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製薬分野でのオープンソース的取り組み

2004/06/16 09:26
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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英Economist誌「An open-source shot in the arm?」が面白い。タイトルにオープンソースとあるが、ソフトウェアの話ではなく、製薬の世界でのオープンソース的な新しい動きの話である。オープンイノベーションに興味のある方には是非お薦めしたい。知的で実に面白い記事だ。

営利目的ではできない研究をカバー

製薬の研究開発に莫大なカネがかかることはよく知られている。しかしカネがかかり過ぎるということは、その投資が回収できそうな領域の研究開発しか進まないということを意味する。経済性という観点から、本来行われるべき研究が行われなくなっている。そこに登場した概念が、製薬研究におけるオープンソース的協力なのだというのが、この記事のポイントである。オープンソースと製薬という2つのキーワードから、ゲノム解析やバイオインフォマティクスにおけるソフトウェアの話だと思った方も多いかもしれないが、そういうテーマではない。

「Open-source research could indeed, it seems, open up two areas in particular. The first is that of non-patentable compounds and drugs whose patents have expired. These receive very little attention from researchers, because there would be no way to protect (and so profit from) any discovery that was made about their effectiveness.」

まず、特許化できない化合物や特許が失効している薬の研究である。いくら研究成果が上がっても、その成果を特許で守ることができないから、研究する人たちが少ない。

「The second area where open source might be able to help would be in developing treatments for diseases that afflict small numbers of people, such as Parkinson's disease, or are found mainly in poor countries, such as malaria.」

次の例は、患者数が少ない、あるいは患者が貧しい、つまりマーケットが小さい病気に対する処方の研究である。ここでは例として、患者数が少ない病気の例としてパーキンソン病、患者が貧しい例としてマラリアが挙げられている。

先週はサンフランシスコで「BIO 2004」というコンファレンスが開かれていた。

「In a paper presented this week in San Francisco at BIO 2004, the Biotechnology Industry Organisation's annual conference, Stephen Maurer, Arti Rai and Andrej Sali—two lawyers and a computational biologist, respectively—called for an open-source approach to invent drugs to fight tropical diseases. It would work like this: a website they call the Tropical Disease Initiative would allow biologists and chemists to volunteer their expertise on certain areas of a specific disease. They would examine and annotate shared databases, and perform experiments. The results would be fully transparent and discussed in chat rooms. The authors expect that the research, at least initially, would be mainly computational, not carried out in “wet” laboratories.」

そこでは、「熱帯病に効く薬の開発にオープンソース・アプローチを」という論文が発表された。Tropical Disease Initiativeというウェブサイトがあって、そこを拠点に、生物学者や化学者が協力し、データベースを共有して実験を行うらしい。Googleで探してみたところ、たぶん該当するサイトはこれなのだと思う。

むろんソフトウェアと製薬では全く畑が違うから、成果がどのようにシェアされるかというような厳密なところで、オープンソース・ライセンスに照らしてどうのこうのと議論することにはあまり意味がない。カネがかかり過ぎるようになった製薬研究の現状に風穴をあけるアプローチとして、オープンソース的協力が少しずつ実り始めていることに意味があるのだと思う。

別の面白い事例として、ある病気に効くと認定された薬が、別の病気にも効くかどうかの研究というのがあるという。これも経済合理性からいくと、研究が進まない領域らしい。

「Eric von Hippel, a professor at the Massachusetts Institute of Technology's Sloan School of Management, is investigating how secondary uses for drugs are discovered, with a view to harnessing doctors and patients to record data. Many medications are approved for one purpose, but are regularly prescribed for another, “off-label” use. In many instances, new uses for a drug are discovered only after it is on the market, when a sort of natural experimentation takes place.」

普通、ある薬はある病気に一対一対応で認可されるけれど、使っているうちに別の症状にも有効ということがわかる場合がある。でも法的制約や保険の問題などから、そういう「発見」が患者に還元されることは少ない。

「Dr von Hippel's idea is to decentralise the process of obtaining data on the off-label use, by collaborating with volunteer doctors and patients.」

MITのHippel教授は、医者や患者のボランティア的協力によって、薬の「オフラベル使用」についてのデータを集めるプロセスを分散化させようと試みているのだそうである。

「It is, in effect, an open-source clinical trial. Because the drug has already been approved, it has passed first-phase tests for safety.」

既にもともとその薬はある病気には有効ということで認可されているわけだから、基本的な安全性は既に証明済みだ。よってオープンソース臨床試験を含めて展開していけば、ある薬が新しい症状にも有効と証明されて新しい認可が得られるまでのコストを、下げることができるのではないかというわけである。

ソフトウェア開発との類似点

そして、ある研究者はこういった研究を「not-for-profit drug discovery」(利益を追求しない創薬)と呼び、ソフトウェアにおけるオープンソース・アプローチとの類似についてこう語る。

「For one thing, his group places much of its data in the public domain. Secondly, though the research is mainly happening among different research labs within the confines of Harvard at the moment, the goal is to involve other scientists around the world. Only through this sort of collaborative, distributed approach will treatments be found for these diseases, he says. As for the intellectual property that may be created, the goal is to use patents only to license treatments cheaply to pharmaceutical companies to ensure a supply of drugs at low cost. But the most important thing is to discover the drugs in the first place—something commercial drug-development seems unable to do.」

第1に、ほとんどのデータをパブリックドメインに置く。第2に、世界中の研究者を巻き込むことをゴールにしていること。そしてこの研究によって生れたIPは、その薬が安価に生産・供給されることを最優先事項として、製薬会社にライセンスされるのがゴールであること。しかし何よりも、企業による利潤追求のための製薬研究ではできない研究によって、新しい薬を発見することである。

また、オープンソース活動に関与する人々の類似性(ソフトウェア開発と医学・製薬研究)という意味では、

「First, both fields attract the same sort of people. Biology, like software, relies on teams of volunteers, notably graduate students and young professionals, who have an incentive to get involved because it will enhance their professional reputations or establish expertise. Both medical biologists and computer scientists aim to improve people's lives and make the world a better place.」

大学院生などの若い研究者が、プロとしての評判を高めたり経験を積んだりという意味で、こうした活動に参加するインセンティブがあること。そして、医学者もコンピュータサイエンティストも、人々の生活を向上させ、世界をよりよい場所にしたいという欲求があることを挙げている。

というわけで今日は、若干ITから離れた話題になってしまったが、さまざまな分野で発展するオープンイノベーションの一事例として面白かったので、ご紹介した。興味のある方は、ぜひ原文の記事にあたっていただければと思う。

ちなみに、この記事は、英Economist誌が3カ月に一度まとめる「Technology Quarterly」という特集の中のもので、最新の「Technology Quarterly」特集では、今のところこの記事だけがネット上で読める。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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