知人と、クリステンセンの「イノベーションへの解」を半年ほどかけて読みこなす試みを行っている。シンプルに資料を読みつつ分からないところを質問しあい、ディスカッションをしているのだが、なかなかに発見があって面白い。情報産業の今を読み解くための考え方のヒントも多数受け取れている。
現在、ディスカッションは6章に差し掛かっている。モジュール化の進んだ産業で、如何にコモデティ化から逃れて収益を確保するかという、情報産業や自動車産業では最もクリティカルな問いかけに対してアプローチしている章となる。
ウェブの世界で起きている現象の幾つかが、コモデティ化と脱コモデティ化のモデルで説明出来、解決策ではないが、以前のエントリ「情報経済は崩壊するのか?」で取り扱った情報財のコモデティ化についての補助線くらいは引けるのではないかと思う。
まず、地ならしにコモデティ化のプロセスを確認するためにPC産業の歴史をモデルに沿って概観したい。
コモデティ化、モジュール化
PC産業において、コモデティ化以前以降はウインテル以前以降で分けるのが一番分かりやすい。
以前
ウインドウズOSとインテルチップが標準として採用される以前は、設計から組み立て製造まで垂直統合を行っていたIBMが最も収益性の高い企業であった。クリステンセンモデルでは、顧客の要望に製品品質がついておっておらず、性能向上にあらゆる手を尽くして製品を作り出すことの出来るプレイヤー=IBMが最も強くなるステージだと説明する。
この状態は永遠に続くかと問われると、そうでもないというのが前著「イノベーションのジレンマ」から提示されている基本思想である。顧客の要望に、競合以上に応えんと開発にしのぎを削るといつしか製品品質は顧客の要望を追い越してしまい、顧客は機能向上に対してありがたみを感じなくなる。プレミアム価格を支払わなくなり、競争のポイントは製品品質以外に移っていく。ここから転換点に入る。
以降
製品品質の向上が競争のポイントから外れると、製品は品質的には何を買っても大差なくなり、差別化のポイントは価格やデリバリー能力、サポートサービスにシフトしていく。同時に自社で専門的に作っていく必要が薄れるため、部品のアウトソースとモジュール化が同時に発生する。つまり、バリューチェーン中で付加価値の弱まったOS、CPUなどを部品化して外部のサプライヤーに依存する決定が下される。IBMがWindowsとIntelチップを標準技術として採用したのはこのような背景に基づいている。
※転換の場面の詳細については「解」の5章に詳しい。
モジュール化が起きると、対顧客への付加価値の源泉はモジュールそれぞれの進化と組み立て後のサービス部分にシフトするスマイルカーブ現象が発生する。マイクロソフト、インテル、デルが高収益企業となったのは本モデルで説明可能な範囲である。
クリステンセンは「不十分な状況」という表現を良く使う。不十分な状況にあるチェーン状の箇所への問題解決策を持っている企業が収益性を高く維持できるのだと。上記の転換は不十分な状況が製品そのもの(=IBM時代)から、周辺(=ウインテル+デル)にシフトしたという読み替えも出来る。
ポイントのみまとめたが大体が上記のようなモデルとなる。
更に拡大するアーキテクチャ
不十分な状況とサービスの付加価値、とごく簡単に触れたが、インターネットや関連機器のネットワーク化まで含めた考えると、サービスにシフトしたという単純な話ではなくなってくる。むしろ、PCもモジュールとして取り込んだネットワーク(家庭内だとビデオ、デジカメ、携帯などとじわじわとネットワーク家電ともう少ししたら自動車)にアーキテクチャーが事実上拡大し、アーキテクチャ全体が再度顧客の要望に応え切れていない不十分な状況に揺り戻っていると再定義した方が全体はすっきりと見通せる。
つまり、ネットワーク化が進んだことで「モジュール/製造/サービス」の三層が
チップ+OS/組み立て/流通+サポート
から
PC+周辺機器/ネットワーク設定/各サイトのサービス
と入れ子型に進化すると同時に、比喩的に組み立てと見做せるネットワーク設定部分は顧客の側に任されることとなり、再度不完全な状態が発生して収益可能性の高い領域となっている。
また、現在の競争の特徴は絶対的な支配者がいそうでいないことにある。ウインドウズOSは単体のPCのアーキテクチャは完璧に押さえているが、ネットワークまでを押さえきっているわけではない。チップも安定した部分から次々と内部化を進めているが、吸収が進むにしても形が固まるまでは時間がかかる。もちろんネットワーク機器のメーカーもPCやソフトの領域のコントロールは出来ず、サービス企業が収益が良いといっても、メーカー側をコントロール出来ている訳でもない。
さて、下地まで作ったところでインターネットビジネスへの応用は次回に。