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もうデジタルにしちゃおうよ、とAmazonは云ふ

2009/05/13 01:09
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プロフィール

渡辺聡

インターネット/IT分野で事業開発に携わる渡辺聡さんが、注目ニュースなどを題材に、そのニュースの背後にある本質的な変化とその先行きを、経済や社会との関わりの中で考えていきます。
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AmazonがKindleをパワーアップさせてその他諸々という動きを見せている。
 
何やりたいんだろう?と各所のニュースを眺めていたが、ごくごく素直に「もうとっとと出来るところからデジタルにしてしまおうよ」ということであろう。シンプルだ、Amazon。そして、利益構造の変化が何よりも真実を雄弁に物語る。
 
ざざっと関連ニュースをピックするところから始めると、Kindle出したぜぃ、というのは流すとして、セットで出ていてポイントになるのが、Kindle経由の売上げが35%と馬鹿にならん数字に達しているという話と、ついでに新聞の流通ではマージンが7割という日本の取次事業みたいなポジションになってしまってる件だろう。
 
後者については、さっくりと、「それは日本ではまぁ当面は無いなぁ」とさっくり話して終わってしまうところだが、産業構造の違いがあるにしても前例としては面白い。そして私は専用端末で新聞を読みたいとわざわざ思うだろうか?と自問してしまっている。

日本の新聞社が「オーケー、取り分は30%でいいし権利も差し出すよ」と言う可能性を考えると、国内版登場の期待は萎むばかり。もしかすると日本のどこかで「あらたにす専用電子リーダー」のような企画が進行中なのかもしれません。

とあるが、まず過去の延長線上では考えられないところだろう。ここにタイムマシン経営のロジックは無い。少なくとも、線形変化のシナリオ上には無いと考えた方が業界感覚に合う。
 
というところで、Kindle上で展開されるだろうビジネスモデルと日本市場という本題に。
 

いつか私もデジタル化

Kindleの話を聞くとまず振り返らねばならないのが、そういや電子ブックとか電子ペーパーとかってたくさん議論があったよね、というところと、いまひとつ市場化されてないよね、あれってなんだったのだろう?というところ。
 
ここは長々と説明するよりも、「いや〜、難しそうだよね」といろんなことを思い浮かべながら一言で括る方が身体感覚に合う。とある案件でデジタルコンテンツの流通スキームというのを考えるというお話に少し関わっていたことがあり、条件を諸々考えていたが、業界の来し方を考えて各プレイヤーの立ち位置と気配と政治的絡み合いを考えると、車田先生が男坂を登って未完に終えた気持ちが分かるような気分になってしまう。不可能とは言わないが、やるべきことや事情が多すぎて一介の第三者が理屈を並べてくらいでどうにもなるものではない。
 
話をステップジャンプさせると、比較検討するに、一般流通の卸の構造を検討する方が遥かに楽である。そして、この分野において卸ってなくなるの?という問いには、「中途半端な中堅流通よりは卸の方が残るよ」という風に対応するように最近なってきた。物流という意味ではなく、商流に近い意味での流通ネットワークと金融機能を備えて業界のモノと資金サイクルの吸収バッファを担っているプレイヤーが簡単に壊れるとはとても思えない。効率改善の業界内再編はあるにしても、まんま中抜きというのはあまり考えられない。むしろ命脈はこっち。セクターと商材特性の異なる家電量販etcは別として。(あと、Amazonがさっさと壊せてしまうところは別として)
 
というところを横目で見つつ、出版メディアビジネスのスキーム検討を行っている。行いつつ、日本の流通と間接金融をベースとした日本の基本的なビジネスモデルパターン考察、みたいなところにも立ち入ってるがそれはまた別論として。
 
出版産業の位置づけを考えるに、国際比較論基本編で米国と比べると、冒頭に出てきて最後まで付きまとうのが、再販制度となる。書籍流通の業界としてのリスク管理の方法、在庫バッファの持ち方、ファイナンスと信用の流通と商流支配権のバイアスを考えると、再販制度の影をあちこちにどうしてもみてしまう。日本の出版流通の最適化モデルの初期要件として分かちがたく結びついてしまっている。通常の卸と取次ビジネスの根本的な違いは何?と問われたら再販制を軸として概ね間違いないだろう。
 
そして、一般流通の最近の勝ちパターンと比較すると、商材と商習慣が強く邪魔をする。例えば、EDLPをやりたいのなら、評価の安定した定番及び二番手三番手くらいを揃えて、粛々と淡々と売っていく形になる。目下注目しているのはOKストアで、そういえば株主か債権かの募集があったときに応募して可能な範囲で財務情報でも手に入れればよかったと思ってたりする(どなたか持っている方がいらっしゃれば写しを頂けると幸い)。
 
EDLPの動きは国内でも徐々に普及し、チラシと特売ベースの小売スタイルの代替として一部で定着し始め、着々と成果に繋がってきている。
 
では、同じことを本で出来るか。
 
答え。あっさり出来ない。書籍に数年以上の販売期間を維持できる定番という概念は無い。「月に一回欠かさず買う本があるんですよ」という人がいたらお目にかかりたい。いてもものすごく少数派だろう。いまどきラノベのシリーズでもそんな現象はありえない。そしてそれはあってもあくまでシリーズだろう。雑誌は近いところにあるように思うが、駅売りスタンドかコンビニの雑誌コーナーに行き着いてしまう。初期ロットが1万部を切り、更には5000部も切ってそれでも在庫リスクにピリピリする業界状況に、年単位での定番という言葉はもはや無い。文庫とか夏のYONDAはどうした、とか言われてしまいそうだが、そこは文庫の原価構造はどうなってる?という話が出てきてしまって軽く頓挫する文庫が4桁で売れればいいがそうはいかないだろう。とかなるとなんとなく新書に行きたくなった気分も分かるような気がするがこれまた別の話。そして、古いものはどちらかというと版権ビジネスという話になりバンダイとどう比べるかというような別議論になってしまう(それはもはやライツビジネスという思考回路になる)。ここは議論のフレームとしてはロングテール系。
 
じゃあ、最近流行りのプライベートブランドは?というところだが、これに近い動きをしているのが大日本印刷だろう。ここ続けて、丸善とジュンク堂に手を差し伸べ、「ここはやはり丸ジュン堂か!」などと馬鹿なネタを界隈でやりとりしていたが、構図としては上流から下流を押さえたというオイルなんかに近い気配の逆アプローチなもののなんとなく近しい気持ちを感じる。ついでに書くと秋田書店と一緒にモバイル、PCとDSに流すという。どこに行かんとす、大日本印刷。流通ドライブじゃないのは商材特性というところに落ちるが冗長になるので割愛。単純には、書店業界でPOS分析というのがどれくらい真面目に成立するか、という話とAmazonが協調フィルタリングを十全に機能させるに10年弱かかったという事実が答えの一旦を握っていることだろう。

ファクターと要件

とかいうところで、いろいろと壁ばかりでエージェント制をやるにしても結局マージンのところが勝負の原資になるので表向きの形態をいじってもあまり効果が無いかもしれんのだよなぁ、というところまで至ったところで。冒頭のAmazonの問いかけが出てくる。
 
この辺の話、作り手と読み手というアクターだけ考慮するという条件に組み替えて解釈すると、デジタル流通にすることで解決のハードルは幾つか越えられてしまう。デジタルでそもそも読みたいかというところを軽く脇に置くと(最終的には置いてはいかんのだが)、Kindleが米国市場で果たしている役割というのは非常に分かる。プロモーション周辺のところ、ユーザーと商品情報をどこでどう出会わせるかというところなんかは抜けるが、そこは中長期的にはなんとかなるような気はしている。
 
繰り返すが、KindleとiPhoneセットみたいな流れは日本ではそのまま適用しづらい。そもそもiPhone議論以前に、ブラックベリーも無く、ニホンのケータイが個人向けの持ち歩き情報端末では確認するまでも王様であり、それ以上は仕事で必要か(ノートPCからネットブック)、ガジェット好きか(iPhone)、ゲーム好きか(DS及びPSP)、というところでぱっくり市場もユーザーも分かれてしまっている。
 
でもってこれも言うまでもないが、ケータイ向けに既存のコンテンツはまんま流用しづらい。携帯の画面で京極夏彦や美味しんぼのような情報量の多いものが読めるか、画の綺麗な漫画が読めるかと問われたら読めない。ケータイコミックは厳密には別市場であり別コンテンツである。読み物は不可能ではないが、ディスプレイ最適化の結果ケータイ小説というジャンルが出てきたことがもう答えだろう。
 
というところで、流通側は相変わらず解けておらず、ここに相変わらずのデジタルアレルギーと著作権の問題が絡まって何がなんだか分からなくなってきている。
 
しかし、AmazonのKindle強化の今回の報は、直接これが答えでないものの、どうも賽は振られたような感じがする。問題はサイコロが転がってないことだが、だからといって振られたという事実は覆せない。
 
なんかこう、国際競争と国内問題の狭間に入りつつ小難しい流れになってしまったような状況だが、なんとか上手い形が作れないものかとなけなしの知恵を絞っている。デジタル化のコストメリットを最大限引き出すシナリオを視野に入れつつ、ディフェンシブなところはかっちり押さえつつ、なるべくコンパクトに。
 
本当に難しいのが、例えば取次制度が駄目かと問われたらそうも言えないところ。サプライチェーン上の役割を考えると、実に上手く出来ていて、過去何十年かがこの仕組みでがっちり回ってきたということが良く分かる。おそらく、90年代くらいまではこの仕組みには何の文句もつけなくて良かったことだろう。現時点でも駄目駄目かと問われたらそうは言えず、流通プロセス全体やリスク管理、決済とチェーン上の各事業者の事情を上手くバッファしている。いまでも。
 
問題は端的に、全体としてパイが小さくなってきてることと、小ロット化の傾向が加速して販売単位ごとの損益ハードルが上がってきてること。コスト構造があわなくなってきてること。なんのことはない。新聞社の問題の変奏曲である。
 
というところで、「ああ、医薬品のネット販売とも似ている・・・」と軽いロジックリープを起こしつつ唐突に締めてみたい。いや〜、どのファクターからどうアプローチしたものか。

追伸:前々回取り扱ったEDIテーマの話日本情報処理開発協会(JIPDEC)の企画としてセミナーになっている。メタレベルで取り纏めてしまうと、クラウドの標準化と国際競争力というポイントとも構図は似ているので、気になる方は是非。懸案テーマの系譜ということで微弱ながら弊社も協賛させて頂いている。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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