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新時代のキラー・アプリを作るアルファ・ギーク

2004/09/21 09:48
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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先週金曜日の続きで、今日もTim O'ReillyのOpen Source Conventionでのキーノートスピーチを読んでいきたいと思う。前回の最後で、

「(1)まず新しい産業を変えるだけの力を持つ技術を見つける。(2)そういう技術については、「最も先鋭的なハッカー」と言ってもいいし、「アルファ・ギーク」と呼んでもいいが、「尖ったエンジニア」「最先端のプログラマー」たちが、その技術を用いて、ああでもないこうでもないと、いろいろと実験をしているものだ。(3)その挙句、「アルファ・ギーク」たちは既成概念の枠を超えた次なる高みに達する。(4) そして、「アルファ・ギーク」たちが、「where the technology really wants to go.」、つまり「技術自身がどこに向かっていきたいのか」を我々に示し始めるのだ。ちなみに、「アルファ・ギーク」とは、「技術」があたかも自らの意思を持った人間であるかのような言葉遣いをする人たちなのだ。そんなプロセスに寄り添うことで、Tim O'Reillyはビジョナリーとしての知見を得るのである。」

と書いたが、ある特定技術領域においてこうしたプロセスが自国内に存在するか、というのは産業の国際競争力という観点で、とても重要な要素である。

アルファ・ギークの重要性

たとえば、ハードウェア、材料、モノづくり、といった技術領域においては、このプロセスは日本の大企業の中でくるくる回り続けてきた。一方、ソフトウェア全般はアメリカを中心にこのプロセスが回ってきた。でもこれからはどうなるかわからない。日本もハードウェア分野以外の「アルファ・ギーク」たちをもっと大切にするようになれば、ハードウェア以外の領域でもこのプロセスが回り、新しいイノベーションがより大きな事業につながってくるに違いない。起業家や大企業が出てくる前に、「アルファ・ギーク」たちが行くべき道を示すのであるから。

Tim O'Reillyは、William Gibsonの

「“The future is here, it's just not evenly distributed yet.” 」

という言葉を引いて、会場に集まった「アルファ・ギーク」たちに、

「You guys, many of you are doing things that are going to be embraced by millions of people two or three years from now, or five years from now, or ten years from now.」

と激励する。

さて、このあとで、Tim O'Reillyは彼の持論「オープンソース・パラダイムシフト」の話をする。

2003年の同じコンファレンス「OSCON」のキーノートでTimが話をしたもので、この1年、彼はこのビジョンに基づいて、さまざまな文章を書き、さまざまな発言をしてきた。2003年のキーノート「The Software Paradigm Shift」については、同じIT Conversationというサイトに、2004年のスピーチ同様、豊富な情報が載っている

オープンソース・パラダイムシフト

また、彼の考えの現時点での集大成は、前回もご紹介した最新論文「The Open Source Paradigm Shift」(来年出版される本の一部)にまとめられている。一言でいえば、Personal Computingに代わる新しいコンピューティングのパラダイムについてのTim O'Reillyのビジョンだ。「その10分バージョンをこれから話すよ」ということで、このスピーチはそのサマリーへと移っていく。

このことについては、本欄でも以前、何回かに分けて彼の考え方を紹介したので、記憶されている方も多いかと思うが、重要なことなので、改めて取り上げる。

「You probably noticed that we're starting to publish more books about sites like Amazon, Google, eBay, PayPal, and we've been thinking a lot about what these guys mean. The fact that these are the new killer apps, if you like, of the computer industry, Google, eBay.」

要は、Amazon、Google、eBay、PayPalといったネット時代の先駆者たちというのは何を意味しているのだろうか、と考え抜いた結果、GoogleとかeBayというのはコンピュータ産業における新しいキラー・アプリケーションととらえるべきだ、という結論に達した。PC時代のキラー・アプリが「MS Word」だったとして、新時代のキラー・アプリがGoogleやeBayだとすれば、それは何を意味しているのだろうか。

「One of the things that really got me thinking though about these applications was that most of them are built on open source.」

そこでTimは、GoogleやeBayといった新時代のキラー・アプリのほとんどが、オープンソースで作られていることに注目する。

「In fact in my very first speech on open source back in 1997, I concluded with my line, “We don't want to be the next Windows, we want to be the Intel Inside of the next generation of computer applications.” And I thought for many years that we were well on our way to that vision.」

Tim O'Reillyは、オープンソースを世に知らしめていく活動の中心人物の1人であったが、彼は1997年、つまり7年前に自分がしゃべった「オープンソースは次世代ウィンドウズになろうとしているのではない。次世代のコンピュータ・アプリケーションにおけるIntel Insideになりたいのだ」という自分のスピーチを引用して、今、時代は自分が言った通りの方向に進んできたと胸を張る。

そしてここで、「The Innovator's Dilemma」を書いたハーバードのクリステンセン教授の話題を出し、

「He was talking about commoditization of industries. It's something a number of us have been talking about that open source is related to the commoditization of many types of software that were formerly seen as sources of a great deal of value. And so you have people like Jim Altan of Microsoft saying, “Open source is an intellectual property destroyer,” because of course it's taking away something that Microsoft was charging a lot money for and turning it into something that has a much smaller value. Bob Young of Redhat once said, “My goal is to shrink the size of the operating system market.” So that's all software commoditization.」

ソフトウェアのコモディティ化についてこう語る。

日本のアルファ・ギーク

間違いなく日本の「アルファ・ギーク」の1人である、最近「はてな」に移った伊藤直也さんが、Timと全く同じ問題意識を、より明瞭に、そのBlog「MySQL は商用 RDBMS にとっての破壊的イノベーション」で書いている。これは、先週の本欄「第2世代のオープンソース企業」にトラックバックしていただいたもの。少し長くなるが、引用する。

「オラクルは、この MySQL が進出してきている市場は、自社の価値基準には合わないし、投資しても会社の規模に見合うだけのリターンが得られないということで、この市場はさっさと MySQL に明け渡して喜び勇んで上位市場へ移行します。オラクルが上位市場へ移行したことにより、ぽっかりとあいた下位市場では破壊的企業、オープンソースの RDBMS を投入する企業が活躍するわけです。そこで力をつけた破壊的企業は徐々に上位市場を侵食しはじめ...というのがイノベーションのジレンマどおりのシナリオですね。」

「MySQL や PostgreSQL がどうして破壊的なのかという問いに関しては、まず第一にフリーだからという点が挙がります。しかし実はここは重要なポイントではなく、コストが劇的に下がったことで RDBMS をファイルシステムに代わる単なるストレージとして利用するようなシステム形態が可能になった という点が一番大きいのだと思います。単なるアプリケーションの設定情報を保存しておくとか、アプリケーションのキャッシュを保存しておくとかといった用途のために高額のライセンス料を支払ってオラクルを使うというのはばかげた話ですが、MySQL であればそれも可能。また、単に無料というだけでなく、MySQL は RDBMS をストレージとして利用するという観点で設計されていることもあり、その点においては非常に柔軟かつ強力です。これによりどんなことが可能になるかというと、NFS のような不安定な仕組みを利用せずとも、TCP/IP 付きのストレージによりデータを共有することができます。また、SQL のように標準化されたインタフェースでそれを操作することができ、プラットフォーム非依存なストレージとして活用することができます。実際、はてな ではこの MySQL の利点を最大限まで活かして多くのデータを MySQL に格納して共有しています。アプリケーションのキャッシュなど、障害が発生して消えてしまっても特に痛手ではないようなデータはオンメモリ・レプリケーションでディスク I/O をカットして高速化させたりしています。この、ファイルシステム代わりのストレージとして RDBMS を使うという考え方が定着してくると、アプリケーションの開発の仕方や可能性がかなり拡がるわけで、もう以前の環境には戻れないでしょう。従来その製品で想定されていた利用形態とは異なる形態で威力を発揮しはじめているという点においても、MySQL は破壊的なのでした」

このMySQLという技術について彼が語る語り口は、冒頭で挙げた4ステップの

「(4) そして、「アルファ・ギーク」たちが、「where the technology really wants to go.」、つまり「技術自身がどこに向かっていきたいのか」を我々に示し始めるのだ。」

そのものである。まだそこまでは成長していないけれど「はてな」の位置づけはGoogleやeBayと同じ、新時代のキラー・アプリ候補であるから、伊藤さんが語る話は、Tim O'Reillyのオープンソース・パラダイムシフト論の「アルファ・ギーク」側からの検証になっているのだ。

新時代のキラー・アプリ

そして、Timは、

「All these guys are building proprietary software on top of the open source components.」

「It’s no longer lock-in by API, it's lock-in by network effects.」

という言い方をする。新時代のキラー・アプリ創出者は、オープンソース・コンポーネントの上にプロプラエタリー・ソフトを開発して、そこをブラックボックス化し(Googleのスーパーコンピュータなんかはその好例だ)、APIでロックインするのではなく、サービスを享受する人たちのネットワーク効果によって、ロックイン・メカニズムを構築するのである。

まだ14ページの速記録の4ページ目までも終わっていないけれど、長くなったので、今日はここまで。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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