トレンドの裏を読む、一歩先行く企業になるためのIT活用

岩上 由高 (ノークリサーチ)2011年02月22日 10時00分

1.クラウドは「目に見えないモノ」からまず着手せよ

 「クラウドを活用することで、IT関連のコスト負担が軽減できる」と考える中堅・中小企業は多い。実際、業務システムの保守/運用はIT予算や情報処理システムの担当/部門が必ずしも盤石ではない中堅・中小企業にとって大きな負担となっている。業務システムを外に預けてしまうことで、その負担から解放されたいと考えるのは当然といえる。

 以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業に対して、「クラウドを活用したいと考えるシステム」を尋ねた結果である。「基幹系システム」(会計/人事/給与/販売/製造など)や「情報系システム」(グループウェア/メールなど)が多くを占めることが分かる。

 このトレンドが示す通りに「基幹系システム」や「情報系システム」をクラウドへ移行すればコスト削減が実現できるかというと、実際はそう簡単ではない。中堅・中小企業においても基幹系システムは独自カスタマイズやシステム間連携などの作り込みが行われていることが多い。一方、業務システムのクラウドサービス(この場合はSaaSを指す)は同一のシステムを多数の顧客が共用することによってコストを低く抑えることが基本モデルであるため、自社内設置と同じレベルの独自カスタマイズやシステム間連携を実現することは容易ではない。つまり、現在利用しているのと同じ基幹系システムをクラウド上に再現しようとする、それなりの費用と手間がかかることになる。
 一方、情報系システムは企業毎の作り込みが比較的少ないため、その点に限ればクラウド移行の障壁は低い。しかし、ここにも大きな落とし穴がある。グループウェアやメールは多くの社員が毎日使うツールだ。そのため、クラウドサービスへ移行することで画面表示や操作感が変わってしまうと、多くの社員が戸惑うことになる。昨今では高機能で無償ないしは安価な情報系システムのクラウドサービスも数多く存在しているが、中堅・中小企業で広く普及しているわけではない。その要因にはこうした「慣れの問題」が大きく関係している。

 では、どうすれば良いのだろうか?ここで『一歩先行く企業』となるために求められるのは「クラウドの適用対象をもっと広い視点で捉える」ことだ。
 クラウドの適用が可能なのは基幹系システムや情報系システムだけではない。セキュリティやPC管理/サーバ管理を担う「運用管理系システム」や、DNSやファイルサーバなどといった「基本情報システム」もある。また業務システムの土台となるサーバやOSなどのインフラ部分だけをサービスとして利用する(IaaS)ことも可能だ。「運用管理系システム」や「基本情報システム」は企業に固有の作り込みが非常に少なく、クラウドへ移行することによる使い勝手の変化も軽微に抑えることができる。またインフラ部分のサービスを活用すれば、作り込みをした基幹系システムや使い慣れた情報系システムをクラウド上へそのまま移すことも可能となる。
 クラウド活用では目に見えやすい基幹系システムや情報系システムだけでなく、こうした目に見えない部分に着目することが非常に大切である。

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