2020年を迎えた。あやかは悩んでいた。軸足であるエンジニアとしてもっと成長するにはどうしたら良いのだろうか。日々の情報収集や技術力の向上には努めている。しかし、それだけでは何か物足りないと漠然と感じていたのだ。
そんな時、あやかの目に飛び込んできたのが、様々なクラウドサービスで企業の働き方をサポートする株式会社 USEN Smart Worksの告知だった。「営業部のインターン大募集! ビジネス版LINE『LINE WORKS』の提案を経験してみませんか?」
営業は企業の最前線でエンドユーザーの声を直接ヒアリングし、ニーズに合った商品を提案販売する。エンドユーザーの声を直接聞く機会を増やせばエンジニアのキャリアにもプラスになると感じた。「これだ!」とひらめいたあやかは、すぐに行動を起こした。
すでにエンジニアとしてのキャリアを持つあやかは、持ち前の熱量で無事インターンとしてUSEN Smart Worksの営業部に配属されることとなった。
新しい挑戦がはじまる。出社初日の緊張気味のあやかに「では早速研修を始めましょう」と声をかけたのは、なんと同社の代表取締役社長 大下幸一郎氏だった。面接でのあやかの熱弁が社内で話題となり、社長自ら研修を担当してくれることになったのだ。
「よ、よろしくお願いしますっ!」 こうしてあやかの営業部員としてのキャリアが始まった。
あやかが担当する製品は、ビジネス版LINEの位置づけにある「LINE WORKS」だ。いまや国内人口の65%がプライベートで使っているメッセンジャーサービス「LINE」のUIを踏襲したビジネス向けアプリで、業務用コミュニケーションツールとして企業で利用するというものだ。
「LINEなら私も毎日使っています!「LINE WORKS」は別のサービスなんですか……?」と疑問を投げかけるあやか。
「そう。プライベートで使っているLINEの機能に加えて、仕事で活用できる充実した機能を揃えたサービスなんだ」と、大下氏は解説を始めた。
「LINE WORKSはね、LINEのメッセージ機能や通話機能はもちろん、メール、カレンダー、アドレス帳などのビジネスに必要な機能を統合したサービスで、メールからトークに移動したり、社員の予定表を参照してミーティングを登録したりと、各サービスがシームレスに連携しているんだ。それに、プライベート用のLINEは電話番号やIDでお互いを探してつながって初めてメッセージをやり取りすることになるけど、LINE WORKSに登録されている、社内のアドレス帳から社員を検索してすぐに連絡できるんだよ」(大下氏)
「それは便利そうですね!どうやって使い始めるんですか?」と、早速LINE WORKSに興味が湧いたあやかは質問する。
「企業やチームなどの組織のIT管理者などが導入し、各社員にアカウントを付与することになる。個人用のメッセンジャーは、業務で利用しないようにとガイドラインを設けている企業も多いだろう? 個人用メッセンジャーはモニタリングが難しく、アーカイブや監査もされていないためだ。その点、LINE WORKSを利用すれば仕事のやりとりとプライベートのLINEとの使い分けができるし、企業としてモニタリングや監査、アーカイブも可能だ。セキュリティ面では、ウイルスやマルウェアを検出できることはもちろん、ネットワーク暗号化にも対応、さらには国際的なセキュリティ標準の認証を取得するなど、業界トップレベルのプライバシー保護機能やセキュリティ対策が施されているんだ」(大下氏)
メモを取りながら話を聞いていたあやかは、大下氏がデモを始めた瞬間驚いた。「これって…… LINEそのものじゃないですか!」
LINEそのもの――これこそがLINE WORKSの売りである。普及率の高い個人用メッセンジャーのLINEとまったく同じ感覚で使えるのだ。「このLINEっぽさのおかげで、他のメッセンジャーサービスと比較してもかなり利用率が高い。多くの企業から使いやすさを評価されて、その証拠にサービス開始から3年で10万社を超えたんだ。」という大下氏の言葉にも納得だ。企業の中には、若いアルバイトから高齢者までさまざまな人材が存在し、そのITリテラシーも一定ではない。それでも、年代や業界を問わず普及しているLINEと似ているのであれば抵抗なく使える人も多く、業務用ツールとしての教育も最小限に抑えることができる。
「あの…… LINE WORKSでもスタンプは使えるんですか?」 普段スタンプを多用するあやかは恐る恐る尋ねた。
「LINE WORKSのオリジナルスタンプやLINEキャラクターとして有名なブラウンやコニーのスタンプも利用できるよ。文字で返事をするより手軽だし、親密さを感じることもできるから、やはりスタンプは必要だよね」と話す大下氏に、あやかは安堵の表情を見せた。
大下氏は続ける。「LINE WORKSには、個人用LINEにはないビジネス用途ならではの機能があるんだ。そのひとつが、グループトークで既読メンバーが確認できること。個人用LINEのグループトークでは、トークの既読数しか表示されないだろう? でもLINE WORKSなら、グループ内で誰がトークを読み、誰が読んでいないのかまで確認できるんだ」
「それは便利ですね!誰が読んだかわかるのは安心しますね!メールでは送っても読んでもらったのかわからないので、結局確認してしまうことってありますよね。」
こうしてあやかは徐々にLINE WORKSの特徴をみるみる吸収していった。
「そろそろ大丈夫そうかな?」と、大下氏はあやかに問いかけた。「はい! LINE WORKSの全体概要はLINEを使っている私の頭にすんなり入ってきました」とあやか。「では、営業は実践が大事なので、早速お客様を訪問してみよう」「……えっ!?」
チャレンジ精神旺盛なあやかも、さすがに不安の表情を隠せない。その様子を見た大下氏は、「大丈夫。今日訪問するお客様のクリーク・アンド・リバー社は、すでに特定の部署でLINE WORKSを導入済みなんだ。今回はその活用状況を確認し、もしチャンスがあれば新たな提案ができればという話になっているんだ。もちろん、僕もサポートするので安心して」とあやかに説明した。「わかりました。がんばってみます!」
クリーク・アンド・リバー社は、クリエイターの転職やキャリア支援を行うエージェンシー事業と、制作などを請け負うプロデュース事業、著作権や知的財産の収益化をサポートするライツマネジメント事業という3つの事業を展開する企業だ。手掛ける分野は、映像、ゲーム、Web、建築、ファッションなど15分野と幅広い。
「クリエイターの能力を最大限に引き出し、クライアントのさらなる価値創造に貢献することを事業目標としている会社なのね。取引先が約5000社にものぼっていて、私の活動領域とも重なっていそう。親しみが湧くわ」。同社についての予習に余念がないあやかはつぶやいた。
「今日ミーティングの時間をくださるのは、クリエイター・エージェンシー・グループ セクションマネージャーの吉田悠平さんだ」と大下氏は切り出した。「吉田さんの所属するクリエイター・エージェンシー・グループは、デザイナーやディレクター、エンジニアなど、クリエイターと呼ばれる人たちのキャリア支援や転職支援を担当していて、すでに同部門でLINE WORKSを導入しているんだ」
吉田氏が笑顔で2人の前に現れた。どうやらLINE WORKSを気に入ってくれているようだ。和やかな雰囲気に、あやかはほっと胸をなでおろした。
吉田氏のグループでは、転職支援にあたって求職者と連絡を取る際、以前はメールや電話を中心としたコミュニケーションを行っていた。しかし、働きながら転職活動をする人が多いため、日中電話をしても入れ違いになったり、メールの確認が遅くて時間差が生じたりして、企業との面談設定が迅速にできないケースが多かったという。
そこで導入に踏み切ったのがLINE WORKSだ。LINE WORKSは基本的には社内向けのツールだが、外部のLINEユーザーともつながることが可能なためだ。吉田氏のグループではLINE WORKSを通じて求職者とLINEで連絡を取り合っており、「LINE WORKSの導入後は求職者とのコミュニケーションが驚くほどスムーズになりました」という。
「UIがLINEと同じなため、社内で使い方を教育することはありませんでした。求職者に新たなアプリをインストールしてもらう必要がない点も良かったですね。他のメッセンジャーも検討しましたが、やはり求職者がすでに利用しているアプリをそのまま使ってもらえることが、導入の大きなきっかけになりました」と、吉田氏は導入時を振り返る。
「LINEはほとんどの求職者が利用していますし、公式アカウントを登録する感覚で使ってもらえます。日常のLINEのやり取りと同じようにこちらのメッセージに返信してくれるため、求職者からのレスポンスがとても早くなりました。ちょっとした確認事項や報告がある時に求職者のLINEに連絡すると、すぐに返事が返ってきます。スタンプを使うことでお互いの心理的な距離も縮まりますし、気軽にやり取りできるため、より具体的な支援ができるようになりました」(吉田氏)
LINE WORKSを絶賛する吉田氏の様子に、あやかはツールの良さをさらに実感した。「ありがとうございます! LINE WORKSをそこまで活用していただいて、うれしい限りです!では、思い切って全社導入してみてはいかがでしょう!? 社員間のコミュニケーションツールをLINE WORKSに集約するのです!」 勢いづいたあやかの口から突然大胆な提案が飛び出した。あやかをサポートするはずだった大下氏も思わず「お、おい……。いきなりそれは……」と及び腰だ。
ところが吉田氏は、「それはいい考えですね!では、私の上司の渡辺に会われますか?」と前のめりの反応。実は吉田氏自身、LINE WORKS導入のメリットの大きさを実感したことから、全社導入を期待していた1人だったのだ。
そこに吉田氏の上司、クリーク・アンド・リバー社 クリエイター・エージェンシー・グループ執行役員の渡辺和宏氏が会議室にやって来た。
挨拶を終えたあやかは、渡辺氏にこう切り出した。「渡辺さんはプライベートでLINEをお使いですか?」「もちろん使っていますよ」と渡辺氏。「ちょっとしたことでも手間なく連絡できるので、日常のコミュニケーションツールとしてとても便利ですよね」。笑顔で返答する渡辺氏にあやかも笑顔を返し、「そうですよね。もはや利用しない生活が考えられないですよね。」と同調する。
「では、業務上ではどのようなコミュニケーションツールをお使いでしょうか?」と、あやかは続けて聞いた。
「部署内ではメールとLINE WORKSが中心です。当初は外部との連絡手段として導入したLINE WORKSでしたが、蓋を開けてみると社員間のコミュニケーションツールとしても便利です。ちょっとした業務上の報告や連絡はチームごとに作成したグループでやり取りしていますし、気になった業界ニュースなどもホーム(掲示板機能)を使って全メンバーに共有するようになりましたしね。LINE WORKSのおかげで社員間のコミュニケーション量が増え、情報をストックする場としても機能していますよ」(渡辺氏)
どうやら渡辺氏もLINE WORKSにかなりの好印象を抱いているようだ。あやかは微笑んだ。「他部署はLINE WORKSを導入されていないのですよね。他部署とのコミュニケーションには何をお使いですか?」 さらに渡辺氏に問いかけた。
「他部署はそれぞれ異なるコミュニケーションツールを導入していて、それに合わせてこちらも複数のツールを使い分けたり、メールでやり取りしたりしていますよ」「それは…… 大変そうですね」と、同情した表情を見せるあやか。
「では、全社でコミュニケーションツールを統一してみてはいかがでしょうか。貴社内で実績がありますし、多くの人が使い慣れたLINEと同じUIを持つLINE WORKSであれば、みなさんに抵抗なく受け入れてもらえると思いますよ」。あまりにも自然な流れで提案するあやかの姿に、サポート役の大下氏はそのままあやかを見守ることにした。
「すでにトーク機能だけでなく、ホーム機能もお使いとのことで、グループチャットと同様、お知らせも誰がきちんと読んでいるか既読確認できる点が便利ですよね。メーリングリストの文化から脱却できない人がいる場合は、掲示板の名前をメーリングリスト名にすると自然に移行できるのでオススメです。電話帳もあわせてお使いいただくと、アプリだけで社員名簿としてもお使いいただけます」
あやかは研修で学んだことに加え、お客様の状況にあわせた提案を心掛けた。そろそろ打ち合わせの終了予定時刻だ。「渡辺さん、突然の全社導入の提案となりましたが、今後ご検討いただけそうでしょうか。」大下氏が最後に切り出した。
「池澤さん、説得力のある提案をありがとうございます」と、渡辺氏もあやかの提案に心を動かされた様子を見せた。「まずは私が担当する複数の部署での導入を前向きに検討した上で、その先の全社導入も視野に入れたいと思っています」
「ありがとうございます」と落ち着いた声で返答したあやかは、心の中で「やったー!」と小躍りした。
クリーク・アンド・リバー社を後にしたあやかと大下氏は、ハイタッチであやかの営業職デビューを祝福した。「いやぁ、僕の出る幕はなかったね。見事な提案だったよ。お客様の感触も良かったようで一安心だ。おつかれさま!」と大下氏も上機嫌。あやかは、「慣れ親しんでいるLINEがビジネス用になったプロダクトだったので、提案しやすかったんです。研修を通じてLINE WORKSの良さが実感できただけでなく、お客様の活用法を聞いていると、もっと多くの部署で使ってもらわなくちゃもったいないって気持ちになってきて」と話す。どうやらあやかには、営業職としての素質も備わっていたようだ。
あやかのインターン初日は無事終了した。お客様の声を直接聞くことができたあやかは、営業のだいご味を味わえた気がした。この経験は今後エンジニアとしてのキャリアにも活かしていけると確信し、心地よい疲れとともに帰路についた。