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日本発のバイオ技術の事業化を目指して:トランスサイエンス俵輝道氏

2004/09/10 07:17
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プロフィール

渡辺聡

インターネット/IT分野で事業開発に携わる渡辺聡さんが、注目ニュースなどを題材に、そのニュースの背後にある本質的な変化とその先行きを、経済や社会との関わりの中で考えていきます。
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数週間前、知人に再会すると、バイオ系のベンチャーキャピタルに移ってしまっていた。転身には驚いたのだが、ITの隣接市場になるバイオやナノテクなどは、目の端くらいでは追っておきたいと思っていたこと、何よりもキャピタルの現場で何を見聞きして感じ取っているかに興味が湧いたので、互いの近況報告も兼ねてインタビューさせていただくことにした。

勤め先は株式会社トランスサイエンス。富士通出身の井上潔氏が立ち上げたなかなかにユニークなキャピタルである。

俵氏自身の経歴はこちらに掲載されているが、メーカーで企画部門に勤めた後に米国でMBAを取得。帰国後トランスサイエンスに参加することとなった。在学中の二年間も時折話をする機会があり、何度か顔を合わせる機会もあったが、帰国後ちゃんと話をするのは初の機会となる。非常に楽しみにして落ち合った。私の右下の経歴欄にもあるMBA友の会の幹事というのが私との共通軸である。

◆お久しぶりです。いきなりバイオ系のキャピタルと聞いてびっくりしたのですけれども、どういった経緯だったのでしょうか。

「日本発の技術の商業化に貢献したい」という自分のテーマを持っており、。インダストリーは変わりましたが基本的なこの姿勢は変化なく来ています。前職でも業務の一部としてベンチャー投資は行っていましたが、業務において自分の出す付加価値の社会へのインパクトがより大きくなり且つ自分の意思決定範囲が大きいポジションに移りたいと思いました。

また、ライフサイエンス系やバイオ系では比較的MBA的な人材が少ないので、業界のポテンシャルや米国の事情と比較し、活躍しうる場が大きいのではと考えました

さらに、この業界は特許が非常に重要であり、弊社も特許を非常に重要視するのですが、大学在学中から特許事務所でバイトしながら特許明細書の書き方を勉強したり海外の法律事務所でインターンをしたり、知的財産に近いところにいたので、ビジネスに加え、自分のキャリアとして知的財産権周りを一つの強みとしていきたいと考えました。

弊社は普通に案件を見つけて投資することももちろんしますが、大学の先生の特許取得のサポートを行ったり、その技術を基に会社を作るスキームからも手伝っています。

◆つまりはシード段階から関わっているということですよね。非常に珍しいのではないでしょうか。

同じようなことをしている会社は多くはないと思います。大学とのネットワークを多く持っているため、発明段階からシードの案件情報が来たり、もしくは特許出願前の技術開発段階から事業化を意識しての出願処理サポートもしています

また、特許を重要視している会社で社内に弁理士や博士号を取ったスタッフが多く、特許内容のチェックや戦略的な特許出願のアドバイスを行ったりも出来ます。他のVCとの違いはこのあたりにも顕れています。

他にも、他業種大手メーカーのライフサイエンス分野への新規参入のコンサルティングなど、投資の回収までの間のバランスをとるため、短期の収益に繋がるビジネスも展開しています。

我々のVCはライフサイエンスに特化していますが、創薬系だけでなく、例えばCROなど臨床のアウトソース先やこれから重要になる体内のドラッグデリバリーシステム(DDS)なども投資しています。DDSの説明をしますと、例えば市場では特許権の切れた薬があると後発薬が市場に出てきてその商品の競争力はなくなります。そこで、特許切れ間際の商品にDDSの技術を付加して、よりシャープに利く薬を再開発し、薬のライフサイクルを延長する、などのアプローチを狙ったりします。

◆基本的な話からになりますが、そもそも、バイオ産業というのは何を目指しているのでしょう、何を目標として事業がなりたっているのでしょう。

バイオ産業といっても色々ありますので、例を挙げます。例えば創薬系ベンチャーは製薬会社にdealを取れるか、がポイントになります。製品化に至るまでには非常に長い時間と資金が必要になるので開発の途中で製薬会社に開発リスクを負ってもらいます。それが開発過程の中では早ければ早いほど、ローリスクローリターン、遅ければ遅いほどハイリスクハイリターンとなります。従い、ライセンスの供与や事業売却などなんらかのディールが成立するまで、自社で研究開発のどの過程まで行い、どの時点で製薬会社にアプローチするか、は非常に難しい選択となります。

◆基本は製薬のR&Dアウトソースという理解でしょうか。

そうですね。

◆会社の成り立ちについて教えていただけますか。

社長は元々富士通で社内ベンチャーの制度を作っていた人間です。その後、業界として会社のインキュベーションをサポートする機能が必要になると思い、会社を設立しました。それに加え、やはり資金面のサポートが必要であると考えたところ、タイミング良く、政策投資銀行など金融機関に投資してもらうことができて、ファンドをつくりました。会社設立が平成13年。三年経っていない会社です。ファンドとしては運用を開始してから2年間程度です。

◆2年というとエグジット案件はありますか。

足が長い大学発のハンズ案件が多く、エグジットはまだです。今年の末くらいからエグジットが出始める予定になっています。

◆会社での役割、どういう仕事内容でしょう。

プロジェクトマネージャーのような役割です。投資案件や会社設立の話などのプロジェクトの話が出てくると、まず真っ先に動きます。詳細の特許や深い技術の話などになると社内・社外の専門家を巻き込んでチームを編成してorganizeして、案件を進めていきます。
投資後は、社外取締役として会社に入ったりして、経営をサポートしていきます。

◆それは面白そうですね。

凄く面白いです。毎日違う案件や局面に接し、常に最新の技術に触れられます。面白い案件は常にたくさんありますが、時間の関係でできることは限られますので絶えず優先順位を意識して業務を行います。逆に言えば自分が時間の意味でも、能力の意味でもボトルネックになっており、厳しいですが、それだけやりがいがあり、また自分も成長していると思います。

◆バイオ投資のプレイヤー、業界構造はどのようになっていますか。

まず、VC間での競合という考え方はあまりありません。最初のシーズの取り合い、という競合はあるかもしれませんが、案件ごとに一緒に投資をしたり情報交換をしたり、複数のVCが協力することも多いです。私の属するVCは新興でお金を色々なところから集めなくてはいけなかったので、ファンドレイジングの際に、他のVCからの投資も受けています。資本を入れて頂く代わりに、我々がライフサイエンスの目利きの専門家として情報を提供する、というスキームの投資です。

◆コンサルもこなすとなると、例えば、ドリームインキュベーターのような感じになるのでしょうか。

彼らはコンサルティング業が中心であり、VC内でもDIがキャピタルという意識はあまり持っていないようです。実際、社員の知り合いもいますが、コンサルティング的なアイデンティティを持っている会社です。投資してもコンサルティングをして、フィーを取るので、投資リスクは軽減されているのではないでしょうか。

◆今の業界の状況はどのようなものでしょうか。

バイオの業界は今出口のIPO市場が過熱気味の状況になっています。しばらくすると調整局面に入っていく可能性が高いです。出口が過熱気味であると入り口の投資時も過熱気味になり、様々な会社に資金が向かうようになってしまいます。このような時期は目利きとちゃんとした技術育成がさらに大事になります。

◆将来的なキャリアイメージとかはありますか。

ご存知の通り、バイオ企業の経営者は不足しています。私自身も技術や先生との良い出会いがあり、ご縁があればベンチャー会社へのCEOやCOOとしてjoinすることもあるかもしれません。
テーマに沿った形で、その時々の色々な要素を判断してキャリアパスを決めていくと思います。

また、現在プライベートな活動として、東大の先端研で協力研究員として講師をしていますが、これは技術系の学生にビジネス系の知識を教えるもので、彼らが自分の技術を基に、ベンチャーを起こすことを狙うなど、先述の「日本発の技術の商業化に貢献したい」という自分のテーマに沿うものです。このような活動も続けていきたいと思います。

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俵さんと知り合ってからは随分と長い。もしかすると、一番初めはまだこちらが学生をやっていたかもしれない。後日共通の知人に会った際に「そういえば、俵さんと会いましたよ」と持ちかけると、留学中も含めて随分前から様々な場所に顔を出し手伝いをしてはネットワークを育てていたと教えてもらえた。

話を伺いながら思い出したのは「持たずに押さえる:ハイテク/インターネットセクターの競争戦略試論」でまとめたアセットを持たない事業モデルである。

キャピタルのスタッフの陣容、経営方針を伺っていると会社の競争力は外部のネットワークを含めた知的資本にある。もちろん、VCなのでネットワークを生かすのは当然の話ではあるが、自前で産業界と大学に張り巡らせた上で共通言語で話すことの出来る体勢はコピーのしにくい競争資産となる。バイオの話を伺いに行ったところ、思わぬお土産までモデルケースとして頂けた気分になった。

初めに触れた友の会で今後やってみたいことなど、話は尽きなかったが、それぞれじっくりとやって行きましょうということでお開きとした。

俵さん、また美味しいワインでも飲みましょう。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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