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【文京学院大学オピニオンレター】なぜアメリカの銃規制は進まないのか

学校法人文京学園 2016年11月24日 11時00分
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文京学院大学 オピニオンレター Vol.14

提言者:鵜浦 裕 (外国語学部教授 専門:アメリカ研究 )
文学博士。主な研究テーマは現代アメリカ政治・社会問題。ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレイ校、ジョージタウン大学などで客員研究員。著書に、『進化論を拒む人々―現代アメリカにおける創造論運動』(勁草書房、1998年)、『チャーター・スクール アメリカ公教育における独立運動』(勁草書房、2001年)など。2016年11月20日には、『現代アメリカのガン・ポリティクス』(東信堂)を上梓。


■問われる銃社会の現状

2016年6月、フロリダ州で死傷者100名を超えるアメリカ史上最悪の銃乱射事件が起きました。その後も銃撃事件が後を絶たず、銃による犠牲者数は年間30,000人を超えます。2015年の統計によると、次点のドイツが年間800人ほどであり、同国の数値は異次元のものです。

銃による大量射殺事件が起きる度に国内では銃規制の議論が活発化するものの、政府が銃規制を進めることは難しい状況です。悲惨な事件が起こり続けるにもかかわらず、なぜアメリカは銃規制を進めることができないのでしょうか。それどころか逆に、なぜ銃所持の権利を拡大しようとするのでしょうか。その理由を求めて、建国から現在に至るまで、アメリカの歴史を振り返ってみたいと思います。そして、どうすれば犠牲者を軽減する対策を講じられるのか、またトランプ時代はどうなるのかを考えてみます。


■銃と共存してきた社会

アメリカでは、銃は建国以前から重要な役割を果たしてきました。宗教の自由や経済のチャンスを求めてヨーロッパからやって来た祖先たちにとって、銃は自衛とサバイバルに欠かせないものでした。彼らは銃を手に未開地を開拓し、獲物の獲得や害獣の駆除を行いました。インディアンへの対抗や奴隷制維持にも、銃は大きく寄与しています。加えて、イギリスとの独立戦争では銃を持った民兵による活躍が勝利に貢献し、イギリスからの報復に備え市民が自ら銃で武装する必要がありました。こうした事情から建国者たちは、銃の保有・携行を言論の自由などとともに、合衆国憲法が保障する人権の一つとして憲法に練りこみました。この権利は修正第2条として位置づけられ、銃器製造・販売の権利までカバーします。

しかし、修正第2条は言葉の曖昧さを巡り、これまで多様な解釈が積み重ねられてきました。以下、原文と日本語訳です。

 A well regulated militia, being necessary to the security of a free state, the right of the people to keep and bear arms, shall not be infringed.
 規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない。

例えば、「人民」とは誰を指すのでしょうか。集団か個人か、年齢、犯罪歴など細かい制限は原文では言及されていません。また、「武器」は何を意味するかも疑問が残ります。なにしろ銃だけでも、現代ではハンドガン(拳銃)、ショットガン(散弾銃)、ライフルがあるのです。起草以来230年ほどたち科学技術も飛躍的に発展した今、いかようにも解釈可能な合衆国憲法は様々な面から制度疲労の問題を抱えているようです。

修正第2条の解釈は長年議論の的でしたが、2008年、そこに一石を投じる出来事がありました。連邦最高裁判所が個人の銃所持の権利を認める判決を下したのです。原告の市民は首都ワシントンの治安の悪い地域に住んでおり、自衛で自宅でも銃を所持する必要性を訴えていました。当時ワシントンでは銃犯罪が多発し、1976年には個人の銃所持が禁止されましたが、この規制を連邦最高裁は違憲と判断しました。この判決は、2年後の「マクドナルド対シカゴ」判決と併せて、修正第2条が個人に武器保有を保障することを初めて明確にしたのです。

これによって修正第2条が存在する限り、連邦議会も州議会も銃保有・携行の権利を個人に100%禁止するルールを作ることはできなくなりました。ただし連邦最高裁の判決は、あくまで自宅内で銃を保有・携行する権利を認めたのみで、その他の細かい点については、州レベルで銃規制派とガン・ライツ(銃保有の権利を唱える)派が試行錯誤を繰り返しながら、立法や司法を通して、曖昧に表現された権利の詳細を一つずつ確定していくほかない状況です。


■各州の対応と利益団体の存在

この連邦最高裁の判決により、州レベルでは銃規制派とガン・ライツ派の論争が活発化しています。2012年、精神病歴のある犯人が小学校を襲撃したサンディフック小学校事件が起きました。そのコネティカット州では、遺族や支援グループを中心に銃規制強化を求め、州議会へのデモも行われました。議会も包括的な銃規制法を可決して、犯人が使用した銃器などを禁止し、精神病対策と学校セキュリティ強化のための予算措置を講じています。一方、2011年に同じく精神病歴のある犯人の銃撃事件を経験したアリゾナ州では、事件以降、銃器の売上が増加し銃弾の買占め現象とともに、銃の隠匿携行(concealed carry)を認める法案が可決されています。

このように銃撃事件を経験したにもかかわらず、2州の対応は逆行しコネティカット州は銃規制を強化、アリゾナ州はガン・ライツを拡大しています。銃撃事件のインパクトは否定できませんが、必ずしも銃規制を促すわけではないのです。結局、もともと規制派が多く民主党が強いブルー・ステイトでは銃規制が強化され、ガン・ライツ派が多く共和党が強いレッド・ステイトでは規制緩和が進むにすぎません。2016年11月の大統領選挙で、カリフォルニア州は銃弾購入の際にも犯罪歴チェックを義務づけました。しかし、ブルー・ステイトが進める規制強化は、近隣のレッド・ステイトが進める規制緩和によって実質的に骨抜きにされるのです。

銃を巡る対立の背景には、影響力の高い利益団体の存在も看過できません。全体をみると、銃の保持を認める修正第2条があるためガン・ライツ派の団体が優位に立ち、なかでも全米ライフル協会(NRA)は別格の存在です。NRAは1975年に組織内に政治部門を設立し、銃規制への反対や修正第2条の擁護を唱えています。「銃が人を殺すのではなく、人が人を殺すのだ」というスローガンを掲げ銃による自衛の権利を主張し大人に限らず子どもにも銃を扱う際の責任感、倫理観などを教える銃教育を精力的に行っています。NRAなどガン・ライツ派の団体は啓発活動によってユーザー拡大、ガン・カルチャーの維持に努めています。

また、400万人を超える会員の動員力とガン・インダストリーからの潤沢な資金を有するため、その政治的影響力も強く、1990年から20年間で政治運動に約1億ドル(その内、政治運動に約2,500万ドル、ロビー活動に約7,500万ドル)を支出しています。行政に限らず大統領選挙にまで影響を及ぼすのです。他方、NRAに匹敵する団体は今のところ銃規制派にはありません。


■現状の改善に向けて

銃による犠牲がピークに達しても、銃規制派とガン・ライツ派は妥協点を見つけられず政治的解決の見通しはたっていません。しかしながら、現状の改善に向けて考えうる対応策を少し紹介します。

まず、これまで銃暴力以外の分野で成功実績がある連邦機関の公衆衛生アプローチは有効策の1つです。例えば、タバコ自体を禁止せず禁煙率を半減させることに成功した課税導入や、車を減らすことなく自動車事故死の減少に寄与した技術革新や交通法規などが挙げられます。特に自動車事故は、シートベルトやエアバッグをはじめとする技術革新や、信号や車線、道路障壁など道路改良により、人口10万人あたりの犠牲者数は1970年の26人から2014年の10人へと下がり、銃による犠牲者の割合を下回っています。銃も同じように、所有者認証システムや誤作動防止の機能を備えたスマート・ガンの技術開発や精神病治療に十分な予算をつけて調査・研究を進め、ガン・ライツを侵害せず犠牲者を減らす解決策が見つかるかもしれません。

また、銃規制派とガン・ライツ派が一堂に会し共有できる妥協点を模索し続けることも必要です。現状は、銃規制派が独断的に銃規制を目指すため、ガン・ライツ派からの妨害を受け、効果的な進展を期待できません。ガン・ライツを守る目的も組み合わせることで、両派が合意できる調査・研究も期待できるかもしれません。このような協調の姿勢が両者の間に必要なのです。


■トランプ政権のガン・ポリティクス

2016年11月の大統領選挙の結果は“Trump TV Reality Show”セカンド・シーズンの開幕に終わり、銃問題の改善への道は一層険しくなりました。概して、民主党は銃規制を進め、共和党はガン・ライツを擁護する姿勢です。選挙運動期間中、民主党候補ヒラリー・クリントンは銃購入時の犯罪歴チェックの徹底など常識的な銃規制を訴えただけでした。それでもドナルド・トランプは、市民から銃を奪おうとしているとヒラリーを非難し、自分こそ修正第2条の擁護者だと主張したのです。その彼が当選した以上、ガン・ライツ派は安泰です。共和党が連邦上下両院、州知事職、州議会などの過半数を完全掌握したことを踏まえると、この先しばらく銃規制立法が進む兆しは皆無です。しかしそれは同時に、銃撃事件がいつ起きてもおかしくない状況が続くことを意味しているのです。またヒラリー敗北で、現在4対4の連邦最高裁判事の欠員にリベラル派の人間を指名し、銃規制のきっかけとする一縷の望みも立ち消えました。それどころか、人工中絶を女性の選択権と認めた「ロー対ウェード」判決(1973年)さえ覆される可能性が現実味を帯びてくるかもしれません。ヒラリーは「あと一歩で初の女性大統領になれた人」として記憶され、民主党にとってその代償は大きく、長く尾を引くことでしょう。

いずれにしても、銃を巡る論争はこれまでと変わらず平行線をたどるのではないかと思います。なぜなら、仮に民主党が銃規制を進めようとしても、法案は共和党が支配する連邦議会や多くの州議会で容易にブロックされるでしょう。万が一法案が成立しても、規制を相殺する抜け道が必ず用意されているはずです。

こうした行き詰まりの状況は、銃を持つ方が安全だと考える過半数の有権者に支えられています。そのメンタリティの深層には建国時から受け継がれてきた自衛ための武器所持への本能的な執着があるのです。銃による暴力を防ぐには、銃で対抗するしかないのでしょうか。これこそ、アメリカで銃規制が進まない最大の理由であると思います。そのような執着を持たずとも、日本は安全に生きていける国であり続けてほしいものです。



<文京学院大学について>
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