デスクトップ、とりわけアプリケーションとは何かを考えさせられる記事とエントリに立て続けに出会った。一つがCNETの記事「ヤフーとアドビが提携--PDFとオンラインサービスの連携をめざす」であり、もう一つがGoodPicの「WEBサービスのデータ構造が、Windowsのデスクトップを侵食する?」。ケースと理論編といったところか。
アプリケーション化するYahoo
まずニュースの方から。随分前から、Yahooはポータルと一言に言ってもコンテンツポータルではなく、サービスの比重が高まってきている。ディレクトリ、ウェブの入り口として「玄関」を意味する言葉が今でも使われているのはもしかしたら既に時代にそぐわないのかもしれない。また、余談になるがメディアとしての機能も高まりつつある。
両社が発表した声明によると、YahooとAdobeは今後複数のプロジェクトに共同で取り組んでいくという。これらのプロジェクトの中には、ウェブコンテンツをPDF(Portable Document Format)ファイルに変換するオンラインサービスの開発や、Yahoo Searchなどへのアクセスを可能にするAdobe Reader向けのツールバー開発が含まれる。Adobe Readerは、PDFファイルを参照するためのクライアントソフトで、Adobeが無料配布している。
今回の提携はYahooでアドビのアプリケーションが使えるようになるというものになる。これをWebサービスと呼ぶのか、また新しい概念を付加すべきかは別として、動的にせよ静的にせよコンテンツを見るといったものではなく、通常だとローカルPCで処理される作業内容がウェブ経由で提供されることになる。
トラフィックの誘導というYahooへの役割は本質変わっていない。ただ、誘導先がサイトやコンテンツではなく、アプリケーションとサービスになっているというだけといえばだけである。
両社は今週末にも、Adobe Reader向けに両社のブランドを冠したツールバーを発表する。このツールバーからは、検索やポップアップ広告ブロック機能などYahooのさまざまなサービスが利用できるほか、Create Adobe PDF Onlineにもアクセスできるようになる。Create Adobe PDF Onlineは、Adobeが運営するサブスクリプション形式のサービスで、PDF形式のファイルを作成するための基本機能を提供するもの。
サービス自体はアドビが保有し提供しているものとなるため、一種のOEMとなる。
デスクトップ領域とWebサービスの接点
この動きと呼応するかのように、GoodPicにてWebサービスについての考察が展開されている。
マイクロソフトの.NETフレームワークによるネットとの統合、というような技術ドリブンではなくて、様々なインターネットWEBサービス・プロバイダが具体的なサービスをデスクトップ環境と結び付け始めているのも、1年前には全然予想できなかった動き。
サービスとしての使い勝手を向上させた結果、デスクトップ環境との統合されてきたのだろうけど、「おこってみれば、当然だよな〜」というのは、イノベーションが社会的に普及してきた確実な実感といえそうです。
まず、環境として確実に広まりつつあるのは、ウェブ上で利用できるサービスは確実に広がっていること。検索サービスや特定のサイトで提供しているものに限らず、次々とAPIが公開され、ウェブ経由でアクセス出来るようになってきている。
ソフトウェアの競争力を見るには、OS-アプリ-データと関連する三つの層を考える必要がある(本当はもっと細かいがこの程度で割愛)。デスクトップ領域に限った話にすると、OSはWindowsが相変わらずシェアが高いのであまり気にしないとしても、アプリケーションのシェアは世の中のデータのシェアの影響を受ける。エクセルが非常に広範に使われているのは、みんなエクセルのデータを標準的にやりとりしているためデータの構造にロックインしてしまっているからである。
という視点で今の世の中を見つめなおしてみると、
そこで話を転じて、サーチ(HTML)とかメールとかRSSとか、最近、日常的に多く利用するデータ構造って実は、知らないうちにほとんどオープンな仕様のものになっていたりします。そういったオープンなデータ構造の上に、サーチエンジンとか、WEBメーラーとかRSSアグリゲーションなどのWEBサービス・アプリケーションが構築されている。
急激に量が増え、利用法も変わりつつあるのが、メールからウェブ関連のデータ。今まではブラウザ経由で参照されるかメーラーで読み込まれるくらいの、単純な世界だったものが、XML/RSSの普及と呼応するかのようにアプリとセットになりつつある。
ネットワークのあっち側に行ってしまうというのは、一昔前に言われているものとは違う形に落ちていくのではないかというのが金子氏の考察となる。
独自のデータ構造を構築したGoogleなり、Skypeなり、Amazonなどの企業が、自分達のデータにアクセスするためのAPIを、XML WEBサービスだったりWindows APIで公開しはじめているわけです。
これが分散コンピューティングと言われていた概念の具体的な実装なんでしょうか?そうなってくると、Windows上のアプリとは言え、これまでのWindowsアプリとは、かなり概念的に新しいパラダイムのような気がします。
思い起こせば、Javaが出てきた時に提唱されていたのは、ブラウザを中心点としつつピュア・ネットワーク・アプリケーションとでも言うべき仕組みだった。「ネットワーク上をプログラムが自由に動き回る」という言葉を何度耳にしたことか。
当時のイメージとしては、ブラウザが万能型の入り口としてプログラムを受け取り、実行していくという形であり、そのままシンクライアントPC、500ドルPCという構想に繋がっていた。FATかThinか、いずれにせよ切り分けの強いイメージである。しかし、最近の動きを思うとローカルとウェブはというか分かちがたく結びつくか、アプリの置き方が完全に変わってしまっている傾向が強い。
前半で扱ったアドビの事例はウェブ側に元々ローカルであったアプリの機能が吸収されたものとなる。また、各所で開発されているOfficeからウェブ上のデータにアクセス出来る機能の開発はアプリを拡張する形で、データをローカル以外のものに範囲を広げたものとなり、昔の論争とは異なる次元の発想が出てきている。デスクトップが中抜きされる結果になるのか、また新しいロックイン構造が生まれるのか、面白い領域である。
GoodPicの「WEBサービスのデータ構造が、Windowsのデスクトップを侵食する?」はGoogleとSkypeを比較しつつデータの置き場所と管理方法、競争力資源の設定方法についても触れていて面白い。是非。