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CNET Japan ブログ

ベンダーサイドだけがITのキャリアではない

2004/08/31 09:32
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プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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[ゲスト] 村山尚武 Naotake Murayama
8月26日(木)〜9月3日(金)までの間、梅田望夫さんの代わりに村山尚武さんがゲストブロガーとして登板します。村山さんはシリコンバレーのあるベンチャー企業でBusiness DevelopmentのDirectorを務められており、ご自身でも「Sotto Voce」というBlogを運営されています。村山さんの経歴についてはこちらをご覧下さい。

今日は、「ITに関わるキャリア」という観点からの話である。

今回のゲストブログの第1回で取り上げた「企業によるブログの活用」であるが、こういった話を自分のブログ、そしてこちらでも繰り返し取り上げているのは、自分の長年の関心軸の1つ(他にもいろいろあるのだけど)である「ITによるリアルビジネスの変革」、すなわち「IT製品・サービスのベンダーでない企業が、ITをどう有効活用して業界のイノベーションを推進していくか」(ITユーザー戦略、と言い換えてもいいのかもしれないが)という自分にとって思い入れのあるテーマに嵌まるからである。

新世代のCIOとは?

今日は、少し前にMcKinsey Quarterlyに掲載された「Next-generation CIOs」(「新世代のCIOとは」)というこれも上記テーマに関する記事を紹介したい。

「To step up to the new responsibilities of an IT leader, CIOs must delegate or shed some operational duties and spend more time helping business leaders identify and use technologies that will help companies innovate.」

「CIOは、企業のIT部門のリーダーの新たな責任である、事業部門のリーダーによるイノベーションに繋がるような新技術の識別とその活用を助けることにもっと時間を割くべきである」というのがこの記事の結論である。

ただ、この記事を語るには、なぜそれを面白いと思ったかを語らざるを得ず、そのためにはどうしても上の「思い入れ」に触れなければいけない。従って、今日は変則的ではあるが、まずこの「思い入れ」の背景を述べ、その後それと絡めつつ上の記事のキーとなる文章を紹介する、という形式をとらせて頂きたい。

ビジネススクールを卒業し、シリコンバレーで働くようになってから8年、その間テクノロジー関連の業界に初めはコンサルタント、現在はスタートアップ勤務という形で関与の度合いを高めて来たが、私のキャリアのそもそもの出発点は日本の銀行員である。そんな自分が必ず聞かれる質問が、「なぜ文系銀行員のあなたがそもそもITに興味を持ったのですか?」である。

なぜ文系銀行員がITに興味を持ったのか

まずは、その質問に対する答えから始めたい。

私は銀行員でありながらお金を貸したことは一度も無く、ディーリングやら金融工学といったカッコ良い分野には縁がなく、銀行員時代の大半は国際系の証券事務・オペレーションを行う、今で言えば「事務・オペレーションのアウトソーシング」を機関投資家や他の金融機関に売る、という採算性・競争力確保のためにはITの活用が不可避な業務に携わっていた。従って、私も「ユーザー代表」としてシステム企画・開発予算確保・仕様設計などにどっぷりとつかることとなったのである。これが、自分のITとの本格的初接触であった。

今の20代の人と比べたらお恥ずかしい話だが、私の銀行員時代は1990年代初頭なので、文系出身の人間の大半はこんなもんである(それが今ではこちらでブログなぞ書かせて頂いている。思えば遠くへ来たもんだ…)。また、それまでの自分にとっても「システム」というのはなんだか縁のないものかな、と思っていたこともあり、どうも「ノれ無い」仕事であったのだが、そこで決定的な転換点があった。

これこそ「出会い」なのだろうが、ちょうどその頃に「営業先」として接触していた米銀State Street銀行とのミーティングで、同行のあるVice Presidentの発した一言が実に自分の心に響いたのである。

「Banking's an information processing industry.」(銀行業というのは情報処理産業なんだよ)

目から鱗、であった。

銀行業は情報処理産業

銀行業務と一口に言ってもその中身は実に多様であるが、極論を恐れず言えば、貸出・預金・振込・資金決済というコアな業務においては、業務「お金」が「データ」に置き換わって銀行内のいろんなデータベースを動き回り、ユーザーの用途に合わせて異なる形で表示されるだけ、と言っても過言でない。また外国為替、ディーリングやトレーディング、証券引き受けも、銀行や証券会社、決済機構などの間のデータのやり取りに還元される、という見方も可能である。(投資顧問やM&Aのアドバイザリーなどは座りが悪いが)従って、情報処理能力こそが銀行の競争力を左右するのである。

State Streetは、まさに上のVP氏(今も在職かどうかは未確認)の発言を経営上の指針にしていて、ITシステムを「競争力の源泉」と考え人もお金もつぎ込んだ結果、CitibankやJP Morganといった大手銀行と並ぶ、ミューチュアルファンドや年金の資産管理の分野でのリーディングカンパニーになった、という銀行である。

そう考えると、「ITによる既存事務の自動化・効率化(=人力作業の機械化)」のみならず、「業務をデータのやりとりだと見なす事により、新たなビジネスのやりかたが可能かもしれない」のかな、と思い、それまで億劫だった仕事が俄然興味深くなった。自分はITの素人かもしれないが、素人には素人なりに「サービスの優位性とは何か、その背後にあるオペレーションは何か、そこでやりとりされる情報は何か」という観点から、「どうやって作るか」でなく「何を作れば良いのか」を考えることならできる、と思ったのである。無論そのためにもITについてもある程度の知識は必要だが、それは「どういう仕組みか」でなく「何ができるのか」というもので、それなら「文系」の自分でも分かる、と思ったのである。

「ITの需要と供給」というアナロジー

McKinseyの記事を読んでまず「面白いな」と思ったのは、こうした私が当時持っていた青二才の発想を、ITの「供給」「需要」という、さすが、と思わせるエレガントなアナロジーで説明しているところである。

「Think of supply and demand, in this context, as a clarifying analogy. CIO responsibilities span a spectrum of managerial tasks, with one end of the spectrum involving supply - the delivery of IT resources and services to support business functions. The other end of the spectrum is demand - the task of helping the business innovate through its use of technology. CIOs who accept the new responsibilities of IT leadership are delegating or even shedding some operational duties and spending more time helping business leaders identify and use technologies that matter.」

事業部門の運営をサポートするようなIT資源とサービスを提供するのが「供給」のマネジメントであり、その対極にある、事業部門によるITを通じたイノベーションを助けるのが「需要」のマネジメントであって、新しい世代のCIOは、「供給」サイドの仕事でなく、「需要」サイドの仕事に専念する傾向が見られる、ということである。

そして、上のアナロジーを皮切りに、この記事は、当時自分が「もやっと」した形でしか考えていなかった「ITって面白いなあ」という思いを、まるで代弁するかのように書いているのである。

「Charlie Feld, the former CIO of Frito-Lay, Delta Airlines, and First Data Resources, argues that CIOs must be able to cut through complex tangles of business and technology signals to see—as an innovator would—patterns and meaning and to distinguish opportunities from fads. That vision is one of the skills required for demand-side leadership.」

企業のリーダーシップを採ろうとするCIOには、複雑に絡み合うビジネス上・テクノロジー上の動きの中から、イノベーターであれば誰もがするように、パターンや意味を抽出し、どれが「本当に役立つもの」で、どれが「ただの流行りもの」かを見極めた上でビジョンを形成する能力が求められる、ということなのだが、「ITの使い方を考える」仕事で磨かれる能力がこのようなものであるとすれば、それはとてつもなく刺激的な仕事なのではないだろうか?

CIOはチーフイノベーションオフィサー

そして、その仕事の具体的な中身は、以下のようなものになるはずである。

「The CIO of a large European construction company says that his role within the organization is to be the "chief innovation officer." He spends considerable time studying the use of technology by European and North American companies in order to find new solutions—for example, ways that technologies used in other sectors can be recast to pioneer trends in building and construction.」

CIOはCIOでも、「チーフイノベーションオフィサー」として、他企業がITをどう活用しているかを調べ、業界が違っても自分の会社の事業にどう役立てる事ができるかを考える(そして、当然この後に事業部門と恊働して導入するというフェーズのある)仕事である。技術端出身の人はもちろん、文系でも技術に対する好奇心が強く、しかもそれを「どう役立てられるか」考えるのが好き、という「役立つオタク」タイプであれば十分勤まりそうではないか。

当時の私がここまで整理された考えを持っていた訳ではないが、実はこうした思いが、その後ビジネススクールに留学する際に、「最先端のITに触れられるシリコンバレーの中心」スタンフォードを選んだ大きな理由である。これだけが理由だったわけではないし、またこの認識も現実とはいささかずれていたのは否定できないが…。

そして、ここでスタンフォードを選んだ事で自分の運命は大きく変わったので、それゆえ上記のような思いは自分の「ルーツ」みたいなものである。(その後自分のキャリアにはこれまた紆余曲折があったのだが、これは別の機会にゆずりたい)

需要サイドからITの使い方を考える面白さ

以上、今回週末を挟んだのをいいことに長々と個人的な視点から話をさせていただいたが、この記事を紹介しようと思ったのは、自分の体験を共有したい、と思ったこともあるが(シリコンバレーであれ、どこであれ)「ITの世界で活躍したい」と思う場合、まず思い浮かぶのはベンダーサイドで「ITを売る」仕事につく、ということだろうが、ユーザーサイドで「ITの使い方を考える」仕事というのも選択肢として十分魅力的かつ、情熱の持てるものではないだろうか、という考え方をお伝えしたかったためである。

自分は「銀行業」を「情報処理産業」とみなすということによりこうした仕事の面白さを感得したのだが、今やどんな業界の、どんな規模の会社もIT化が進み、しかもネットで他企業や市場と結びついているのである。「需要サイドからITの使い方を考える」キャリアの機会はこの記事の以下に抜粋した一節にもあるように、とても大きいのではないだろうか?

「The pressing need to get better business value from IT calls for technologically savvy business leaders. Now is the time for CIOs to step up to the role—the challenges are many, but the opportunity has never been more ripe. 」

ゲストブログも今日で折り返し点である。あと3回、おつきあいください。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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