社内にライツ管理のエキスパートがいるためか、あるいは普通に世のトレンドとなっているからか、メディアやコンテンツ業界の次の仕組みやビジネスモデル、あるいは、個々の書き手作り手はどのようなやり方を組んでいけばいいのかという検討にしばしば関わっている。
というようなところで開催された、「2010年代の出版を考える」というイベントと、小林弘人氏がGLOCOMで講演した次の業界モデルを考えるイベントが奇しくも続いてあり、その鮮やかな対比に業界の置かれてる状況が炙りだされているように感じていた。
メディアをとっても出版をとっても、なんとかしなきゃまずいという意識は各所であり、実際に試みもおきているものの、規制から商習慣まで非常に入り組んだ業界の出来ごとであり、且つ関係者も多いことから、万人が幸せになる竹を割ったような解決策を魔法のごとく考え出すというのは難しい。
実際関わっていても、相談者それぞれの立ち位置や出来ることから、より良い回答をひねり出すというのがやっていての感触であるし、実際業界各所での議論としても、「全体ごっそり変えれば出来るんだけど」という枕がついたやり取りが案の定多くなってしまっている。理屈は分かるけど、実効性が極大に難しいタイプの事案群である。
Kindle/iPadという波紋
(国内の)業界に対して変わらないと死ぬぞ、というレベルの重いプレッシャーをかけているのが、言うまでもなくAmazonのKindleとAppleのiPadである。いずれも、デジタルとネットワークを駆使した流通スキームを作ることをてことして、既存の仕組みよりも高い著作権料の支払いを条件に出版社や著者に対して、チャネルとして選択するように促している。
(その意味ではKindleと競争してるのは狭義には取次物流である)
Amazonに至っては、マクミランの件などで揺れを含み、且つあれこれ条件がついてるとはいえ、最大70%という著者への支払いスキームを提示しており、料率だけでは既存のスキームが手も足もどうにもならないところに一手を打っている。
業界動向については上のイベントのような話が各所あるなか、このところ気になってるのは、では実際の作家さんやクリエイターというのはどのようにこの流れを感じとっているのだろう、というところである。
「ブラックジャックによろしく」佐藤秀峰氏の独立問題など、割とセンセーショナルな話はメディアに出てきたりして気配を感じとれるが、この手の事例というのはエキセントリックなものが取り上げられる傾向があることもあり、必ずしも代表事例として適するとは限らない。あくまで一つのケースとして受け止めておくことが無難である(もちろん、ケースとしての重みは否定しない)。
個人的には、(出版ではなく音楽業界だが)高野寛氏が、Twitterでちらっと呟いていた”アーティストがレコード会社に頼れなくなった時代のあり方の模索”といった表現感覚の方が心象風景を適切に示してるものと考えている。
業界問題はそれとして、アーティストマネジメント関係の方との議論も交えつつ、このところは作り手にとっていい形というのをどう作り上げていけばいいのかというテーマが上がる頻度が増えている。これは端的に、Kindle商流が既存の出版社から距離を置くことを暗に促しているためである。全てお任せの時代から、選択的に自分(達)でビジネスを回していく形を考えなければならないこととなる。
ここで制約になるのが、作家にせよアーティストにせよ、「ビジネスを回していく」というのは本当でいうと本分でないところである。ビジネスの出来る芸術家ということを今の状況は求めているに等しいが万人が出来る訳ではない。このあたりの矛盾の解く方式として、例えば既存の出版社によるアプローチはどうだ、との議論を提示してるのがたけくまメモの該当記事あたりとなる。
おそらく、やり方は既存の仕組みの延長ではなく、それぞれにいろんなやり方があるだろう。売れっ子の漫画化など、自分でマネジメント会社を作ってしまったりというケースは今に始まったことではない。ただ、改めて個々人見直してみることをはっきりと問われているというのが作り手側から見ての今だと言える。
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というようなところ、あちこちで個々に話をしていても大変ということもあり、一度まとめてイベントの形にしてみることとしたので興味のある方は足を運んで頂けますれば。