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CNET Japan ブログ

Googleのe-mailサービス参入の意味

2004/04/02 09:44
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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3月31日に発表されたGoogleのe-mail参入アナウンスがエイプリルフールではないのか、という噂が飛び交っている。

もしエイプリルフールなら大恥だが・・・

人気BlogのTechdirtは、

「A few months ago we talked about Google's plans to offer web-based email, and now it appears those plans have been officially announced.」

という書き出しで、まずは真面目にこのニュースについての論評を書きながらも、たぶんしばらく経ったあとに追記として、

「Update: There's a lot of discussion going around suggesting this is an April Fool's joke. It just might be. If it is, congratulations to the Google team. They've pulled off a great one.」

と少し不安げに書いている。

サーチ関連のBlogとして定評あるJohn Battelle's Searchblogでは、「Gmail: Elaborate Fraud, Or...」で、これはエイプリルフールだと断定しているが、このJohnのエントリー自身の日付が4月1日なのにご注目。

日本とシリコンバレーは17時間の時差があるので、本稿を書いているのは、まさに米国西海岸時間4月1日の朝。本稿がアップされて日本の読者の方々の目に触れるのが4月2日の朝だが、その時点でこちらはまだ4月1日の夕方。

ひょっとしたら来週になって大恥をかくかもしれないのだが、僕としては、「3月31日のGoogleによるGmail発表は真実」という立場で、以下書いていく。

ちなみに、CNET Japanの記事「グーグル、フリーメールの実験開始--容量はなんと1GB」の日付は、日米の時差ゆえに、4月1日ですね。CNET原文「Google to offer gigabyte of free e-mail」の日付は3月31日である。グローバルにネットでつながった時代の「時差つきエイプリルフール」は難しいですね。

従来のフリーe-mailとの違いに注目

さて、本題に戻る。冒頭でご紹介したTechdirtのサマリーがいつもながら簡潔でいい。

「A few months ago we talked about Google's plans to offer web-based email, and now it appears those plans have been officially announced. While many people seem to be focusing on the similarities between "Gmail" and other web-based email clients, it's much more interesting to focus on the differences, and why Google is doing this. This is clearly not a "me too" product.」

Googleのe-mail参入はもうずいぶん前から議論されてきたから、米IT産業界では「織り込み済み」の話がようやく正式発表されたという感じ。それで、Techdirtが言うのは、皆誰もが、Gmailを、Yahoo!やMSNのフリーe-mailとの類似性とか競争とかに言及するのが普通だが、そうではなくて違いにこそ注目すべきだと言う。Gmailは「me too」プロダクトではないのだからと。

「First off, while most web-based email providers have fairly limited storage capabilities, Google is offering a free gigabyte to every customer, and claiming that they should never need to delete a single message. And, of course, if you have powerful search, you might not ever need to delete a single message since organizing the messages becomes much easier. And, one thing Google has quite a bit of is powerful search. Lots of people have said in the past that they wish they had a "Google for their email" in order to better track down a certain message. Now it looks like Google is providing exactly that.」

第1に、1GBという巨大なストレージ空間をユーザに提供することで、自分が受け取ったe-mailの検索というユーザにとっての頭痛の種を解消してくれるということ。

「So, what's the catch? They don't say, but my guess is that (as we wrote in the original discussion about Google email) that Google will also look at the contents of your email and try to place contextual advertising alongside your email. If it's true, we should expect people complaining about Google "spying" on their email.」

第2に、Googleが広告モデルで事業を成立させようとしていること。よって、Googleはプライベートなe-mailをスパイしている、という文句がこれから出てくること必定だということ。

「There's also no mention, whatsoever, about spam protection. These days, that seems to be the biggest draw of any new email system - so I'm surprised that Google isn't talking about it.」

そして、発表にはないが、第3に、e-mail最大の問題であるスパム対策技術を、Googleがこのサービスに詰め込んでくるのではないかということ。

そして、簡潔な文章の最後をこう締めくくっている。

「If Google is really trying to be the new interface for the internet and personalizing search, can you imagine doing a Google search that mixes in results from your email and the web at the same time?」

「the new interface for the internet」からリンクされているのは彼自身の過去のエントリー「Google As The Operating System To The Internet」であり、そのことについては、本欄1月7日「GoogleはインターネットのOSになるか」でも取り上げたので、あわせてご参照ください。

「こちら側」から「あちら側」への情報シフトが始まる

さて、3月31日の本欄「連載1周年:日本にとって米国のIT産業は絶対ではなくなった?」で、フォーサイト(新潮社刊・直接購読制月刊誌)最新号の「シリコンバレーからの手紙」(第91回)連載に書いた「情報の「こちら側」と「あちら側」を考える」という文章のことに少し触れた。

僕はその文章の中で、産業全体における情報の重心がインターネットの「こちら側」から「あちら側」に移動する可能性について、こんなふうに問題提起した。

「インターネット時代の到来からまだまもない頃、1995年秋、ネットワーク・コンピュータ(NC)という構想が提唱された。NCとはハードディスクを持たないPCのことで、当時は500ドルPCとも称された。新しいコンピューティング・スタイルにおいては、インターネットの「こちら側」(端末)に情報を蓄積する機能(ハードディスク)は不必要になる、情報はすべてインターネットの「あちら側」に持てばよいのだから、という思想が背景にあった。

95年のNC構想は「ネットワークが高速化していくと、PC一台の中で情報をやり取りする速度(ハードディスクへのアクセス速度)も、ネットワークを介して情報をやり取りする速度もほぼ同じになる」という早すぎた世界観に基づいていた。当時の環境では、「こちら側」で情報処理できないハードディスクなしのNCだと、全体性能が著しく劣ることが明らかになり、トライアルはすべて失敗に終わり、NCという言葉もいつしか忘れられてしまった。ただNCが提起した問題は本質的だった。

読者の中で「自分のPCに蓄積してある情報の検索にはべらぼうな時間がかかるのに、どうしてグーグルは世界中のウェブサイト全部を探すにもかかわらず、あんなに速いのか」という素朴な疑問を持ったことがある方はいないだろうか。PCの検索機能は「こちら側」に置いた情報を「こちら側」で処理するものだが、遅くてたまらない。しかしグーグルの場合は、「あちら側」に置かれた情報を「あちら側」に作った「情報発電所」で処理することで、圧倒的な高性能を出している。NC当時とは全くの逆転。これが1995年と2004年の差、つまり足掛け10年かけて変化した現実なのである。

もしこれから多くのユーザが、自分の情報を「こちら側」に置かずに「あちら側」におくほうが色々な意味で良いと確信すれば、産業全体における情報の重心は移行していく。NC構想当時は「ネットの高速化」だけが議論の背景にあったが、今は「あちら側」にある「情報発電所」の処理能力やセキュリティ面での優劣も考慮に入れ、情報の重心についての議論がさらに深化している。」

これはGoogleのe-mail参入という半ば「織り込み済み」のイベントを頭に置きながら、数週間前に書いたものだ。

セキュリティへの不安感は克服できるか

昨年末の「今年一年の変化を象徴するGoogle」で総括したように、本連載ではGoogleのことを過剰ともいえるほどに書いてきたわけだが、Google登場の意味は、いくら強調しても強調したりないものだ、と僕は相変わらず考えている。もちろんTechdirtが期待しつつも懸念を表明するように、Gmailの「e-mailへの広告モデル」に対して、ユーザがどんな嫌悪の感情を示すか、それに対してGoogleがどう対処していくは、確かにこれからの問題だ。

しかし僕は、Salesforce.comのCEO、マーク・ベニオフに話を聞いたとき(LOOP誌からの転載「企業経営の模範をあえてマイクロソフトに求める」)の彼とのこんなやり取りを思い出すのだ。

「Q、シルバーレイク・パートナーズの投資家であるロジャー・マクナミーは、セールスフォースは「顧客側の不安感」が障害になっているといいます。つまり、確固たる証拠はないものの、このソフトはセキュリティに穴があるのではないか、こちら側で管理が十分にできないのではないかと、製品を100%信頼するのに心理的な抵抗を感じるということです。この問題にはどう取り組んでいますか。」

が僕の質問。そして、以下のようにベニオフは答えた。

「A、同じようなモデルで成功している他業種の例を出して説明します。たとえば、給料支払いをアウトソースし、請負会社へデータをすっかり移行させている企業はたくさんあります。あるいは銀行。銀行に金を預けているからといって、心配しませんね。給料支払いをアウトソースしても大丈夫で、銀行に金を預けても安全で、ホットメールの電子メールを利用しても、アマゾンに店を出しても心配はない。そして、セールスフォースに販売データがあっても安心なのです。時間をかけて、その安心感を築いていくのです。何度も対話しながら、顧客の成功があってこそ、われわれも成功するのだという、同じメッセージを伝える。いずれヨーロッパや日本でも、さらに多くの企業がデータを社外に移行させるこのモデルに倣うはずです。」

突き詰めて言えば、Googleという会社が、天才ギーク技術者集団という現在の性格から脱皮して、顧客からの信頼・安心感を勝ち得る真に立派な企業になれるかどうかが、これからのカギを握るのである。

Gmailの発表は、エイプリルフールではないと思いますよ。ではまた来週。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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