まもなく発売の新刊の、書評用の草稿をいただいた。心待ちにしていた本でもある。5月21日発売「マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書」だ。
UXデザインの基本スキル「インタビュー」を、これでもか! というほど、ていねいに手ほどきしてくれている。
マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書
著: 奥泉直子、山崎真湖人、三澤直加、古田一義、伊藤英明
UXデザインや人間中心設計の分野で、20年のキャリアをもつ、ユーザー調査のプロたちの、実務で鍛え上げたノウハウが詰まっている。
ユーザーの価値観を引き出す会話術
本書のなによりの魅力は「実務」にもとづくノウハウであることだ。それもユーザー調査の現場で、20年、叩きあげてきた知識。インタビューにのぞむ姿勢と、心の持ちかたを、具体的な例をまじえて、こまかく説明している。
たとえば、インタビューで、ユーザーの価値観を引き出すためには、どのように質問していけばよいか。本書には次のように書かれている。コンタクト洗浄液のボトルデザインのインタビューの例だ。
引用:マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書 P.115
相手:「このデザインは、イヤだな......」
自分:「どうしてですか?」
相手:「なんか、無駄にデカイ」
自分:「デカイとどうしてイヤなんですか?」
相手:「大きすぎて洗面所の棚に入らないような気がする」
インタビューに不慣れだと、ここで手元のメモに「デカイと洗面所の棚に入りづらい」と書いて、終わってしまいそうだ。しかし、著者は次のように質問を続ける。
引用:マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書 P.115
自分:「洗面所の棚に入らないとどうしてイヤなんですか?」
相手:「片付けたいときに片付けられないし......」
自分:「毎回片付けるんですか?......」
相手:「いや、だいたいいつもリビングに出しっぱなし......」
自分:「どうして出しっぱなしにするんですか?」
相手:「毎日朝晩の2回必ず使うので、出したり片付けたりするのがめんどくさい」
自分:「出しっぱなし前提で考えたら、このデザインでも良さそうですか?」
相手:「いや、やっぱりイヤです」
自分:「どうして?」
相手:「見た目、オシャレじゃない」
自分:「オシャレじゃないとどうしてイヤなんですか?」
よくよく訊いてみると、そもそもユーザーはボトルを片付けてなどいない。
ユーザーは質問されて、とっさに「常識的な答え」をしてしまっている。インタビューではよくあることだ。ふだん何気なくしていることに、あらためて理由を求められると、思わず、あたりさわりのない答えをしてしまう。
著者はそれを見逃さない。質問をかさねて、ユーザーから価値観を引き出している。ユーザーは、片付けではなく、「見た目」という価値にこだわっていたのだ。
このテクニックを、著者は次のように解説している。
引用:マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書 P.115
自分の思いや嗜好には必ず理由があるはずですが、普段はあまり意識していないため、いざ聞かれてもすんなりとそれを説明できる人は多くありません。好き嫌いの裏にある深層心理を紐解くために、“なぜ” と理由を聞き続けるのです。
近年、UXデザインや、人間中心設計、リーンスタートアップなど、ユーザーへのインタビューにふれる書籍は多い。
しかし、そのなかでも、現場でつまづくこと、足をとられること、気をつけるべきことを、これほど経験豊かに語った書籍は、貴重ではないかと思う。
インタビューの信頼感をつくる、リアルなノウハウ
日本人による実践のノウハウ、というのも、現場にとって魅力だ。心理の機微をとらえるテクニックも語っている。
引用:マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書 P.131〜132
お話を聞いていたら、“うぃーふぃー” なる言葉がでてきました。はて、なんのことだ? と一瞬思いましたが、文脈から “Wi-Fi” のことを間違えてそう読んでいるらしきことに気づきます。
(中略)
注意したいのは、相手の言い間違い(“うぃーふぃー”)を声に出すのは控えることです。間違いを指摘されるだけで恥ずかしいのに、それを耳で聞くと恥ずかしさが倍増してしまいます。そこであまり恥じらいを持たれてしまうと、そのあと口が重たくなってしまう危険性があります。それを避けるためにも、上手に指摘してあげなければなりません。
この対策は、次のように書かれている。
引用:マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書 P.131〜132
「さっきおっしゃっていた Wi-Fi(わいふぁい)のことですが......」と何事もなかったように正しい読み方で次の質問を投げかけるのが一つ目の作戦です。このとき、質問を共有するのが意図と見せかけて “Wi-Fi” を紙に書きながら、“わいふぁい” と読んであげると、相手も自分が“うぃーふぃー” と思っていたものを指して “わいふぁい” と読んでいることをはっきりと理解できますので、すんなり間違いを受け入れて、学習することができます。
「そんな細かいことまで!」と思いたくなるが、インタビューは、質問者と回答者のあいだに信頼感がなければ、うまくいかない。回答者が緊張していることもある。わずかなボタンの掛け違いでも、信頼感が崩れると、軌道修正には時間がかかる。
実践を重ねてきたベテランだからこそ書ける、リアルなノウハウだ。
さらに、本書の末尾には、インタビューの実践におけるチェックリストや資料が、10ページにわたって添えられている。実務への取り組みもしやすい。
予約は、マイナビブックスの公式サイトでのみ受付中
本書は、5月4日現在、マイナビブックスの公式サイトでのみ、予約受付中だ。5月11日までの予約で、送料無料、PDF版もプレゼントといった得点もある。
(なお、Amazon では、予約を受けつけていないので注意)
発売は5月21日。ご興味ある方は、マイナビブックスの公式サイトで、ぜひ予約してみてはいかが。
マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書
著: 奥泉直子、山崎真湖人、三澤直加、古田一義、伊藤英明