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ビジョナリー・Tim O'Reillyの仕事術

2004/09/17 11:04
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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現代では当たり前のことなのではあるが、インターネット上には本当に貴重な情報が溢れている。

「情報洪水」ということもまた当たり前で新規性のない話なのであるが、ある情報が仮にいくら貴重であっても、情報をじっくり処理して考える時間をこちらが持たなければ、その情報は何の価値も生まない。

たとえば今日から3回に分けてご紹介しようと思うTim O'ReillyのOpen Source Conventionでのキーノートスピーチなどは、もとは45分のスピーチだが、その何倍もの時間をかけて、じっくりと消化したい内容である。

肉声、速記録、関連情報の大変なボリューム

彼のスピーチがちゃんときれいに録音されていて無償で聞くことができる(彼にとって大切な場でのスピーチなので気合が充実している)し、スピーチはちゃんと文字に起こされてもいる(全部で14ページある)から、耳でスピーチを聞きながら、その内容を一字一句たどることもできる。使われたスライドは全部PDFファイルになっていて、これも無償でアクセスできる。関連解説記事や、Tim O'Reillyが書いた最新論文「The Open Source Paradigm Shift」(来年出版される本の一部)も含めれば、大変なボリュームだ。英語の勉強にも持ってこいの内容だ。

「でもそうやってひとつのことにかかりきっていては、その間もネット上を流れる情報を処理し続ける時間がなくなってしまう」などと思う人は、もうひどい情報中毒になっているのだろう。ネット上の膨大な情報を、右から左へとどんどん処理することにだけ追われていると、貴重な情報を消化して考える大切な時間がなくなってしまい、本末転倒になりはしないだろうか。

貴重な情報がこうしてネット上に溢れていること自身は素晴らしいことだ。僕が学生だった頃の情報飢餓状態のほうがよかったなんていうつもりはない。でも自分がもし20歳若かったら、いま情報との関わり方についてのタイムマネジメントをどうするのか、結構真剣に悩みそうな気がする。

IT産業、ネット産業全体の潮流や今後について興味のある読者の方で、英語の勉強も兼ねてじっくりと取り組むべき対象を求めている人には、今日からご紹介する対象は間違いなく一級品である。だまされたと思ってでもいいから、このTim O'Reillyのスピーチや論考に、じっくりと長い時間を費やしてみてください。

さて、このIT Conversationというサイトをつい最近まで知らなかったため取り上げるのが遅れてしまったのだが、このTim O'Reillyのスピーチ自身は7月末のものである。また最新論文「The Open Source Paradigm Shift」(来年出版される本の一部) も5月に書かれたものである。

筋の良い情報とは時間をかけて向き合うことが重要

ネットでの情報処理は、毎日大量な情報をさばきながら、とにかく「新しいもの」「新しいもの」へと向かっていきがちだ。「えっ、5月?」「えっ、7月末」「もう古いかも」なんて感覚があるのはよくわかる。ネット上のたくさんのものに目を通している読者の中には、Tim O'ReillyがOpen Source Conventionでどんなことをしゃべったか、あるいは彼がどんな論文を5月に書いたかの断片は、知っている人も多いことと思うが、やっぱり少し遅れてでも筋のよさそうな対象とは時間をかけて向き合い考えることが大切だと思う。

余談が続いてしまうが、たとえば、GoogleがIPOに際してSECに提出した書類「Form S-1」の全体も、特にGoogle創業者が書いた「LETTER FROM THE FOUNDERS “AN OWNER’S MANUAL” FOR GOOGLE’S SHAREHOLDERS1」などは、本当に時間をかけて、一字一句、その背景の意味を考えながら読むに足る貴重な情報ソースだと思う。

さて、前置きが長くなったが、ここからが本論。

O'Reillyがやっていることは何か

Tim O'Reillyという人は、現代IT・ネット産業のビジョナリーとして五指に入る人だと思う。その彼のビジョナリーとしての仕事の仕方や意識のあり方がよく現れている冒頭部分を今日はご紹介する。

「The talk I'm going to give you this morning is a rapid-fire run-through of a bunch of ideas that are preoccupying me and hopefully to some extent my company. That notwithstanding, it's sometimes very hard to get people even who work for me to pay attention to my vague ideas. I'm tearing my hair out saying, “Hey, here's this really important thing,” and they're kind of going, “Well, tell me more,” or sometimes they're just going on.」

彼自身心を奪われている多くのアイデアがあっても、まだそれらが曖昧なだけに、彼を最も理解しているはずの周囲の人たちに話しても、なかなかきちんと理解されず、「もっと詳しくちゃんと説明してくれよ」なんて言われてしまう。そういうアイデアの数々をまとめて、できるだけわかりやすく話そう、というのがこのスピーチの趣旨である。だからスピーチのタイトルが「O'Reilly Radar 2004」となっている。

そしてTimは、自分の会社であるO'Reilly Mediaが、何をやっているのかから話したいと言う。

「But, what I really want to start with is just a brief idea about what we think we do at O’Reilly. Some of you have heard this before, but I really want to get this point across. We don't publish books. What we really do is we try to capture the knowledge that the innovators among us have. We basically are all about helping to change the world by getting the knowledge of the people who are inventing the future. So we try to find people who are really cool, doing interesting things, and find ways to spread the word. Sometimes that’s a book, sometimes it’s a conference, sometimes it is online publishing, or it might just be going out there and doing some activism.」

自分たちは本を出版しているのではなくて、イノベータの持つ知識を何とか獲得しようとしている。未来を発明しようとしている人たちの知識を得ることで、世界を変える手助けをするのが我々の使命だ。だから、本当にクールな人、本当に面白いことをやっている人を見つけるべく努力し、その言葉を広める道を探している。それは本の形をとったり、コンファレンスだったり、オンライン出版の形をとったりする。何か積極的な行動に出る場合もある。

次世代を切り拓く才能に耳をすます

そう、基本的に彼がやっているのは、IT産業、ネット産業における次世代を切り拓くだろう才能を発掘して、彼らの言葉に耳をすませるということで、そういう彼の日ごろの活動のプラットフォームが、O'Reilly Mediaという会社なのである。

「So, what we have to do is we have to keep finding the new transformative technologies. This premise underlies everything we do. There is a hacker frontier if you like, where new and interesting things come out and the people I sometimes called the “Alpha geeks” get out there and start experimenting with them and they say “Oh, it doesn’t work quite the way I want,” and they start pushing the envelope and they start showing us where the technology really wants to go. 」

この部分がとても重要だ。(1)まず新しい産業を変えるだけの力を持つ技術を見つける。(2)そういう技術については、「最も先鋭的なハッカー」と言ってもいいし、「アルファ・ギーク」と呼んでもいいが、「尖ったエンジニア」「最先端のプログラマー」たちが、その技術を用いて、ああでもないこうでもないと、いろいろと実験をしているものだ。(3)その挙句、「アルファ・ギーク」たちは既成概念の枠を超えた次なる高みに達する。(4) そして、「アルファ・ギーク」たちが、「where the technology really wants to go.」、つまり「技術自身がどこに向かっていきたいのか」を我々に示し始めるのだ。ちなみに、「アルファ・ギーク」とは、「技術」があたかも自らの意思を持った人間であるかのような言葉遣いをする人たちなのだ。そんなプロセスに寄り添うことで、Tim O'Reillyはビジョナリーとしての知見を得るのである。

「And then along comes some entrepreneur and says, “ Oh, really good idea, let me go to a venture capitalist,” and then we start having new companies start around this idea and then eventually some big player says, “Oh, I’m either going to buy that entrepreneur, or I’m going to copy what they did,” and eventually the technology gets incorporated into some relatively stable and maybe even boring platform. The hackers say, “Oh man, this isn’t so cool any more,” and they go find something new and cool. And what our job at O’Reilly is, is to make sure that we follow the people to those new frontiers and keep bringing the new ideas back.」

起業家(entrepreneur)はそのあとに出てくる。大企業(big player)はそのもっとあとに出てくる。大企業が出てきた頃にハッカーたち(アルファ・ギークたち)は、もう飽きてしまって「something new and cool」を探しに行ってしまう。O’Reilly Mediaという彼の会社は、こうした流れ全体の中に身を任せることで成立しているのである。

続きはまた来週となりますが、興味を持った方は、ぜひ連休中にでも、テープや原文やスライドに当たってみてください。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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