お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

新型ウォークマンは「新しい何か」を提供しているか?

2004/07/22 09:58
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
ブログ管理

最近のエントリー

[ゲスト] 川野俊充 Toshimitsu Kawano
7月20日(火)〜7月23日(金)までの間、梅田望夫さんの代わりに川野俊充さんがゲストブロガーとして再び登板します。前回の川野さんのゲストブログはこちらからご覧下さい。川野さんの経歴については川野さんが運営するAbacus::blogをご覧下さい。

1979年7月1日にウォークマンを世に出したソニーがその25周年記念に発表したHD搭載型のウォークマン。Apple ComputerのiPodよりも低価格に設定されたそれはソニーからの宣戦布告だと業界を賑わせたが、つい昨日、それに呼応するかのようにAppleがさらに安くコンパクトになったiPodの新機種を発表した。今日はまずサンフランシスコの地元紙、San Francisco Chronicleに掲載された「Walkman vs. iPod」という記事を紹介しよう。

「Sony said it has sold more than 330 million Walkmans worldwide, nearly 150 million of them in the United States, since introducing the first, a $200 personal cassette initially called Soundabout. 」

ソニーが25年かけて全世界で売り上げたウォークマンは3億3000万台以上にもなるらしい。その一方で、Appleが2001年10月から30カ月で売り上げたiPodシリーズはまだ300万台未満だが、今年の第1四半期の売り上げが80万台で、前年同期比10倍という急激な成長を遂げている。日本での開始も待望されているiTunes Music Storeでの楽曲販売数も1億曲を超え、その勢いは留まるところを知らない。

ウォークマンはiPodに勝てるか

「"Are they going to kill Apple? Absolutely not,'' said Van Baker, a vice president at research firm GartnerG2. "If Sony Connect is compared to iTunes, there ain't no comparison. It's hard to argue with Apple's success. Right now, the business model is to use your music to sell your hardware.'' 」

「ソニーが(携帯音楽プレーヤーの分野で)アップルを負かすと思うか?」という問いにGartnerG2のVP, Van Bakerは「あり得ない」と断言する。「ソニーのオンラインミュージックストアConnectはiTunes Music Storeとは比較にならない」というのが理由だ。これはユーザビリティや販売タイトル数などを全体的に比較した彼の個人的な印象に基づくコメントだが、私もiTunes Music Storeの使い勝手を超えるものを作る事は決して簡単なことではないと断言できる。「音楽を利用してハードを売るビジネスモデル」が成立している現時点ではAppleの地位は揺るがないだろう。

「But the greater size of Sony's retail distribution network "will be a challenge to Apple,'' Baker said. 」

確かにソニーの流通網への影響力とブランド認知度はAppleにとって脅威ではあるが、

「But Doherty said he believes Apple and Chief Executive Officer Steve Jobs have "several things in the fire'' to keep Sony's Walkman from outrunning the iPods.」

Appleが対ウォークマン戦略としていろいろと隠し球を持っていることは誰もが思っているようだ。

「"The hardware itself is gorgeous,'' said technology analyst Rob Enderle of the Enderle Group. "The problem is they are a company at war with itself. So because they want to own everything, they end up owning nothing.'' 」

確かにソニーは組織として大きく、内部で利害が衝突するという現実があるが、新しいウォークマン、モノとしてはソニーらしいデザインで、スペックも申し分は無い。ではなにが足りないのだろうか。

iPodにあってウォークマンにないもの

ソニーが「音楽を携帯する」という新しい生活様式をウォークマンで20年以上も前に提案したとき、それは世に対する革命的なメッセージであった。音楽をテープにいれ、イヤホンでそれを聞く、というのはそれまでに無かったスタイルだったからだ。「新しい市場を作り出す=人の行動様式に変化をもたらす」という革命を実現した。iPodも2001年にそれと同じような革命を起こした、というのがEconomist誌で英国のSussex大学のMichael Bull教授が説明している。この記事、「The meaning of iPod」は無料では見られなくなっているようなので、引用を行わずに内容を紹介しよう。

彼は技術の文化に対する影響を研究する第一人者で、これまでに数百人ものウォークマンユーザ、iPodユーザを研究して来た。彼の結論は「iPodの起こした革命は、何千曲もの大量の楽曲を持ち歩き可能にし、しかもそれを自由にジュークボックス的に聞けるようにした事だ」という。彼の研究によると、人は気分に応じた音楽を聴く事を求めていて、気分に合わない曲を聴くくらいなら全く聞かないという選択をするらしい。出かけている間に聞けるくらい程度の数の曲をCDやMDなどに入れて持ち歩けば十分で、わざわざハードディスクに聞ききれないほどの曲を詰め込む必要がない、と思っていた競合他社はこれに気がつかなかったことが仇となった.

音楽を聴くと言う行為が「そこにあるものを聴く」から「環境を作るために聴く」に変わったというのがBull教授の説くiPodの意味合いだと私は解釈している。仕事や勉強をするため、運動をするため、通勤や通学をするための「自分だけの世界」を作るのに人々はiPodを使っているのだという。この目的でiPodを聴いている場合、人は携帯電話に出る事さえためらうのだそうだ。

そう考えるとiPodの米国での人気が日本よりもまだ圧倒的に高い、というのも頷ける。日本ではこのような「細切れの時間を使って自分の世界を作るための手段」として携帯電話という素晴らしいソリューションを既にもっているため、いまさらその選択肢を増やす必要がないからだ。米国人はとにかく良く運転をし、よくジョギングをする。どちらも携帯電話を見つめながらではできないことだ。これまで「環境を作るための音楽」を自分で編集するのにCDやMDでは手間がかかったが、これをオンザフライにいつでも親指くるくるとすれば簡単にできるのが、iPodの革命なのだろう。

素晴らしいが革命的ではない新型ウォークマン

ソニーの新しいウォークマンは確かに素晴らしいハードだが、初代のウォークマンが実現した、革命を起こしてくれる「新しい何か」を提案してはくれていない。iPodの後を追いかけているだけと言われてしまうのはその辺りに原因があると言ってもいいだろう。もちろん、ビジネスとしてどちらが成功するかは結果が出ないと分からないし、ブラウザやOS、ビデオテープの規格など、市場がわっと塗り変わるようなことが起こるのがこの業界だが、マーケットを作る立場は常に革命的であることを求められる。

San Francisco Chronicleの記事に戻るが、

「"No one on the planet dares ignore Steve Jobs,'' Doherty said. Consumer electronics-makers like Sony and Panasonic have "a fear of what he sees that they've missed.'' 」

誰もが、自分が何かを見過ごしていないかとひやひやしながらスティーブジョブスに注目するのは、Appleがこのマーケットメーカとして他の追従を許さないことの証明とも言えるだろう。今度こそ、先行逃げ切りが出来るか、それに注目だ。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー