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ビジネス戦略の軸に、ユーザーエクスペリエンス(UX)をおく ――「UX戦略」書評

2016/05/23 00:00
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ご恵贈いただきました。ありがとうございます。


UX戦略 ユーザー体験から考えるプロダクト作り

Jaime Levy 著、安藤 幸央 監訳、長尾 高弘 訳

本書は、ビジネスで成功するための本である。ビジネス戦略の軸に、ユーザーエクスペリエンス(UX)をおいたときの、企業活動の姿について語った本である。

まず、その前提がうれしい。

企業戦略の軸は、製品でもサービスでもなく、UXである、と本気で思う組織が増えてきているのだろう。

だからこそ、UXの手法を説明する書籍では足りず、企業戦略のなかにUXを位置づける、それを解説する書籍が求められる。

本書をめくると、「ビジネス戦略」や「競合分析」など、およそ類書では見かけない単語が出てくる。

ビジネスの軸になるUX。その柱を立てること。本書は、その実現方法を語っている。

UX戦略とは、「本当に良いもの」がビジネスの柱になることを、確認すること。

本書の冒頭に、印象的な一節がある。

無機質なビジネス書や技術書は書きたくないと思っていた。プロダクトデザインの現実世界で実際に体験した生々しい事柄や物事の流動性を年代記のように記録した本が書きたかったのである。成功の自慢話や、必ずうまくいく手法をただ書くのではなく、起業家精神を描きたかったのだ。

(引用:はじめに P.11)

この宣言のとおり、本書には、スタートアップの、リアルな事例が書かれている。

たとえば、あるプロジェクトでは、ファッション系サービスでの起業を目指すクライアントに、はっきりと NG を突きつけている。

クライアントは、自分のサービスが画期的なものだと信じて疑わないタイプの起業家だった。

著者は、クライアントに提出したレポートに、こう記載した。

すでに触れたように、このコンセプトをそのまま追求しても、高いリスクが見込まれ、コストがかかります。ターゲットとする顧客層がどのようなものか、彼らが現在の市場で、何に本当に困っているかを正確に確認すべきです。

(引用:P.139)

クライアントが信じているアイデアは凡庸で、すでに同種のサービスが多数にあったのだ。

だから、いま一度、「UX戦略」を練りなおせ。そう、率直にアドバイスをしている。

本書のタイトルにもなっている「UX戦略」は、次のように語られる。

UX戦略とは、思考方法のことである。UX戦略は、完璧な計画を隙なく実行するための手段ではない。今あるものを調査し、チャンスを分析し、構造化された実験を遂行し、失敗、学習し、人々が本当に望むような価値あるものを作り出すまで、思考を反復する能力である。

(引用:P.43)

UX戦略とは、単純な見た目のデザインのことではない。UX戦略は、UXデザインの手法のことでもない。単なる製品戦略でもない。

UX戦略とは、「本当に良いもの」を見つけ、それがビジネスの柱になるのだということを、確認するプロセスなのだ――そう、著者は語っている。

あえて間違えることで、正しいフィードバックを得る。

目次を眺めてみよう。

  • 1章 UX戦略とは何か
  • 2章 UX戦略の4つの基本要素
  • 3章 バリュープロポジションの検証
  • 4章 競合調査
  • 5章 競合分析
  • 6章 バリューイノベーションのストーリーボードへの展開
  • 7章 実験用プロトタイプの作成
  • 8章 ゲリラユーザー調査の実施
  • 9章 顧客獲得のためのデザイン
  • 10章 UX戦略家たち
  • 11章 結び目をほどく

「UX戦略」というキーワードを中心に、起業家精神を熱く語る。それだけではない。そこからとるべき、具体的な手法についても、詳説している。

3章と8章には、インタビュー調査の具体的な進め方がある。4章・5章では競合分析の手順がこまかく書かれている。9章で、ランディングページをつかった顧客開発が、かなり細かく語られているのも面白い。ちなみに、2章の後半には、上司が説得できなかった場合、どうするべきかの心構えまで書いてある。

本書には、ユーザー調査から、プロダクトのグロースハックまで、著者の体験が凝縮されている。概論に終わらず、手を動かすことの喜びと痛みまで感じられる。

成功だけでなく、失敗も含まれている。ときには、わざと間違った道を走らせることもある。

あるプロジェクトでは、ビタとエナという2人の学生に、「それぞれに」プラグマティックペルソナをつくらせる。

よくあるプロジェクトでは、こんなことはしない。ペルソナはプロジェクトメンバーの合意を得るためのものだ。ふつうは、共同作業にするところだ。

その結果、場に出された2人のプラグマティックペルソナは、大きく異なっていた。

ふたつのペルソナでもっとも印象的なのは、同じバリュープロポジションなのに、学生たちがかなり大きく異なる顧客像をイメージしていることだ。(中略)どちらのペルソナが正しいのだろうか。今の時点では、それは問題にはならない。ビタもエナもいずれにしても自分のイメージを言っているだけなので、暫定ペルソナに組み込んだ要素は思い込みの産物に過ぎない。

(引用:P.61〜62)

あえて別々にペルソナをつくらせる。2人は、お互いが、まったく異なる顧客イメージを持っていることを知ることで、「自分たちは顧客を知らない」ということに気がつくのだ。

間違うこと。それが、正しいフィードバックを得る近道だ。著者が、2人を、あえて別々にさせた点が、すばらしい。

「ビジネスにUXという柱を立てる」という思いが伝わる良書。

本書には、成功も失敗もないまぜにした、実直な起業家精神が込められている。

「ビジネスにUXという柱を立てる」という思いがある方には、良い興奮を得ることができると思う。ぜひお手にとってみてはいかがだろうか。

監訳は 安藤 幸央 氏である。氏のこだわりであろう、翻訳も読みやすい。

発売は2016年5月25日。予約受付中とのこと。ご興味ある方は、ぜひ。


UX戦略 ユーザー体験から考えるプロダクト作り

Jaime Levy 著、安藤 幸央 監訳、長尾 高弘 訳

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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