Google Gearsの課題と可能性--アプリ開発の現場から

 Googleが提供している「Google Gears」は、オフライン状態でもブラウザ上でウェブアプリケーションを利用できるようにする技術だ。ウェブアプリケーションの可能性を広げるものとして注目されているが、オープンソースとして無償でコードが公開されているにも関わらず、サードパーティの対応はまだまだ少ない。Google Gearsが普及するための課題と可能性を探った。

 Google Gearsは、本来はインターネットに接続されたオンライン状態でないと利用できないウェブアプリケーションを、オフライン状態でも利用できるようにするブラウザの拡張機能。JavaScriptで書かれたプログラム向けにAPIを公開し、ウェブアプリケーションのデータをクライアントPCに保存することでオフラインでも利用できるようにしている。

 たとえば、インターネットに接続できる環境でGoogle Gearsからウェブアプリケーションを起動しておけば、その後インターネットに接続できない場所に移動しても、オンライン状態と同じようにウェブアプリケーションが利用できる。オフラインで作業した内容はクライアントPCに保存され、次回オンラインになったときにサーバとデータを同期する。

 GoogleではGoogle Gearsをオープンソースとして無償でソースを公開しサードパーティの利用を促している。しかし、実際にGoogle Gearsに対応したサービスを提供するベンダーは少ない。Google Gearsサイトにしても、いくつかのサンプルとブログやフォーラム、FAQがあるのみで、しかも非常に見つけにくい場所にある。

 現在のバージョンが開発者向けのベータ版であるという点が1つの理由だろう。ただ、そういった困難な中でもGoogle Gearsへの対応を進めている企業もある。Google Gears対応サービスを開発し、11月にもリリースする予定のアセントネットワークスに話を聞くことができた。

Google Gearsへの対応は苦労の連続

 アセントネットワークスは、ソーシャルニュースサービス「Choix」、ミニブログサービス「Haru」など、多くのウェブサービスを提供しているベンチャー企業。コンシューマ向けだけでなく企業向けのサービスも提供している。

 同社6番目のサービスとして、アセントネットワークスではGoogle Gearsと同様にオフライン状態でも利用できるウェブサービスの開発を2007年初頭から進めていた。企業向けのWikiサービスで、通勤時間や移動時間の長い人が、移動中でも利用できることを目指していた。

 このため、開発においては、

  1. オンラインとオフラインで同一の環境を提供すること
  2. ユーザーの負担を考え、インストールが不要なものにすること
  3. オンラインとオフラインの切り替え(データの同期)を素早く行うこと
  4. OSやブラウザを問わず利用できるようにすること
の4点を重視していたという。

アセントネットワークス代表取締役社長の朴世鎔(パク・セヨン)氏 Google Gearsへの対応は良いJavaScriptの勉強になったと話す朴氏

 そのフレームワークを制作しているところで、Google Gearsの発表があった。「やられたというより、同じ考えを持ってシステムを作っている人がいたことで励まされた。Googleが提供するなら今後、この技術が標準になるのではないかと思い、それならGoogle Gearsのコンポーネントを使った方が効率的で、将来的にもいいだろうと考えて、発表後すぐに対応を決定した」とアセントネットワークス代表取締役社長の朴世鎔(パク・セヨン)氏はいう。

 かくしてGoogle Gearsに対応させるための開発が始まったが、一筋縄ではいかなかった。例えば、コマンドにコメントがきちんと書かれておらず、その内容が分からなかった。また、Google Gearsそのもののエラーがあり、ブラウザやJavaScriptの設定など、ユーザーの環境によって再現したりしなかったりした。しかもエラーコードのみが表示されるため、何のエラーなのか内容がわからないことが多かった。

 「Google Gearsのサイト内には、開発者同士が質問しあえるコミュニティがある。ここを世界で一番利用したのは、おそらく私たちだっただろう。何しろ、理論的には間違っていないはずなのに、データのダウンロードに時間がかかるなどパフォーマンスが上がらなかった。ただ、コミュニティでは十分なアドバイスを得ることができた」

 アセントネットワークスでは当初、クライアント、サーバともにRuby on Railsで開発していたが、パフォーマンスが上がらないため当初のプログラムを破棄し、クライアント側のソフトを全てJavaScriptで作り直した。開発を始めて2カ月程度経過した時点での判断だ。しかし、「結果的にはよかった」と朴氏は言う。開発スタッフは4名だったが、JavaScriptでここまでできるのかと、大いに勉強になったという。

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