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グローバルWebサイト&アプリのススメ
グローバルジェネラリストなWeb担当者を目指して
John Yunker (著), 木達一仁 (監修)
「未来はすでに訪れている。ただ行き渡っていないだけだ」
引用: グローバルWebサイト&アプリのススメ P.66
本書を読むと、僕らがふだん「インターネット」と呼んでいるものが、一側面でしかないことに気づかされる。
「世界が100人なら58人はアジアの人」「3Gの低速モバイル通信が世界の主流」など、多様なインターネットの姿がそこにある。世界の文化、国、地域、言語。その多様性とともに。
例えば、世界のインターネット人口で見たとき、もっとも多い言語は何だろう。英語ではない。中国語だ。そして、中国人のうち、1億2000万人はスマートフォンからしかインターネットにアクセスするすべを持たない。中国のスマートフォン普及率は74%で、米国の57%を大きく上回る。
別の例では、英語をドイツ語に翻訳すると、テキスト量は平均して40%増える。英語を前提としたレイアウトを組んでいると、当然、崩れる。ドイツ人はクレジットカードを好まない。銀行振込やPayPalなどの電子決済を好む。
これらは、すべて本書に書かれていることだ。
まったく読めない文字、意味の推測すらできない画面
僕は、韓国製のCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の運用に、深く関わったことがある。日本語へのローカライズは充分にされていて、ふだんは何の問題もない。
あるとき、興味本位で、管理画面の言語設定を「韓国語」に変えてみたことがある。
画面が切り替わったとたん、驚愕した。ハングルで埋めつくされた画面。見慣れたはずの画面が、まったく意味がわからない。
中国語であれば、漢字の字形から、何となく意味を類推することもできる。英語に似た言語であれば、これも字形から、何とか英語に読み替えてみることができるかもしれない。
ところが、ハングルは、知っているどの言語とも異なる。まったく推測が効かない。僕にとってはまったく意味のない記号が並んでいるのと同じだった。
慌てて、管理画面の設定を「日本語」に戻そうとして、また困った。どれが言語設定メニューなのか、それすら読めない。日本語の画面を思い出しながら、何とかメニューにたどりつき、日本語の画面が出たときの安堵感。
似た体験は、例えば、次のウェブサイトにアクセスしていただくとわかる。NAVER Music の韓国本家サイトだ。僕はK-POPが好きなので、たまに見る。
NAVER MUSIC (韓国語)
http://music.naver.com/
ご覧いただくとわかると思う。何が書いてあるのか、さっぱりわからない。マルと線の記号が並んでいる。それらは、何の助けにもならない。英語なら、まだいくらか類推できるだろうが。
ちなみに、ページ下部に「注目のアルバム」という欄がある。その横に、音楽のカテゴリ分けがある。日本語に訳すなら、こんな感じになっている。
「国内」> ダンスミュージック / ロック / ヒップホップ / バラード
「バラード」がひとつのカテゴリになっているのも面白い。また、韓国ではヒップホップが盛んで、そこも独立したカテゴリになっている。韓国では、2012年から「Show Me The Money」というフリースタイル・ラップの番組が、空前のヒップホップ・ブームを巻き起こした背景がある。
音楽のカテゴリ分けひとつをとっても、その地域ごとの背景がある。多様性がある。
英語サイトをつくることがグローバル化とは限らない
本書「グローバルWebサイト&アプリのススメ」は、このような文化、言語、地域の差を、世界各地に渡って、ひとつひとつ解きほぐしながら、ウェブサイトの、本当の意味でグローバル化していくノウハウを提供している。
貴重な知見のある本だ。
英語サイトをつくることがグローバル化ではない。英語圏は、世界からみたら一握りでしかないのだ。数字で示されれば当たり前な、そんなことも、この本を読まなければ僕は気がつかなかった。僕は、英語サイトをつくることが、ウェブサイトのグローバル化だと思っていた。
「真のインターネット」は、本当はどんな姿をしているのか
本書について、もうひとつ言及しておくべきことがある。それは、本書を日本に紹介した監訳者、ミツエーリンクスの 木達 一仁 氏だ。
氏は、自社の研究開発部門から、人材を積極的にW3C(インターネットの国際標準の策定団体)に派遣するなど、インターネットの発展に、日本から多大な貢献をしてきた人物。とくに「アクセシビリティ」、すなわち誰にでも開かれたインターネット、の強力な推進者だ。
その木達氏が、本書を日本に紹介している意図は、グローバルなウェブサイトでビジネスを広げよう、ということに、おそらくはとどまらない。
ここまで紹介してきた通り、本書を通じて、じつに「多様なインターネット」を知ることができる。それは僕らが当たり前に享受している「インターネット」、4Gの高速回線をスマートフォンでサクサク使う、とはまったく異なる。そして、世界的に見れば、我々はマイノリティの側だったのだ。
世界中をつなぐ「真のインターネット」は、本当はどんな姿をしているのか――。多様性のあるその姿こそ、まさにアクセシビリティ、誰にでも開かれたインターネットだ。木達氏はそれを知ってもらいたくて、本書を日本に紹介したのではないか。
僕は、本書を、ウェブ制作業界やアプリ制作業界の人に読んでもらいたいと思う。とくにベテランほど、目を通してほしい。日本の環境への慣れと、経験と自信から、視野が硬直してはいないか。僕自身、ウェブ制作歴20年だが、この本を通じて、はじめて本当のインターネットを見た気がする。
本書は「真のインターネット」を紹介する本である。
グローバルWebサイト&アプリのススメ
グローバルジェネラリストなWeb担当者を目指して
John Yunker (著), 木達一仁 (監修)