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ベンチャーは大企業に多国籍企業経営のエッセンスを学べるか

2004/06/14 09:14
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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最近、投資がらみの話で会ったシリコンバレーのベンチャーの話。ある面白い技術を持ち、携帯電話の中にその技術を組み込んでもらうべく携帯機器メーカーと交渉するのが彼らの事業開発。その事業開発優先順位は、「まず最優先は日本と韓国、そして次が中国、その次が欧州と他のアジア。アメリカはいつ市場が立ち上がるかわからない」というのが現実だ。アメリカの携帯電話市場は、世界中で最も遅れた市場になってしまった。

ことは携帯電話に限らない。いわゆる「新しいハードウェアもの」についてのアメリカ市場の反応はおそろしく鈍い。内需の質の良し悪しというのは、某かの市場創造を目論む者にとっては死活問題である。

本欄3月31日「連載1周年:日本にとって米国のIT産業は絶対ではなくなった?」の中で、

「さて最近IT産業全体で感じるのは、日本とアメリカの「関心の方向」が違ってきたな、ということである。」

と書き、インターネットの「あちら側」「こちら側」という表現を使いながら、何がどう違うのかを議論したわけだが、特に「新しいハードウェアもの」については、生産拠点という意味においても、市場という意味においても、世界の重心が、完全にアジアへと移動してしまったのである。

冒頭の例を含めて、アメリカのベンチャーでも、そういう「新しいハードウェアもの」と深く関わる技術を持つ会社は多い。半導体ベンチャーなんて皆そうだ。何年か前に比べて、彼らのビジネス生活におけるアジアの比重というのは高まっていく一方である。

Pacifica Fundの投資先企業でも、ある会社は、トップが日本・台湾・韓国企業との交渉のためにやたらにアジアを飛び回っているし、ある会社は、シンガポールのEMS工場への技術の売り込みで何人かがシンガポールに張り付いているとか、耳に入ってくるのはそういう話ばかりだ。

こうなると、何のために、ほぼすべての社員をシリコンバレーで雇って、ベンチャーを始めなければならないのかが、よくわからなくなってくる。

単なるオフショアリングではない雇用の海外移転

最近、アメリカではオフショアリングによる雇用喪失可能性が政治問題化しているため、オフショアリングが米国経済にどう影響を及ぼすのか、というような研究が盛んで、たとえばSan Jose Mercury News「Report: Offshoring is minor factor in job loss」といった記事(オフショアリングが米国の雇用喪失に及ぼす影響は非常に小さいという問題提起)がその一例である。

ただ、シリコンバレーにおける雇用という観点から言うと、ただ単にあるビジネス機能を中国やインドに移したほうが安いというオフショアリング的発想だけでなく、アジアの重要性の高まりゆえに「雇用をアメリカからアジアにシフトする」という要素が、日に日に大きくなっているのである。

HPのフィオリーナも、1400人の雇用増を発表したわけだが、正確には、全世界のHPで、雇用を1400人増やす、ということであって、

「In an analyst meeting Tuesday, Fiorina said, ``We have begun adding net head count. Part of what we are doing is shifting people to where we do business around the globe. We are targeted about where we add and certainly want to get the best talent for the best price.''

HP officials declined to comment on how many workers the company employs in Silicon Valley and whether any of the hiring will take place locally.」

フィオリーナがこう語るように、事業上の最適を追求するために人材の最適再配置が行われている、と考えたほうがいい。

「Before the Compaq deal was announced in fall 2001, HP and Compaq separately employed a total of 153,500 employees. The company laid off 28,000 employees, but also hired many and acquired people through acquisitions and outsourcing deals. Employment dipped as low as 139,800 in summer 2003, but it has steadily climbed upward in recent quarters.」

とあるように、現在のHPの従業員は約14万人だが、そのアメリカ比率がこれから高まっていくことはないと思われる。

最初からマイクロ多国籍企業になるという選択

さて、AlwaysOnの「Globalization Is Inevitable」(要無料登録)というコラムは、そんな時代の雰囲気をよく伝えている。筆者は、インドとシリコンバレーをつなぐベンチャーキャピタリストのSanjay Anandaram。

シリコンバレーのベンチャーも最初からグローバル化して「micro-multinationals」(マイクロ多国籍企業)にならなければダメだ、という主張である。

シリコンバレーのベンチャーは、「local, tightly integrated entities」であるのが強みだったわけだが、もうそういう時代は終ったので、「global, distributed entities」を目指さなければならないと、彼は言う。

そして、目指すべき「micro-multinationals」(マイクロ多国籍企業)についてこう書く。

「Startups that had taken pride in being disorganized and had taken pains to differentiate themselves from big, global, established public companies will have to focus on creating a management culture that's process oriented, global in worldview, and experienced in managing different people, offices, and customers. Multinational corporations (MNCs) have for years been operating seamlessly across geographies, cultures, time zones, teams, and offices. The micro-MNC has to now learn to do just that. The MNC relies on processes, project management techniques, and management systems to manage its global operations. Executives travel around the globe regularly; the micro-MNC will now have to invest in and learn these softer, and much more difficult, aspects of management.」

簡単に言えば、「ベンチャーは大企業に多国籍企業経営のエッセンスを学べ」ということだ。冒頭でご紹介したような環境変化を考えれば、こういう主張も短期的にはその通りではある。しかし果たしてシリコンバレーのベンチャーがこんなマネジメントを学んで、日本企業を含む世界の大企業と同じ土俵で競争して本当に勝てるのだろうかと、さまざまな企業のさまざまな強みのタイプを頭に思い浮かべて、僕はこれを読んだ瞬間、少し懐疑的になった。

ただ現実的には、彼が次にこう書くように、

「The new VP engineering should have worked with global, distributed, product development teams. The VP operations and support should have dealt with call centers in India and China. The VP marketing should be comfortable with the telemarketing teams overseas and with distributed product management. The CEO should have the willingness to travel and manage global teams and markets. Product architects, engineers, product marketers, and support and operations people will have to travel as much from Silicon Valley to offices elsewhere as will employees from elsewhere to Silicon Valley. Don't be surprised to see people relocating from Silicon Valley to China and India over the next few years as part of regular business. This learning curve will be painful for many people used to the traditional self-obsessed Silicon Valley culture.」

エンジニアリング担当VPにせよ、オペレーション・サポート担当VPにせよ、マーケティング担当VPにせよ、グローバル経験が必須になり、エンジニアのアジアへの出張は増え、ごく普通のビジネス上の判断として、皆、中国やインドへの転勤もあり得る。こうした変化は、シリコンバレーの連中にとっては、かなり辛いものとなるだろう。そして、

「Markets outside the United States could provide invaluable product and design inputs rather than the other way, as has been the traditional case.」(アジアで先に市場が立ち上がる)

「All consumer electronics products and mobile handsets are now manufactured in Asia. The two biggest markets in China and India are waiting to happen. The next frontier is convergence of communications and computing in the home. China and India are the fastest-growing wireless markets.」(世界市場向けの生産はすべてアジア。インドと中国がこれからの巨大市場)

というこの圧倒的な「アジアの重要性の高まり」は、シリコンバレー企業にとっては避けがたく厳しい環境変化だと、僕は認識している。

Sanjayの結論は、薔薇色の「シリコンバレーとインドと中国のゴールデン・トライアングル論」である。

「The "Golden Triangle" of Silicon Valley, India, and Greater China will be the engine of growth for the world's technology business. Silicon Valley is in no danger of losing its position as the epicenter of global innovation, but it will increasingly be connected to China and India via an intricate mesh of capital, talent, and markets.」

しかし果たして、本当にこんなふうになるだろうか。むろん簡単に結論の出る問題ではないが、このテーマについては引き続き、考えていきたいと思う。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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