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コレステロール吸収に関与する蛋白質の機能を解明 -- 非アルコール性脂肪肝炎と動脈硬化の革新的治療薬開発に期待 -- 大阪大学

大阪大学 2016年07月14日 08時05分
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大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学/保健センターの小関正博助教らによる、生命科学・医学系分野の分子血管学、肝臓学、脂質代謝異常、分子病態学、分子遺伝疫学に関する研究成果。


<研究成果のポイント>
■蛋白質TTC39Bの機能を阻害すると、コレステロール・酸化ステロールの吸収や蓄積が抑制され、非アルコール性脂肪肝炎※1や動脈硬化が改善することを解明
■現在非アルコール性脂肪肝炎に有効な治療薬はなく、新治療薬開発が待ち望まれている
■非アルコール性脂肪肝炎と動脈硬化の両方に有効な革新的治療薬開発に道筋

<概要>
 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学/保健センターの小関正博助教、米国コロンビア大Alan R. Tall教授らの研究グループは、蛋白質TTC39Bの機能を阻害すると、コレステロール・酸化ステロールの吸収・体内への蓄積が抑制されることを、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や動脈硬化症のマウスモデルを用いて、世界で初めて明らかにした。(図)
 これまで肝硬変・肝癌の主たる原因であったウイルス性肝炎が新薬の市販により治癒できる時代になったが、一方で肥満・内臓脂肪蓄積によるメタボリックシンドロームに関連して、肝臓に異所性脂肪が蓄積した状態である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が肝硬変・肝癌の原因としてクローズアップされてきており、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に有効な新治療薬開発が待ち望まれている。
 今後、TTC39B阻害による非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と動脈硬化症の両方に有効な革新的治療薬開発に道筋がつくことが期待される。
 本研究成果は、英国科学誌「Nature」に、7月7日(木)午前2時(日本時間)に公開された。

<研究の背景>
 近年の新薬の登場により、肝硬変・肝癌の主たる原因であったウイルス性肝炎は治癒できる時代になった。一方で肥満・内臓脂肪蓄積によるメタボリックシンドロームを基盤として、肝臓に異所性脂肪が蓄積した状態である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が肝硬変・肝癌の原因としてクローズアップされてきており、非アルコール性脂肪肝炎(NASH】に有効な新治療薬開発が待ち望まれている。
 TTC39Bは、ヒトのゲノムワイド関連解析※2において脂質代謝(血清中LDLコレステロール値と総コレステロール値)との関連が示唆されていたものの、その機能について一切明らかになってはいなかった。
 脂質代謝の分子メカニズムについては、2000年ころまでに主要な代謝経路を構成する蛋白質の同定がなされ、それに基づいた薬剤開発が試みられたが、既知の知見に基づいた創薬は限界に達していた。一方で、2008年ころから網羅的遺伝子解析手法であるゲノムワイド関連解析という統計遺伝学的な手法を、生活習慣病である脂質異常症に適応する試みがなされ始めた。この流れの中で、TTC39Bについては、2009年にマサチューセッツ総合病院のKathiresan教授らが、30の新規脂質関連遺伝子のうちのHDL-コレステロール関連遺伝子として初めて報告したが、それまでに一切の研究がなされておらず、発現臓器、発現調節、標的蛋白質など、まったく手掛かりが無い暗中模索の中での研究となった。その後、2010年にも新たに95の脂質関連遺伝子についての追加報告がなされたが、1つ1つの遺伝子について最適な解析方法が異なるなど、その解析の困難さから現在でも多くの蛋白質の機能が明らかになっていない。

<研究の内容>
 蛋白質TTC39Bの機能を阻害した際の分子メカニズムを解析するために、ノックアウトマウスを作成した。食餌により非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を誘発するマウスモデルにおいて、TTC39Bノックアウトマウスではコレステロール・酸化ステロールなどの蓄積、炎症細胞の浸潤が抑制された。動脈硬化モデルであるLDL受容体ノックアウトマウスとのダブルノックアウトマウスにおいても、TTC39Bノックアウトマウスにおいて動脈硬化病変の進展、脂肪肝が抑制された。TTC39Bを阻害した状態では小腸上皮においてコレステロール・酸化ステロールの吸収、肝臓・血管をはじめとする体内への蓄積の両方が抑制されることが分かった。
 分子メカニズムとしては、TTC39Bを阻害すると、LXRα※3のユビキチン化※4が抑制されプロテアソーム※5による分解が減少した結果、LXRα蛋白量が増加、標的遺伝子が活性化していることが分かった。これまで、LXRαを活性化させるために合成された化合物では、SREBP1c※6を介した脂肪肝が問題になっていたが、TTC39B阻害によるLXRα活性化では、フォスファチジルコリン※7がSREBP1cのプロセシング※8を阻害することから、脂肪肝生成を促進しないことを非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や動脈硬化症のマウスモデルを用いて解明した。

<本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)>
 本研究成果は、TTC39B阻害薬が現在、有効な治療法の無い非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と動脈硬化症の両方に対して、世界初の治療薬となりうることを示している。阻害するターゲットが判明していることから、低分子化合物や核酸医薬による早期のTTC39B阻害薬の開発、臨床応用が期待される。

<特記事項>
 本研究成果は、2016年7月7日(木)午前2時(日本時間)に英国科学誌「Nature」(オンライン)に掲載された。
 本研究成果は、2016年7月14日(木)午前8時30分から開催される、第48回日本動脈硬化学会総会・学術集会(東京)シンポジウム3にて発表される予定。

タイトル:“TTC39B deficiency stabilizes LXR reducing both atherosclerosis and steatohepatitis”
著者名:Joanne Hsieh*, Masahiro Koseki*, Matthew M. Molusky, Emi Yakushiji, Ikuyo Ichi, Marit Westerterp, Jahangir Iqbal, Robin B. Chan, Sandra Abramowicz, Liana Tascau, Shunichi Takiguchi, Shizuya Yamashita, Carrie L. Welch, Gilbert Di Paolo, M. Mahmood Hussain, Jay H. Lefkowitch, Daniel J. Rader and Alan R. Tall
*These authors contributed equally to this work
Corresponding authors: Masahiro Koseki or Alan R. Tall

▼本件に関する問い合わせ先
 大阪大学 大学院医学系研究科 循環器内科学/保健センター
 助教 小関正博(こせき まさひろ)
 TEL: 06-6879-3633
 FAX: 06-6879-3634 
 E-mail: koseki@cardiology.med.osaka-u.ac.jp

<研究者のコメント> 
 2010年にNature誌に発表されたヒトのゲノムワイド関連解析の論文では、血中総コレステロール値、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値に関連する、95種もの未知の遺伝子(蛋白質)が報告されましたが、その後6年がたった今でも、ほとんどの遺伝子について機能解析を成し遂げた報告はなされていません。既知の蛋白質を足掛かりにした研究とは異なり、その蛋白質が活躍する組織はどこなのか、関係する蛋白は何なのかなど、無限のわからないことに対して無限のアプローチの方法があり、その解析は困難を極めました。しかしながら、既知ではない、想像もしないようなメカニズムだからこそ、新規治療薬開発につながる知見につながったともいえ、辛抱強い基礎研究の重要さがあらためて痛感されました。

<用語説明>
※1  非アルコール性脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis:NASH)
 明らかな飲酒歴が無い脂肪性肝疾患のうち、組織学的に壊死や炎症細胞浸潤などの肝炎像を呈する疾患。 肝癌発症の原因疾患の一つと考えられている。 近年増加しており、治療薬の開発が急がれている。

※2  ゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study;GWAS)
 ゲノム全体をほぼカバーするような1000万カ所以上の一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)から、50万カ所程度の遺伝子型を決定し、SNPの頻度(対立遺伝子や遺伝子型)と、疾患や量的形質との関連を調べる遺伝統計学的手法。

※3  肝臓X受容体(Liver X Receptor:LXR)
 肝臓X受容体は、コレステロール代謝に関する核内受容体の1種で、同じ核内受容体であるレチノイドX受容体(Retinoid X Receptor、RXR)とヘテロダイマーを形成し、酸化コレステロールが結合して活性化される、脂質代謝において重要な転写因子である。 LXRαおよびLXRβがある。

※4  ユビキチン化
 ユビキチンという76個のアミノ酸からなるタンパク質による他のタンパク質の修飾のことで、不要になったタンパク質を細胞から除去するための仕組み。

※5  プロテアソーム
 ユビキチン標識の結合したタンパクを分解する、タンパク分解酵素複合体。

※6  SREB(Sterol regulatory element-binding protein)
 細胞内の転写因子。SREBP1 はおもに脂肪酸合成、SREBP2 はコレステロール合成に関与する。 LXRの活性化により発現が上昇する。

※7  フォスファチジルコリン
 リン脂質の一種で細胞膜の主成分。

※8  プロセシング
 生合成直後の不活性なタンパク質が、種々の修飾を受けてはじめて活性なタンパク質へと変化(成熟)する過程。

【リリース発信元】 大学プレスセンター リンク

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