お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

AIと人間の最高峰、その両者が相互に刺激を与えあったら

2004/06/17 08:59
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
ブログ管理

最近のエントリー

日曜日のNew York Timesを読んでいたら、アート面に面白い記事が出ていた。「A Computer That Has an Eye for Van Gogh」(要無料登録)。絵画を見て、それが誰の手によって書かれたものかを判断するコンピュータの研究。

「Now a team of researchers at the University of Maastricht, here in the Netherlands, are taking a stab at rationalizing connoisseurship, a word that in its art-historical context refers to the formal process of determining who created a work of art.」

オランダのマーストリヒト大学のAuthenticという名のプロジェクトが詳しく紹介されている。第一段階での研究対象はゴッホである。

専門家を助けるコンピュータ

むろん、絵画鑑定の世界をひっくり返すようなものすごいシステムができたという話ではなく、人間の専門家とコンピュータがこれからどのように協力していくかという観点が強調されている。もちろん今のところ、人間の専門家の眼とコンピュータを比べれば、圧倒的に人間のほうが優れている。冒頭のこの文章、

「Members of the team make modest claims for their system. "The computer will come up with data that show some patterns, but we cannot decide whether these patterns are meaningful or not," said Dr. Eric Postma, the leader of the project, known as Authentic, which is currently analyzing all paintings attributed to Vincent van Gogh. "For that purpose we need experts. We can provide them with numbers, and they can interpret the numbers. And this interaction is where the real value of the project is."」

そして、記事の結論部分でのこれらの文章

「But Authentic's goal isn't to provide the easy answers most people want. "We do not make binary decisions," said Mr. Berezhnoy, referring to simple yes or no answers about a work's authenticity. "We analyze paintings and give numbers and numerical facts to art experts to make their life easier. We are like forensic experts, but much cheaper because we need only images for our methods."」

「Even against this backdrop, Dr. Postma believes the computer's march into the museum is inevitable. "I think it will be commonplace a few years from now," he said. "Art experts will rely on computers to support their theories. And it's cheaper, it's faster and it's more reliable." 」

を読めば、技術がいまどういう段階にあるかがだいたい理解できる。コンピュータが抽出したデータ、真贋についてコンピュータが考えたプロセスなどが、専門家にとって有効なインプットになるに違いない、という視点である。

AIに対する2つのアプローチ

吉岡弘隆さんのダイアリーで、人工知能(AI) についてのこんな記述がある。

「AIの研究は、非常に大雑把に言うと1)「人間の知性」というものはどのようなメカニズムによって成り立っているのか?その原理原則を発見したいという立場、2)「人間の知性」あるいは「知的活動」をどのように機械でシミュレーションするか、知的振る舞いをする機械を構築するという立場、があったように思う。(よしおかのいい加減な分類方法による)

1)の立場をつきつめていくと生まれたばかりの赤ん坊(知性がないというモデル)から発達していって大人になる(知性を持つ)までの過程のなかになにかしらの秘密があるのではないか、いわゆる学習するとは何か、そのメカニズムを突き詰めるという話になる。認知心理学の世界とかまあいろいろ難しい話である。

2)の立場はもっと実利的で人間が頭の中でどう考えようが極論すれば知ったことはなくて、人間より強いチェスのマシンを作れればOKなわけである。ここでチェスをするということは知的な活動であるという認識に立っている。

非常に乱暴な言い方をすると1)は科学的なアプローチで2)は工学的なアプローチと言えなくもない。

まあ、それも相対的な話で、AIが学問として生まれたころはチェスとかチェッカーをするということが人間と機械を分別する一つの判断基準になっていて、まじめにAIの分野として議論されていたりした。50年後にIBMがチェスの名人をやぶるコンピュータを作ったわけだけれど、それは技術の勝利ではあるがAI(人工知能)の到達点という風には受け取られてはいないように思う。名人をやぶる機械を作ったところで人間の脳のメカニズムの動作原理の理解に多大な貢献したという感じではない。(なんてことを素人が書いているわけだけど、AIの専門家の皆さんのご意見を拝聴したい)」

マーストリヒト大学のAuthenticは、吉岡さんの分類における2)工学的アプローチである。

コンピュータの導入でチェスや将棋が変わる

僕自身は、この2)工学的アプローチで作られたAIシステムと、その分野の人間の専門家の最高峰のいずれが凄いのか、ということではなく、AIと人間の最高峰の両者が相互に刺激を与えあった場合に、一緒にさらなる高みを目指すことができるのか、その高みはどんなものなのか、というようなことに強い関心がある。絵画については、見るのは好きだがぜんぜん詳しくないので、話を、チェス(この記事の中でも少し触れられている)や将棋に移して考えてみる。

以前、やはりNew York Timesで、「Queen, Captured by Mouse; More Chess Players Use Computers for Edge」という面白い記事があった。2003年2月6日の記事なのに、以前書いたBlogからリンクをたどったら、今でも読めてしまうので驚いた。この記事は、1997年にチェスのチャンピオンをAI(IBMのDeep Blue)が破ったあと、チェスの世界で何が起きているかという話だった。

「Some chess aficionados see the increase in the melding of human intelligence and computer technology as a natural development for a game long valued as an even playing field for the mind.」

この文章を読んで「なるほど」と思った。「人間のインテリジェンスとコンピュータ技術が融合していくことを、チェスというゲームの自然な発展だと考えればいい」という考え方は、「人間とコンピュータはどちらが強い?」 「コンピュータが強くなっちゃったらもうチェスは面白くなくなっちゃうんじゃない?」 というような短絡的な視点に比べ、ぱっと目が開かれる思いがした(むろんそう考えない人もいるという例はこの記事にも出てくるけれど)。

そして極めつけは、Deep Blueに敗れたチェスチャンピオンのKasparovが、「advanced chess」という新しい競技(ゲーム)の概念を提唱しているということだ。

「Mr. Kasparov champions the idea of ''advanced chess,'' in which humans compete by using sanctioned computer software during the game, and he has participated in one such game. The future of chess, Mr. Kasparov and others suggest, lies not in the competition between man and machine, but in their fusion.」

人間のチェスのプロが、対局中にコンピュータ・ソフトウェアを使いながら戦うというもの。未来のチェスは、人間と機械の戦いではなく、その融合した姿にある、というのが彼のビジョンだ。

将棋はチェスに比べてまだコンピュータが人間に比べて圧倒的に弱い。しかしコンピュータは日に日に強くなっている。20年後くらいに、将棋の世界に何が起きるのか、コンピュータ将棋がどこまで強くなって、将棋というゲームがどう変質していくのかは、ものすごく興味深い。(余談だが、個人的なダイアリーは、趣味のメジャーリーグと将棋だけに焦点をしぼってリニューアルした。)

新しいアーキテクチャの可能性

そして最近、コンピュータ将棋がこれからどう強くなっていくのかという方向性について、2つほど考えていることがある。

ひとつは、Googleのバックエンドを支えているような新しいアーキテクチャのスーパーコンピュータを用意し、そういうスーパーコンピュータがあることを前提に新しいアルゴリズムを用意して実装したら、果たしてコンピュータ将棋は飛躍的に強くなるのだろうか、ということである。ちなみに、今のコンピュータ将棋は基本的に、安価な誰でも手に入れられるパソコンで動くことを前提に、技術開発が進んでいる。

もうひとつは、将棋の最高峰を極めている棋士(たとえば、羽生や森内)自身が、自らの思考のあり方を誰か専門家のサポートできちんとアーティキュレートし、その神髄をコンピュータに叩き込んでいくと(むろん1人ではできないので大掛かりなプロジェクトになろう)、今とは全く違う発想の強いコンピュータ将棋が生まれるだろうか、ということだ。

作家の保坂和志は、著書「羽生」の中で、「もし羽生自身が強いコンピュータを作るとしたらどうするか」という架空の想定に対し、羽生が10年くらい前に語ったこんな言葉を引用している。

「羽生: もし自分がやるとすれば、つまり定跡とか詰まし方ではなくて、この形の時にはこう動かした方がいいとか、この形とこの形を比較したらこっちのほうがいいとか。そういう部分的な良し悪しなり、部分的な形なり、こっちの方がいいケース、これはこっちの方がいいケースというのを膨大な量を入力していくのがいいと思います。(略) 場面、場面の形、形です。(略) つまり、自分が将棋の手を考える時にどういう判断をしているかということをインプットしていくわけです」(p155-156)

たぶんこれは、今のコンピュータ将棋を形成するアルゴリズムのベースとは違った発想なのだろうと思う。

さて、サイエンスライターの森山和道さんが、そのダイアリー(5月22日) の中で

「コンピュータ将棋のはなしって、本当はすごく面白いテーマだと思う。最近になって、意識と無意識の境界、という面から見ても面白いテーマだよなあと思うようになった。だけど、そのへんをうまく描き出したテキストを読んだことがない。僕自身も不勉強のせいもあり、いまいち明文化できないんだけど。いちど研究者の方にインタビューしてみたい。」

こんなことを書かれているが、期待して待ちたいと思う。

Forbes誌でコラムを書くRich Karlgaardは、最近のIT産業のトレンドをしきりに「Cheap Revolution」という言葉を使って説明しており、そのことは本欄でも何度かご紹介した。新しいコラム・6月7日「Cheap-Tech Guru」(要無料登録)の中でも、またその論を繰り返しているのだが、「Cheap Revolution」、つまりITのコストパフォーマンスの圧倒的向上は、AIの工学的アプローチにも、極めて大きな進展をもたらすのではないかと思う。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー