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組織改革への投資の重要性と難しさ

2004/11/05 08:45
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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CNET Japan「江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance」の「インタンジブル・アセットのちから」で、MIT Sloan School教授であるErik Brynjolfsson氏の日本での講演内容が詳述されている。とても面白いので是非、お読みいただきたいと思う。

ITへの投資と組織改革への投資

ITによる生産性向上の格差は企業によって大きく格差があり、「IT資本と組織資本の両方に投資しているかどうか」がその成否のカギを握るという論で、

「氏はこれを「氷山の一角」のアナロジーで解説し、ハードやソフトなどの目に見えるIT資産は全体の10%に過ぎず、残りの目に見えない90%が投じられる場所はビジネスプロセスを改革し続ける企業文化や社員研修、動機付け、目標の明確化などの「組織改革」への投資であるとした。

そして氏の主張の真骨頂は、「ITへの投資」と「組織改革への投資」は相補関係にあり、単に「バランスよく行う必要がある」という予定調和的な結論ではなく、「一方が一方のボトルネックになるから、バランスを間違えると投資対効果を根本的に減じる」という結論にある。言い換えれば、投資の90%を占める「組織改革への投資」の側面を徹底してハイライトすべし、ということである。このニュアンスの違いは重要である。」

江島さんはこの講演に参加して、こう総括されている。

IBMの組織改革への投資

今日ご紹介するIBMの「組織改革への投資」事例は、こんな文脈で読むとより面白いかと思う。今日の題材は、Fast Company誌の「IBM's Management Makeover」である。

2002年秋のこと。IBMのCEOに就任したSam Palmisanoは、

「His idea: The Internet really did change everything (the crash of the New Economy notwithstanding). In a hyperconnected world, IBM's clients needed to become "on-demand" companies, their every business process exquisitely calibrated to respond instantly to whatever got thrown at them. And to help them, IBM would have to do exactly the same thing.」

という考えを表明した。インターネットは本当にすべてを変えた。この「hyperconnected world」では、IBMのクライアントは、何が起こっても瞬時に反応できる精緻なビジネスプロセスを作りこんだ「オンデマンド」企業にならなくちゃいけない。そのためにはIBMも同じように「オンデマンド」企業にならなくちゃならない。

グローバル人材担当VPのDonna Rileyは、この考えを聞いて、素朴な疑問を持った。

「whether the company had the right managers for its new direction.」

果たしてIBMには、そういう方向に向かっていくための正しいマネジャーがいるんだろうかと。

そういう疑問が起点となって、翌年の春までに、

「By the spring of 2003, Palmisano and his leadership development team realized the strategy would indeed demand a new breed of boss -- leaders who were as sensitive to changes in their environment as Indian scouts.」

IBMには「環境変化に対してものすごく敏感な新種のボス」が必要だという結論に達したという。

従来とは全く異なる「新種のボス」

そこで、IBMは、組織内から「新種のボス」タイプの幹部を33人選んだ。

「33 executives who had been identified as outstanding leaders in the new on-demand era」

「They were drawn from every division of the business, every part of the world, united by their extraordinary ability to get the job done.」

世界中のIBMの組織から33人を選ぶという選定自身は、評判や実績をベースとした総合判断によるものだったのだろうと思う。

「The plan was to put these top players under a microscope, to divine how they thought about their jobs and the company; how they interacted with clients, peers, and subordinates; how they set goals and went about meeting them -- in short, to extract the best practices from the best leaders to see if they could be duplicated.」

そしてこの33人のありようを徹底的に解剖して、
(1) 彼らが仕事や会社に対してどういう考えを持つか
(2) どのようにクライアントや同僚や部下と付き合っているか
(3) ゴール設定のやり方や達成に向けての仕事の仕方
などなどを知り、そこから学んだ結果を全組織に展開しようとするプロジェクトが起こされた。

コンサルティング会社を雇って、自社幹部の徹底インタビューをやり、その幹部たちの周囲の人間からも聞き取り調査を行う。

「The results were stunning. "The experts predicted maybe a third of the competencies would be the same, a third would be slightly different, and a third would be brand new," says Riley. "Much to their surprise -- and ours -- we found it truly is a new book," requiring all new skills.」

そしてその結果はどうだったか。

新しいリーダーの特質

「3分の1くらいのコンピタンスは昔と同じもの、3分の1くらいがちょっと違う、そして3分の1くらいが全く新しい」くらいなんじゃないのかなという予想を覆し、「オンデマンド」企業を率いる幹部には、ほぼ100%、過去とは全く異なる新しいスキルが必要だという結論が出たのだという。

ここから先、新しい発見のうちいくつかと、新しいリーダーシップの特質が列挙されているので、興味のある方は原文を当たっていただきたい。

第一の例としては、顧客を「カスタマーではなくクライアント」として扱う姿勢が挙げられている。その違いは、

「"A customer is transactional," says Harris Ginsberg, IBM's director of global executive and organization capability. "A client is somebody with whom you have a longstanding relationship and a personal investment." 」

カスタマーというのは一回清算の取引という感じの付き合いだが、クライアントというのは長期的な関係を築き、個人として投資していく対象、というものだ。

インタンジブルな投資には勇気がいる

この「カスタマーではなくクライアント」の発見も含めて、「組織改革への投資」の具体例であるIBMのこの試みを読んで、読者の皆さんは何を感じただろう。

コンサルティング会社まで雇ってのIBMのこのプロジェクトはけっこうカネがかかっているけれど、何だかふわふわしたものに莫大なカネを使って本当に意味があるのかよ、出てきた答えなんか皆知っているよ、しかも答えが出てきたってどうせ会社は変わらないだろう・・・・、などと思われた方も少なくないのではないだろうか。

冒頭の江島さんのエントリーに戻って、この講演者であるBrynjolfsson教授には「インタンジブル・アセット」という著書があるが、まさにIBMの「新時代の組織リーダーシップの特質を抽出して組織全体に広げていく」このプロジェクトなどは、「インタンジブル」な投資の好例である。

「当たり前のように思えること」でも、ただ言っただけでは大組織に浸透していかない。ある程度、カネと時間をかけて納得感を醸成していかないと、組織全体に新しい考え方は浸透していかないものなのである。

しかしこういう実例を読むと、いくら「10:90」で「インタンジブル」な投資が重要ですよと言われたって、そしてよしんばそれが真実だと思えたとしても、「インタンジブル」な投資の中身を見ると何だか雲をつかむような話に思えて投資する気が萎えていってしまう、というのが企業の現場で起こっていることだということも、合わせて実感できるのではないだろうか。

「インタンジブル」な投資というのは、「タンジブル」な投資以上に、ものすごく勇気がいるものなのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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