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GoogleのIPO、乗るか乗らないか

2004/05/05 02:12
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渡辺聡

インターネット/IT分野で事業開発に携わる渡辺聡さんが、注目ニュースなどを題材に、そのニュースの背後にある本質的な変化とその先行きを、経済や社会との関わりの中で考えていきます。
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Googleの株式公開についての考察は散々為されているので、何をいまさらということで割愛。休み中のOFF的エントリとして、ちょっと切り口を変えて投資家の立場からどう考えているかをまとめてみたい。

事前整理として、クラスAとクラスBと分けられているとGoogleの発行方式を通じて彼らがやりたいだろうことについて。Googleの本質を見定めようとした場合、きっちりと理解しておくべきポイントとなる。

参考モデルは、自身が「Much of this was inspired by Warren Buffett’s essays in his annual reports and his “An Owner’s Manual” to Berkshire Hathaway shareholders. 」と記述しているように、バフェットの投資会社BERKSHIRE HATHAWAY INC.になる。また、四半期の目標達成よりも長期戦略を重視して四半期及び通年の業績予想を公開することを取りやめたコカコーラのような企業の決定も意識されていることだろう。

公開用の財務資料、S-1の中で長期戦略への集中を記述したエッセンスは下記の通りとなる。

If opportunities arise that might cause us to sacrifice short term results but are in the best long term interest of our shareholders, we will take those opportunities. We will have the fortitude to do this. We would request that our shareholders take the long term view.

Many companies are under pressure to keep their earnings in line with analysts’ forecasts. Therefore, they often accept smaller, but predictable, earnings rather than larger and more unpredictable returns. Sergey and I feel this is harmful, and we intend to steer in the opposite direction.

コカコーラが達成しようとしていることと基本は同じになる。端的に、四半期ごとにチェックするウォール街スタイルから離れて競争にどっぷり集中したいと述べている。

議決権の異なる二種類の株式という方式はBERKSHIRE HATHAWAY INC.にて採用されている方式となる。SHAREHOLDER LETTERSは翻訳「バフェットからの手紙」が出されているので、おとなしく翻訳も参考しつつ。

バークシャーが公開株について規範あるいは目標としていることは
1:実体価値以上に株価が高まることを望まない。フェアバリューを軸とした狭い範囲内で推移することを望む。
2:売買が激しくなることを望まない。バークシャーを理解し、長期で企業とともにあろうとする正しい株主のみをひきつけるべく努力する。
3:正しい株主を維持するために、安易な株式分割は行わない。

と、企業のオーナーとして考えて行動する人たちとのコミュニティを作ることにある。実際バークシャー株の回転率は年に3%程度、95%ほどの株式が5年前と同じ株主によって保有される安定した状況になっている。

バークシャーでクラスBが発行された大きな理由は、バークシャー株に連動した投資信託の市場参入を防ぐことにある。つまり、上記の2,3がコントロール出来なくなることを恐れて取引単位の小さいクラスB株を発行することで、新規参入を防いでいる。クラスBは議決権と慈善活動への投票権を除いて、A株の30分の1の権利を持った株式であり、クラスAからクラスBには不可逆で転換可能となっている。合わせて、単位株式が小さくなっていることで、株主の安定性を維持したまま、分割贈与もしやすくなっている。つまり、3はやや犠牲になるが、より重要な2の要件を満たすべく、事実上の分割を行ったことになる。

資料冒頭の二つのクラスの記述を見ると、

The rights of the holders of Class A common stock and Class B common stock are identical, except with respect to voting and conversion. Each share of Class A common stock is entitled to one vote per share. Each share of Class B common stock is entitled to ten votes per share and is convertible at any time into one share of Class A common stock.

議決権の配分や転換権など、バークシャーに類似した形式となっている。

ここにオープンIPOの制度を重ね合わせてみてみる。梅田さんのウィリアム・ハンブレクトへのインタビューにこのような記述がある。

Q オープンIPOした株の変動は、従来とは異なるのでしょうか。

A これは分析してみたのですが、値付けは最終的には高くなります。アフターマーケットを見ると、取引も少なく、従来のように激しく上下に変動しない。つまり、オープンIPOでは、アフターマーケットの感情的な激変を避け、IPOの熱狂が収まる6ヵ月後には他と同じ適正レベルになる。短期で取引をしようとするなら向かないかもしれませんが、長くその株を保持するつもりなら合っています。

オープンIPOで公開された株式は価格の安定度が高いという。つまり、この現象を理解して取り入れようとしているのであれば、バークシャーと狙いは似たところとなる。

以上より、Googleが達成しようとしていることは、
 1:長期戦略に集中する
 2:1を担保するために意思決定がぶれないように権限を集中させる
 3:2を担保するために、適切な株主を引きつける仕組みを埋め込む

の三点がベースだと総括出来る。

しかし、バークシャーとの違いとして、より広範な投資家にアプローチしようとしていることが指摘できる。明記されているか見つけられなかったが、株主候補として、Googleユーザー一般が想定されているだろう。これは、Googleの顧客基盤とブランドの根本を考えると避けられない。クラスB発行前のバークシャーのように比較的少数の株主とのコミュニティというわけにはいかなくなる。

この違いは大きな差に繋がる。Bloggerとオーディエンスの関係ではないが、関係者の数が増えれば一般的に価値観は多様化し、政治的なコンフリクトも起き易くなる。バークシャーの条件2は満たしにくい。また、単位株が数十ドル程度の一般的な株価になるのであれば、同じく条件の3は初めから放棄されていることとなる。Google条件の3については、結構難しいのではないだろうか。意思決定を過度に集中させているのは、成立しにくい試みにTryしていることを既にして理解しているためではないかと読みたくなる。
 
 
現段階で投資するか否か
 
前段を踏まえた上で。投資家、特に個人投資家にとって今回のIPOに乗るのはいい意思決定になるだろうか? 仕組み一般を通し眺めても、チャレンジングな試みをしている企業であることは間違いない。しかし、チャレンジングであることと、投資家として参加することは異なる。数字の詰めは行っていない段階での感覚値となるが、個人投資家にとってGoogleファンの証を立てるのでなければ、IPO段階であえて投資することはないだろう。定性的な理由は下記の通りとなる。

◇既にして加熱している
熱気の中にあえて飛び込む必要はない。空気感からすると、買いを入れるよりは利益確定のタイミングとなる。本IPOは新しい株主のためというよりは、VCを始め既に投資している人達が投資家が一息つくための色が普段のIPOより強い。過熱した状態がずっと続くのもあまりよろしくなく(半年ほど前までのeBayがこの状態に近かった)、ファンとしてじっくりゆっくり付き合うのであれば、何も今参加する必要はなく落ち着いてからでも良い。オープンIPO等で妥当な価格でもし取引されるのであれば、IPO後しばらく経ってからでも状況に変化はないわけで後日ゆっくりでも問題ない。

◇グロース銘柄になるにも関わらず、上方への成長余地はさほど大きくない
Googleはほぼ間違いなく割高で取引されることだろう。よって、資産やキャッシュフローに対して株価が割安なタイミングで買いを入れるバリューの発想は使えない。よって、グロースの要素を見出さなければならないが、日本円にして2兆円前後と言われる時価総額を日本市場のランキングに当てはめてみると、

21位 東証1部 (株)りそなホールディングス
22位 東証1部 東日本旅客鉄道(株)
23位 東証1部 シャープ(株)
24位 東証1部 (株)デンソー

とベスト30に入る規模となる。米国市場ではもちろん、これ以上の規模の大物が何社もあるが、成長余地で言うとそう大きくない。

◇仕組みにやや無理が感じられる
ガバナンスの歪みそのものについては、大きなトラブルが発生することなく適切に運営されている限り問題は顕在化しないため目をつぶる事も出来なくはない。しかし、上記にまとめた通り、ガバナンスには目をつぶったとしても無理をしていると感じられる。この手の歪みは良いときは良い風に回るがボタンを一つ掛け違うと大きな間違いに繋がり易い。例えば、今回のGmailのプライバシー問題のような場面で意思決定を間違うと一気に存続の危機に立たされる可能性もある(分野も状況も異なるが、雪印があっけなく店仕舞いした出来事を先例としたい)。少なくとも、Gmail問題が落ち着くまで、この手のリスク耐性の高さは読めない。また、ユーザーコミュニティの声に耳を傾けていると厳しい意見が目に付くようになってきているのは良くない兆候であり、懸念事項といえる。

◇最大の競争資源である人材の確保がこれまで通り可能か不透明である
Wiredにて、ペイパルがIPO後に人材流出で打撃を受けた事例と比較した記事がまとめられている。大なり小なりGoogleにも同様の現象は発生するだろう。

IPO価格と公開後の株価の推移、公開後四半期から半年で何が起きるかを見ないと長期的な判断には足りない。スムーズに事が進み、懸念事項もさっさとクリアして半年後くらいには杞憂だったと振り返っている可能性ももちろんある。しかし、現時点の不透明な状況で、あえて火中に栗を拾いに行く必要はないだろうというのが現時点では結論になる。ただ、事もなく進んだ場合、どこかの時点でファン的にちらっと小額買ってしまう予感はしている。
 
 
改めて
 
最後に改めて記述するが、本エントリはGoogleのサービスの面白さや分析考察対象としての良さとほとんど関係がない。Googleが何をしようとしているか、それぞれの打ち手が象徴するものは何になるのかを丁寧に考える日々は変わらず続くことだろう。ユーザーの期待に応えるいいサービスを生み出し、それこそ世界をより良く再構築するような進化を遂げていって欲しいと変わらず願う気持ちは以前も今も変わりない。基本の基本は好きな企業のひとつなので頑張って欲しい。
 
 
 
追記:
Googleの矛盾を抱えた状況について春廼屋にてコンパクトにまとまったエントリがされています。

全編まとまりが良いですが、三箇所だけ引きます。

共同創業者のPage氏も述べているように、GoogleはIPOする必要はない、と。じゃあなぜIPOに踏み切るのか?ベンチャーキャピタルからのプレッシャーとしか考えられない、とLexコラムは指摘しています。

VCはこれによりExitできるわけですが、結果として『中を見られて色々口出しされたくない公開企業』という非常に矛盾した存在になるわけです。サーチ結果の独立性を維持したいのなら、非公開企業のままにとどめるべきである、としめていました。

しかも今回はIPO時にアメリカ以外の投資家は入れないみたいですね。航空会社とかでは、いきなり外国資本がほとんど占めてしまうといけない、ということでこういうケースは過去にもありましたが、インターネット企業ではちょっと信じられないです。

まさに「おっしゃるとおり」。

最後のポイントは本エントリで指摘されて初めて気が付きました。サービス範囲や事業所の展開を考えると間違いなくグローバル企業になるので、投資家視点から考えると、違和感を覚えます。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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