胎児エコー遠隔診断で根治手術に成功 今後、IoT×医療で僻地の新たな地域医療に貢献 -- 近畿大学

近畿大学 2018年05月24日 14時05分
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近畿大学医学部附属病院小児科(大阪府大阪狭山市)は、胎児エコーの遠隔診断で、出生前に先天性心臓病のひとつの重複大動脈弓(ちょうふくだいどうみゃくきゅう)を遠隔診断で2症連続して発見し、発症前のリスクが低い段階で根治手術に成功しました。




近畿大学医学部附属病院小児科(大阪府大阪狭山市)は、胎児エコーの遠隔診断で、出生前に先天性心臓病のひとつの重複大動脈弓(ちょうふくだいどうみゃくきゅう)を遠隔診断で2症連続して発見し、発症前のリスクが低い段階で根治手術に成功しました。

【本件のポイント】
●妊婦がかかりつけの産院から移動することなく専門医に相談できるシステム
●危機的状況になるまで見つかりにくい重複大動脈弓を発見し発症前に根治治療に成功
●今後、専門医が少ないへき地の新たな地域医療として期待

【本件の概要】
近畿大学医学部附属病院小児科は、平成28年(2016年)から胎児心エコー診断装置を活用し、近隣の産科医院とネット回線を通して胎児心臓病の早期発見のための遠隔診断をこれまで500件以上行ってきました。これは、妊婦がかかりつけの産院から移動することなく当院の専門医の診断を受けることができるシステムです。
今回、近隣の提携病院より、妊娠28週目と30週目の胎児2人の心臓診断の依頼を受けました。遠隔で画像を解析したところ、重複大動脈弓であることを発見。その後、妊婦は本院の小児科胎児心臓病外来を受診し、重複大動脈弓についての説明を受けました。両児とも本院産婦人科で無事出生し、慎重な経過観察の後、生後3週間で根治手術に成功。術後のCTでは気管の圧迫はなくなり、両児とも元気に退院することができました。
本症例は、地域の医療機関との連携とIoT技術を使った先端医療により、診断困難な難治性疾患を早期に発見し治療できた極めて珍しい症例で、新たな治療方法を確立した大変意義のある事例でもあります。

【重複大動脈弓とは】
重複大動脈弓とは大動脈弓の奇形で、気管と食道が血管によって完全に取り囲まれる状態になる病気です。生まれてすぐは症状が出ないため、乳児より慢性的に咳や、喘鳴(ぜんめい)※1、陥没呼吸 ※2を繰り返し、啼泣(ていきゅう)時に気道感染を合併し呼吸不全症状に陥ってしまうことが典型的な症状です出生後に症状やレントゲンなどの検査で診断することは極めて難しく、造影CTや血管造影といった人体に負担が大きい検査が診断に必要となります。
このため、命に係わる症状を発症してから発見し、高度の気管狭窄を合併したリスクの高い状況で手術をしなければならない症例も少なくありません。
※1 喘鳴:呼吸をするときに空気の通り道である気道が狭くなりゼーゼーなどと音がすること。
※2 陥没呼吸:呼吸をするときに空気の通り道に狭いところがあるとより強い呼吸運動が必要になり、胸の一部が陥没するようなる呼吸運動

【本件の診断・治療について】
1人目(男児)
遠隔紹介・診断:12月16日(妊娠30週目)
外 来 受 診:12月20日
出     産:1月29日
手     術:2月13日
退     院:3月3日

2人目(男児)
遠隔紹介・診断:12月25日(妊娠28週目)
外 来 受 診:12月27日
出     産:3月11日
手     術:4月3日
退     院:4月18日

今回の重複大動脈弓は心臓の外側である大血管の異常であり、さらに診断が難しい領域にあります。大血管を1本、1本丹念に描きだし、カラー画像と合わせて、気管を取り巻く大血管を描出し診断しました。胎児期は呼吸をしていないため症状が出現することはありません。しかし、出生後、呼吸が開始されると気管は日に日に太くなるため、気管を取り巻く血管による圧迫が強くなっていきます。症状が出現する頃は気管は細く狭まっており、その気管を治す手術も同時に行うとなると非常にリスクの高い手術になります。
正常な新生児は生後1か月間の成長は著しく、この間に進行する恐れがあると予測し、生後3週間で手術することを決定しました。
今回の症例はこのことを出生前に十分説明し、患者様の同意を得て症状が出現する前に手術を行うことができたため、気管を治す手術は不要となり血管を切断するだけで完治することが可能となりました。

【本件の背景】
先天性心臓病には出生後に重症化するものがあります。このような重症先天性心疾患は新生児死亡の20%を占めています。一方、生まれる前に診断することで致命的な病状が回避できることも明らかになっています。先天性心臓病の出生前診断は近年かなり進歩していますがすべての産科医が先天性心臓病の出生前診断を行うことは難しいのが現状です。
近畿大学では胎児心エコー診断装置を活用し、近隣の5施設と協力しインターネット回線を通して胎児心臓病の早期発見のための遠隔診断を500例以上行っています。
今回の重複大動脈弓は心臓の内部に異常がある心臓病と異なり、心臓の外側、つまり、大血管奇形を出生前診断することが必要です。このため、更に専門的知識と技術が必要で、出生前診断率は低いのが現状です。

【遠隔診断の方法】
地域の産科医師は胎児の心臓をエコーで描出し、さらにボタンを押すことでエコー装置が自動的に数秒間で胎児心臓の動画像を取り込むことができます。この過程に専門的技術は必要としません。
次に、取得した画像情報を専用回線(VPN回線)で近畿大学に送信します。このVPN回線はインターネットと異なり、画像情報を暗号化して送信します。また、指定された場所以外は受信できないため個人情報が外部に漏れる心配がありません。
胎児心臓病の診断では決まった5つの断面を描出し、心臓の異常を診断します。さらにカラー動画像も追加し詳細に診断しています。専門医でなければこの5つの断面をうまく描出することは難しく、しかも心臓が動いているのでさらに難易度があがります。大血管を1本1本丹念に描出し、カラー画像と合わせて診断することで気管を取り巻く大血管を描出し診断します。この画像情報は実際のエコー動画像とそん色なく、任意の断面を描出することができるため胎児心臓の専門医が遠隔診断することが可能となります。

【患者様コメント】
大阪府 泉佐野市 女性(34歳)
妊娠中の定期健診で息子の病気を発見していただきました。珍しい病気で症例数の少ない病気と聞き、不安な気持ちでいっぱいでした。また、産まれてからも元気な息子の姿を見て、本当に手術が必要なのか、生後数週間の新生児が全身麻酔の手術に耐えられるか、不安は尽きませんでした。しかし、その後のCTの結果などでやはり重複大動脈弓という病気だと改めて理解し、見た目では気づきにくい病気なのだと感じました。
息子の病気を妊娠中に早期発見していただいた事で、出産前から私自身も心構えはできましたし、NICUで専門の先生に診ていただける病院で出産を迎えられたので本当に良かったと感謝しています。
今後、私と同じような経験をされる方がいれば、妊婦で遠方の病院へ通う事は大変なので、遠隔で専門医に診ていただける場や手段がもっと広まっていけばいいなと思いました。

【地域医師の声】
エナ大通りクリニック(北海道) 院長 宿田 孝弘 先生
遠隔診療の拡大が国策として実践されています。そのような背景の中でSTIC ※3を用いた遠隔診断システムをいち早く構築され、関西エリアにおいてCDH ※4を見付け出している功績は少子化が進む現代においてはより大きなものであると思います。
北海道は日本の都道府県の中で最も面積の大きな地域です。その環境下での遠隔診療システム、特にレアな疾患の診断に関しての診断システムが身近に存在することは地理的な不利を一気に解消してくれるものと考えます。北海道や僻地に限らず大都会でも専門医への遠隔診断システムを介してのアクセスはこの上なく心強いものであり、診断に要する時間短縮や移動の労力の節約に大きく貢献するものと思います。
また、理論上日本全国の産科医療施設がこの遠隔診断システムに参加するならば1例の漏れもなくCDHを見つけ出す事が可能です。近畿エリアから関西エリアさらには日本全国へと規模を拡大する事が急務でありその事が産科医療に大きな福音を与えることは自明の理であります。
※3 STIC:胎児の心四腔断面像を描出し断面像周囲を立体的に動画として取り込むこと
※4 CDH:先天性心疾患

【担当医プロフィール】
近畿大学医学部小児科学教室 講師 稲村 昇(いなむら のぼる)
日本胎児心臓病学会理事長
生年月日 :昭和34(1959年)4月22日生まれ、59歳
学   位:博士(医学)
専門分野 :小児循環器学、胎児心臓病学
研究テーマ:胎児心臓病の診断と治療
著   書:編集 稲村 昇(平成28年)『胎児心エコーテキスト』 金芳堂 他
論   文:Kawamura H, Inamura N 他. 「Journal of Medical Ultrasonics」(2017)
      『Is retrograde blood flow of aortic isthmus useful for the prenatal screening of coarctation of the aorta by fetal color Doppler echocardiography? A preliminary study.』他
受賞歴  :第17回日本胎児心臓病学会 里見賞
      チーム医療部門大阪地区における胎児心臓スクリーニング(平成22年)、第39回大阪府医療功労賞先天性心疾患の出生前診断への貢献(平成23年)

【関連リンク】
医学部医学科 講師 稲村 昇(イナムラ ノボル)
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▼本件に関する問い合わせ先
総務部広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター リンク

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