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IBMのLinux戦略の歴史的意味

2004/06/08 08:37
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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今日は、IBMのLinux戦略について考える。いい題材がForbes誌6月7日号に「Kill Bill」(要無料登録)として掲載された。この長文記事はたいへん充実している。

90年代後半、IT業界がバブルに狂奔していたとき、Linuxとオープンソースが彗星の如く登場した。以来産業界にはさまざまな動きがあった。しかし企業戦略論という観点から、後世まで語り継がれ、研究されるべき対象があるとすれば、それはIBMのLinux戦略ではないかと思う。大企業が、得体の知れない異物を呑み込んでいく大胆な戦略として。確かにこんにち、日本企業も含めSI各社がLinuxへ経営資源を戦略的に配分しているのは事実だ。しかし、IBMのLinux戦略には、他社とは違ってはじめから思想があった。

IBMのLinux戦略のスケール

おそらく学問的にもさまざまな研究がなされているのだろうと想像するが、今日は、ジャーナリズムの視点でまとめられたこの長文記事から、IBMのLinux戦略が、いかにスケールの大きな構想であるかを読んでいきたいと思う。

「Though IBM did not invent Linux, does not distribute it and earns nary a penny on it, the computer giant (2003 sales: $89 billion) is spending billions in a crusade to make Linux the world's most popular operating system. All told, more than 12,000 IBMers today devote at least part of their time to Linux. IBM has invested millions in two leading Linux distributors, Red Hat and SuSe. It has spent millions more to cofound and fund the nonprofit organization that oversees Linux development. In developing nations IBM has opened 20 Linux training centers, where it schmoozes government ministers and explains how Linux can create jobs for the young.」

これが冒頭第2パラグラフである。この記事のテーマは、「LinuxというのはIBMが発明したものでもない。IBMはLinuxをディストリビュートすることで一銭も稼いでいない。にもかかわらず、数千億円規模の資金を投入して、なぜIBMは、このOSを世界標準にすべく動いているのか」である。ジャーナリスティックな記事ゆえ、このテーマへの解はきちんと書かれていない。この戦略への評価は後世の研究者の仕事であろう。同時代的には、IBMのLinux戦略がどんなものかを、まずきちんと理解することが先決だ。

この短い文章の中だけでも、IBMの具体的なコミットメントとして、(a) IBMの1万2000人の社員が何らかの形でLinuxに関わりあい、(b) IBMはRed HatとSUSEへ出資し、(c) NPOであるOpen Source Development Labs設立に資金を出し、(d) 世界中にLinuxトレーニングセンターを作った、ことが挙げられている。

具体的なコミットメントの数々

今日はこの長文記事の中から、IBMがLinux戦略という名のもので、どんな具体的なコミットメントを示しているのかという部分のみを抽出してご紹介する。それ以外の内容は、今日の本稿を読んだあとで、原文を通読していただきたい。

(1) IBM自身のLinuxコードへの貢献(Linuxプログラマーの雇用)

これは、昨日のエントリーの最後の部分(吉岡さんの日記の引用とSam Lefflerインタビューの一部)と合わせて読んでいただければと思うが、この記事では、

「The maker has devoted 200 programmers to writing Linux code, only to share it free with the world.」

と書かれている。

(2) Open Source Development Lab設立と資金提供と運営支援

(1)とも深く関わるが、

「In 2000 IBM helped found the Open Source Development Lab, a nonprofit organization that employs Torvalds and serves as ground zero for Linux development. OSDL's chief executive, Stuart Cohen, is a former IBMer. The chairman of OSDL's board, Ross Mauri, is an IBM executive.」

2000年に、OSDL設立に動き、そのトップには元IBMのStuart Cohen、チェアマンには現役のIBM経営者Ross Mauriがついている。Linux創始者のリーナス・トーバルズは、このOSDLのフェローとなり、フルタイムの仕事としてLinux開発に没頭している。

また末松さんが1月にStuart Cohenへのインタビューをやっておられるので、そちらもあわせてご参照ください。

(3) セキュリティ強化等、コーポレート環境向けLinux進化を支援する施策

これも、(1)(2)と深く関係するが、IBMがどういう部分でLinuxコード進化にコミットしているかといえば、当然のことながらコーポレート環境への適応である。

「Back then Linux lacked features that corporate customers need, like strong security and support for computers with multiple microprocessors. So IBM has created 45 Linux tech centers in 12 countries, where programmers crank out Linux code. These are not the hippie hackers who created the early versions of Linux. They are experienced engineers with backgrounds designing IBM's own operating systems, including AIX, its version of the Unix operating system.」

そのために、12カ国に、45のLinuxテクニカルセンターを創設して、Linuxコードをいじれる環境を作り、開発をスピードアップさせている。

(4) 顧客のコンピューティング環境へのLinux浸透のための施策

そして、IBM Global Services 部門が、約3000人を訓練して、顧客をLinux環境へとマイグレートさせていくためのプラクティスを立ち上げている。

「IBM Global Services trained 3,000 people in Linux and launched a practice to help customers migrate to Linux.」

(5) 大型Linux商談獲得のためのリソース投入

この記事の冒頭は、

「How is it that for eight months a team of up to a dozen IBM consultants has been toiling in the data centers and computer rooms of the Munich city government--free of charge? Having goaded Munich into embracing open-source software, IBM is helping it plan a migration of 14,000 computers off Microsoft Windows and onto the operating system known as Linux. Never mind that IBM doesn't sell Linux, which is distributed free. And never mind that Munich officials say they're not committed to buying IBM hardware or consulting services, despite all IBM's free help.」

で始まっている。これは、ミュンヘン市政府の商談へIBMがどんなコミットメントを示しているかの例であり、こんな大型案件が、

「"We've got 50 more deals like Munich going right now."」

50以上、たぶん実際にはもっともっと、世界中で動いているのであろう。

(6) IBMの既存アプリケーションをLinux上で動くようにする

そして、IBMは自らが持つ膨大なアプリケーションのすべてをLinuxで動くよう、手を入れた。

「Inside IBM, programmers began racing to rewrite virtually every IBM application to run on Linux. On the hardware front IBM created teams to optimize its computers, including mainframes, to run Linux.」

メインフレームも含めたハードウェアチームも、Linuxへの最適化をハードウェアサイドで行った。

(7) IBM社内システムをすべてLinuxで動かすようにする

そして、自らのデータセンター、社内システムから、Windowsを一掃する仕事がどうやら継続中である。

「IBM also began using Linux in its own data centers. Linux now powers more than 3,400 servers inside IBM, including machines that run IBM's state-of-the-art 300-millimeter semiconductor factory in East Fishkill, N.Y. Now IBM is considering erasing Windows from its desktops and moving them to Linux, too.」

こうした経験が、Linuxコード進化へのインプットとしてフィードバックされているはず。ただ、これは「言うは易く、行なうは難し」の典型とも言うべき施策だ。日本を代表するSI企業の社内システムの実態を調べれば、「紺屋の白袴」という言葉を必ずや思い出すことであろう。

(8) Linuxディストリビュータへの出資と経営コントロール

そして、LinuxディストリビュータであるRed HatとSUSEに出資し、支援するとともに、彼らがLinux世界の新しい化け物への脱皮・成長していかないよう、常にウォッチしているのである。

「IBM also has built close ties to the two leading Linux distributors, Red Hat and SuSe. IBM was an early investor in Red Hat, and last year it invested $50 million in Novell, which acquired SuSe, Red Hat's chief rival. Smart move: By supporting two distributors, IBM can keep either one from becoming the next Microsoft.」

(9) サードパーティ支援

IT産業界で極めて重要なのは、エコシステム。生態系である。IBMが1人でいくら力んでみても、Linuxを中心とした生態系が、Microsoftを中心とした生態系に対して競争力を持たなければ、現実的にLinuxが普及していかない。

「Next came application software developers. Linux cannot succeed unless a sea of applications can run on it. Toward that end IBM has been helping companies move their applications to Linux. Software maker PeopleSoft rewrote 170 applications to run on Linux and bundles them with IBM software and hardware--after receiving assistance from IBM. Consulting firm Sapient accepted marketing dollars and discounted machines from IBM to rewrite a set of its applications for Linux and sell them on IBM servers instead of on machines made by Sun Microsystems. "IBM put an attractive deal on the table for us to switch," says Benoit Gaucherin, chief technology officer at Sapient in Cambridge, Mass.」

このことについては、記事原文でより詳しい説明があるが、IBMは、かなり戦略的なサードパーティ支援戦略を構築して執行しているようである。

(10) ブラジル、中国、インド、ロシアへのLinux普及

そして最後は、BRICs戦略だ。BRICsとは、最近よく使われる言葉で、ブラジル、中国、インド、ロシアの四カ国を表わす。広大な国土、豊富な天然資源、莫大な人口と市場を持つこの4カ国。リスクは大きいが、これから爆発的にIT需要が伸びていく地域へのコミットメントだ。

「Next stop: developing nations like Brazil, China, India and Russia. Visiting Russia in February, IBM's Stallings, the Linux czar, met government ministers who want to put Linux systems into 50,000 schools. In China officials want to use Linux in 12,000 post offices. Says Stallings, "Customers want an alternative to Windows. This movement is unstoppable. There is unbridled enthusiasm."」

IBMがBRICs戦略でどれほどの成果を上げているのかはこの記事では詳述されていないが、Linuxがその戦略の重要な柱になっていることは間違いない。

さて、記事の中ほどに、IBMトップのLinuxへのコミットメントについてのこんな文章がある。

「Wladawsky-Berger pitched Linux to Samuel Palmisano, then chief of IBM's server group. (Now IBM's chief executive, he declined to be interviewed for this story. An IBM spokeswoman also refused to double-check many of the facts in this story.) IBM granted $1 billion in 2001 for Wladawsky-Berger to build a Linux business.」

むろんWladawsky-Berger 1人の功績ではないが、「$1 billion 投資せよ」という2001年のこの意思決定が、IBMのLinux戦略とその執行をスケール大きなものとしている。最後にWladawsky-Bergerのこの言葉を「コピー&ペースト」して、今日は終わりにしたい。

「"If you become convinced that something is going to happen whether you like it or not, you are far better off embracing it," says Wladawsky-Berger.」

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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