園やパルプ材植林地の拡大に関与している(注3)。これは森林減少だけでなく、現在インドネシアで大問題となっている火災の原因でもある。農園造成を目的として伐採された森林に火入れをすることは、禁止されているにも関わらず行われ、森林火災と煙害(ヘイズ)は深刻化している。今年8月、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「土地関係特別報告書」(注4)では、農業、林業、その他土地利用による排出量が、人間活動による排出量の約23%を占めていることが発表された。このうち、熱帯林減少による排出量がもっとも問題であることが確認された。

メガバンクの不十分な情報開示には様々な要因があり得るが、一つは金融機関に特化したTCFD提言が「炭素関連資産」を次のように狭く定義していることによると言える。これは、メガバンクの分析方法だけが問題ではなく、TCFD提言の限界も示している。

「炭素関連資産とは、世界産業分類基準(GICS)が規定するエネルギーおよびユーティリティセクターに関連する資産。但し、水道事業、独立系電力事業および再生可能電力事業を除く」(注5)

この規定には「土地利用による排出」は明らかに含まれていない。TCFDは、農業、食料、林産物に関わる企業には気候リスクの開示を求めているが、残念ながら金融機関には求められていないことが問題である。

また、パーム油によるバイオマス発電事業が、再生可能電力事業として「炭素関連資産」から除外されていることも問題である。大規模なパーム油生産は森林破壊、生物多様性の破壊、土地収奪、人権侵害を伴う。また、ライフサイクルアセスメントによる評価においても大量の温室効果ガスを発生させる懸念があり、再生可能エネルギーとして定義すべきではないとNGOから指摘されている(注6)。

よって、気候リスクが高い森林リスク産品に多額の融資等をしているメガバンクが、森林リスクへのエクスポージャーや戦略を開示していないことは非常に残念である。「責任ある銀行原則」(PRB)に賛同した限り、TCFDを超えて、森林リスクに関する情報を開示することも期待したい。


注1)TCFDは、気候変動に関する情報の開示を企業に促す取り組みで、2015年に設置された。経済産業省によると世界で864の企業や機関が賛同し、日本では3メガバンクを含む、199が賛同の意を示している(10月10日時点)。
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注2)メガバンクが発表したTCFD開示は以下の通りである。

・三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)

 「炭素関連資産がポートフォリオ総額に占める割合は6.6%」
・三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)

「炭素関連資産(電力、エネルギー等)は貸出金の7.8%」
・みずほフィナンシャルグループ(みずほ)

「計測したエネルギーセクターおよびユーティリティセクター向け信用エクスポージャー(EXP)が信用EXP総額に占める集中度は約7.2%」

注3)RAN「森林と金融: 東南アジアの熱帯林をリスクにさらす企業への最大の資金提供機関は、引き続き日本、中 国、マレーシア、インドネシアの金融機関」、2018年12月リンク

注4)農林水産省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「土地関係特別報告書」の公表(第50回総会の結果)について」、2019年8月9日
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注5)「最終報告書:気候関連財務情報開示タスクフォースの勧告」( サステナビリティ日本フォーラム私訳、2018年10月、24ページ)
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注6)NGO共同、「バイオマス発電に関する共同提言」、2019年7月16日
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