伊勢の老舗食堂がAIで切り拓くサービス業の未来

AIを仕事に活かせるのは大企業だけ、と思っている人は多いだろう。だが中小企業や小規模なサービス業でも課題が可視化できていれば、テクノロジーを利用して大きく成長できる可能性がある。三重県伊勢市で飲食店や土産物屋を営む有限会社ゑびやは、創業100年を越える従業員50人未満の老舗だが、2012年からデータ・ドリブン経営を行い、それから7年で売上を5倍、経常利益は20倍へと成長させている。実現したのは、妻の実家を助けるために全く未経験のサービス業に飛び込んだ代表取締役の小田島春樹氏だった。

テクノロジーの波に “乗れなかった” 過去

 AIを活用して大きく成長をさせたと聞くと誰もが小田島氏のことをテクノロジーのエキスパートだと思うだろう。経歴にも大学卒業後にソフトバンクで人事や新規事業担当し、7年前からゑびやを手伝いはじめたとあり、IT最先端の現場で活躍していたように見える。「確かに”テクノロジーおたく”だというのは自覚していますが、むしろ新しいテクノロジーやITの波には全く乗れず、プログラミングも最近まで自分で書くことはできませんでした」という意外な答えが返ってくる。「7歳の時には家にあるWindows95でPCゲームをやって、インターネットにもすぐ飛びつきましたが、特にパソコンが得意でもありませんでした。祖父は会社経営、祖母は為替をやっていた影響で、小さい頃から商売の仕組みのようなものはなんとなく理解してましたが、その両親に反発して公務員になった父親の都合で転校が続き、高校受験に失敗して滑り止めの高校にも馴染めず、高校は不登校といういわゆる落ちこぼれでした」

 自分の将来が全く見えず親にも見放されかけていた時、たまたま目にしたソフトバンクの孫正義氏で最初の人生の転機を迎える。「当時はITバブル真っ盛り。毎日のようにニュースで取り上げられるソフトバンクを最初は全く別世界のように感じていましたが、だんだんテクノロジーで社会を変えられるかもしれないと思い、このまま人生を諦めるのは悔しいと一念発起し、なんとか大学に進学しました」。在学中はアルバイトを掛け持ちし、稼いだお金で世界を放浪するような生活をしていた。卒業後の入社先はソフトバンク一本に絞り込み、目標どおり入社することができた。

 ところが待ち受けていたのは人事部で派遣切りをする仕事だった。会社の仕事とはこういうものだと思いつつも、ストレスで体調を崩すようになり、一年後には営業に移動していた。そこでようやく新しいビジネスを考える機会に恵まれ、都内で1円PCを販売する部隊を立ち上げたところ見事に売り上げを伸ばすことができた。業績が認められて再び本社に戻ってからも新しいビジネスを次々立ち上げ、その会社は現在モバイル事業で年商で100億以上の売り上げを達成するまでになった。当時一緒に全国を回って仕事をしていた社員も今は取締役に出世しているという。

有限会社ゑびやの代表取締役社長の小田島春樹氏。テクノロジーおたくではあるがAIに出会うまで新しい技術には全くのれなかったと自己分析する。
有限会社ゑびやの代表取締役社長の小田島春樹氏。
テクノロジーおたくではあるがAIに出会うまで新しい技術には全くのれなかったと自己分析する。

老舗店舗の経営をAIで見える化

 事業は順調で何の問題も無かったが、小田島氏の中には現状をリセットして新しいことを始めたいという気持ちが湧き上がっていた。「入社から4年経って実績もあったことから選択肢もいくつかあり、その一つが妻の実家の手伝いだったんですが、周囲の友人から地方で商売を成功させるなんて絶対に無理と猛反対されたことでかえって火が点いてしまったんです。ちょうど地方創生が叫ばれ始め、自分が成功を証明できればおもしろいだろうとも思って伊勢にいくことを決めました」

 実家を継いでほしいという話は結婚する時にもあり、今回も義父からは店舗を縮小してテナント化を考えているという話だった。老舗だから資金もあって余裕で商売ができるだろうと思っていたが、実は会社に使える資金がほとんど無く、それ以上に売り上げはそろばんで計算して手書き、注文は食券という今まで自分が当たり前と思っていた世界と180度違う状況にショックを受けた。

 「どうすればいいか半年ほど悩んだものの、とにかくお金が無いので稼ぐしかありません。軒先に手作りの屋台を造ってあわびの串焼きを販売したところ年間で2000万円を売り上げ、このお金を元手にしてようやく改革を始めました。残念ながら改革に付いていけない社員が次々と辞めてしまう悲しい事態もありましたが、もう後戻りはできないと考え、メニューや食品サンプルを新しくするなど地道な作業を続けていました」

 一番大変だったのは、いろいろ改革を進めてもそれがどう売り上げにつながっているかを全く把握する手段がないことだった。POSも導入したが、データを抜き出すのが大変なのでレシートから情報を転記したり、データ化しても大量のCSVファイルを整理する作業に追われた。これほど手がかかるにもかかわらず、システムはフルセットで価格が200万円強もする。それに加えて保守に年間16万円、端末に8万円かかる。費用だけでなく手間もかかるなど、負担も大きかった。新規で土産物屋を始めた際に、クラウドレジに変えたが、売り上げが伸び悩んでいる状況が続いていた。どうすればいいか店舗経営のプロに相談したが、商品が変えられないなら購買率も変わらないので入店率を上げるしかないという返事だった。そこで、広告やSNSを使おうと考え、効果を測定する方法を尋ねたところ「そんなものは無い」という驚く事実が判明した。

クラウド型のレジに移行し、売り上げデータを収集しやすくするなど改革を進めた
クラウド型のレジに移行し、売り上げデータを収集しやすくするなど改革を進めた

 それでも小田島氏は経営の改善の肝は定量化であると考えていた。特にオペレーションにからむ部分を変えるにはテクノロジーが不可欠。まずはカメラやセンサーを使って来店者数や購買数のデータを収集するところから始めようとしていた。情報収集のために東京でIT系イベントに参加したところ、そこで知ったのが株式会社アロバが「Microsoft Azure」のAIサービス「Microsoft Cognitive Services」を活用して開発した画像解析サービス「アロバビューコーロ(以下アロバ)」の存在だった。

 「それが3年前の話で、利用料金が月額9800円からというのもあり早速導入しました。いろいろできることはありましたが、既存ツールの活用から始めようと、まず2つのカメラを使って町の通行者数と入店者数を計測して販売状況を即座にわかるようにしました。これにより、「購買しなかった人」を把握できるようになり、購買者と購買しなかった人の割合などの定量的判断を元に店舗の運営を見直せるようになりました。これこそがまさしく自分がしたかったことだったのです。

 テクノロジーは好きなのに、ちょうど私の世代はヤフオクもiモードもスマホアプリもゲームもすべて乗り切れず、iPhoneにも乗れなかった。しかし、ついにそんな自分が、AIという大きな波に乗りかかって一歩を踏み込もうとしている、これからまさしく改心の一撃を狙ってやるぞという気持ちでわくわくしました」

提供:日本マイクロソフト株式会社
[PR]企画・制作 朝日インタラクティブ株式会社 営業部  掲載内容有効期限:2019年6月30日

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