新発想のアプローチ『ツインシステムユニット』によるヘッドホン革命

マルチウェイのスピーカーの構造からヒントを得た新発想のヘッドホン

　理論的には「トップマウント構造」の利点は分かっていた。だが、この極めて小さいユニットは、日本を代表するオーディオメーカーであるビクターだからこそ可能になった技術だ。

　そして、この春、ビクターは、またもやヘッドホンの新機軸となるヘッドホンを発表した。
　それが今回紹介する『HA-FXT90』だ。注目は、低音域用と中高音域用の2つのドライバーを並列に配置し、一体化した業界初の「ツインシステムユニット」という構造を採用していることだ。

ビクター
インナーイヤーヘッドホン『HA-FXT90』
オープン価格（予想実勢価格約10,000円）
４月下旬より発売予定

インナーイヤー型のユニットベース部に二つのダイナミック型のドライバーを収納している。

　「ツインシステムユニット」はスピーカーの構造をヒントに生みだされた。スピーカーを想像してと言われて、大部分の人が頭に浮かぶのは２つのユニットが上下に配置されたデザインだ。このような形式のスピーカーは、２ウェイと呼ばれる形式で、高音域用と中低音域用にユニットが分けられている。

　同じように、ヘッドホンでも、複数のドライバーを、並列に配置し、それぞれに最適化された音を重ね合わせたら、パワーと繊細感を両立し、厚みのあるスケール感あふれた音を再生できるはず。

　そのように考え、試行錯誤の末、ビクターの導き出した答えが今回発表された『HA-FXT90』の「ツインシステムユニット」なのだ。

　「ツインシステムユニット」では、低音域と中高音域に、それぞれチューニングしたドライバーを並列に配置、一体化し、小さなインナーイヤーヘッドホンに組み込んでいる。理屈ではわかるが、サイズが大きくなりがちなダイナミック型のドライバー2基を、インナーイヤーヘッドホンのハウジングの中に入れ込むのは、とても難しい。

　これまでも、ダイナミック型やバランスド・アーマチュア型などのヘッドホンで、複数のドライバーを搭載したヘッドホンは存在するが、ボディのサイズが大きめであったり、音の迫力が不足気味であったりと「迫力あるサウンド」と「快適な装着感」の両立は課題であった。ビクターは、「ツインシステムユニット」によりこれらを両立させたのである。

　※ダイナミック型＝ダイアフラム（振動板）を磁力によって前後に動かすことで音を発生する方式。スピーカーと発生原理は共通。

　※バランスド・アーマチュア型＝アーマチュアというＵ字型の薄い金属に細い棒を取り付け、その先に振動板をくっつける方式。アーマチュアを２組のコイルと磁石で挟みこみ、それぞれのコイルに電流を流すことで、アーマチュアが上下に振動し、その振動が振動板に伝わって音を発生させる。

　理論的にはいい音になるに違いない「ツインシステムユニット」だが、実際に製品化できたのは、それより前にビクターが開発した「トップマウント構造」でコンパクトなドライバーユニットの開発ができていたからこそ。これまで培った、ドライバーの小型化技術というお家芸が生み出した画期的なヘッドホンの構造なのだ。

　また、一般的な２ウェイ・スピーカーではツイーターとウーファーで異なる素材が使われることが多い。『HA-FXT90』の「ツインシステムユニット」でも、低音域用と中高音域用で、振動板の素材を変えている。

　注目すべきは、中高音域用の振動板に採用された、カーボンナノチューブ素材だ。高剛性で固有振動数が高いため、音の反応が速く、音響特性に優れていて、振動板としては理想的な素材。ひずみを抑えつつ、クリアで伸びのある中高音域を再現できる。

低音域と中高音域の特性に合わせてチューニングされた2つのドライバーを、メタルユニットベース内に並列配置し一体化した新構造。

「ツインシステムユニット」のユニットベースには、制振性に優れた金属素材を採用。不要な振動を抑えてくれる。上部が中高音域用のカーボンナノチューブ振動板。下部は低音域用のカーボン振動板。

レッドカラーの編組コードとハウジングを採用した「HA-FXT90LTD」も、数量限定で同時発売される。

　低音域のみならず、中高音域でも、それぞれ存分なポテンシャルを発揮し、厚みのあるスケール感あふれた音を再現できる業界初の「ツインシステムユニット」。そんな新発想の音響技術を搭載したヘッドホンが生み出す革新的な音はどうなのだろうと、想像するだけでワクワクしてくる！

　では、さっそく実物のチェック……と思ったが、画期的なヘッドホンの構造「ツインシステムユニット」を説明するのに文章を取りすぎた。次回は『HA-FXT90』の試聴を通し、その音質について、レポートしていこう。