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連載1周年:日本にとって米国のIT産業は絶対ではなくなった?

2004/03/31 09:40
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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今日から連載も2年目に入る。春は気持ちが改まっていいですね。

日本とアメリカのITに対する関心の方向が違ってきた

さて最近IT産業全体で感じるのは、日本とアメリカの「関心の方向」が違ってきたな、ということである。フォーサイト(新潮社刊・直接購読制月刊誌)に連載している「シリコンバレーからの手紙」(第91回)では、そんなことをテーマに「情報の「こちら側」と「あちら側」を考える」という文章を書いた(ネット上では読めないが)。

要旨は、日本はインターネットの「こちら側」に、米国はインターネットの「あちら側」にイノベーションを起こそうとしている、そこが日米の違いの本質ではないかということ。「こちら側」とは、インターネットの利用者、つまり我々一人一人に密着したフィジカルな世界。「あちら側」とは、Googleに代表されるような、インターネット空間に浮かぶ巨大な「情報発電所」とも言うべき、大規模コンピューティング設備のことである。

明らかに「こちら側」の世界、つまり、携帯電話、カーナビ、コンビニのPOSシステム、高機能ATM、デジタル三種の神器(薄型テレビ、DVDレコーダー、デジカメ)等々といった世界は、日本が圧倒的に先行し、アメリカの遅れや無関心は目を覆うばかりだ。しかし「あちら側」については、アメリカが世界に差をつけて大きく先行している。

これは、日本とアメリカのそれぞれが、独自の特色を活かして棲み分け始めたということであり、それ自身、悪いことではぜんぜんない。ただ、こういうふうに日本とアメリカの関心が違う方向に向かっていけば、必然的に日本IT産業のアメリカ離れが始まる。成長戦略という意味でもお隣に中国という巨大市場が生まれつつあり、80年代、90年代に比べて、市場という意味でのアメリカへの関心も薄れてきた。インターネットの普及、IT産業の成熟化もあいまって、技術自身については、プロであれば日本に居ながらにして、世界で、アメリカで何が起きているかは、きちんと把握できる時代になった。では「アメリカで起きていることを見つめ考えるべきこと」は、もうなくなってしまったのだろうか。

実はここ数日、連載も2年目に入るのだなぁなどと思いつつ、そんなことをつらつらと考えていたのである。

確かに、80年代、90年代に比べれば、アメリカのIT産業を絶対視する必要はなくなっている。

情報ギャップを利用したアービトラージの法則

実はつい最近、友人で和食レストランを経営するオーナーシェフに「この本は面白いよ」と薦められて、海老沢泰久「美味礼讃」という本を貸してもらって読んだ。日本に本物のフランス料理をもたらした辻静雄の半生を描いた伝記小説で、10年以上前に書かれた本。自分では絶対に手に取らないタイプの本だっただけに、その友人には感謝感謝なのであるが、たいへん面白く、いろいろなことを考えさせられた。

高度成長期の日本には、まだ本物のフランス料理は存在していなかった。本場フランスの超一流のフランス料理と、当時日本に存在していた西洋料理の差は圧倒的で、辻がその差を埋めていくと共に、学校事業を成長させて、本物のフランス料理を日本に普及させていくプロセスが描かれた本だった。最初は僕も、日本がまだ発展途上国だった時代のあまたある成功物語の一つとして読み進めていた。日本もこれだけ豊かになって、世界中のモノや情報が溢れてしまった現代には全く通用しない物語なのだろうな、と思いながら。

しかし、やはりどんな時代でも、「ある国ではうんと進んでいて、日本ではうんと遅れている部分」という領域はそこかしこに存在し、うまくそこでアービトラージを取ることができれば、日本でのキャリアが開けたり、日本でのビジネスチャンスが生まれる。そういうアービトラージの法則は不変だ、そう、読後に考え直した。そんな観点で、改めて、IT周辺の「アメリカと日本」を眺め、「日本の高度成長期のフランス料理」に相当する「彼我の差が圧倒的な領域」を探してみようかなと思った。思いつくままに列挙しよう。連載2年目の主題も、おのずから見えてくるかもしれないから。

日米の差が圧倒的な10領域

(1) まず冒頭に述べた、インターネットの「あちら側」、インターネット空間に浮かぶ巨大な「情報発電所」。この表現が正鵠を射ているかどうかはともかく、Google、Yahoo!、eBay、Amazon、IACといった米ネット大手が今やろうとしていること。特にその「情報発電所」に詰め込もうとしているテクノロジー。ここには「見つめて考えるべきこと」が多い。加えて、Salesforce.comのようなASP的コンピューティング・スタイル、IBMやHPが目指すユーティリティコンピューティング的世界への準備も、アメリカのほうが一歩先へ行っている。最近では3月4日「WebFountainでGoogleの先を目指すIBM」でご紹介したWebFountainプロジェクトなんかは、間違いなく世界最先端を走っている。

(2) 広義のオープンイノベーションとも言うべき世界。日本の強みの源泉は、クローズドイノベーションにあるから、逆にここは弱い。特に日本企業は村社会だから、オープンということの本質を受け付けない。「広義の」と言ったのは、ここにはオープンソースのバザール方式での開発、大企業によるベンチャー企業へのMinority Investment、産学連携・・・・、とかなり多様だから。比較的新しい参考書として「Open Innovation」という本があるが、この本でもカバーしきれていない新しい事象が今や次から次へと起きている。昨年11月7日の「オープンソース的コラボレーションが社会を変える」で取り上げた事例などはこのいい例である。

(3) 組織的なソフトウェア開発に関わること。Microsoft、Oracleを筆頭に、アメリカはやはりソフトウェア大国である。月曜日に吉岡弘隆さんの「未来のいつか/hyoshiokの日記」をご紹介したが、彼は3月29日のダイアリーで

「わたしの当時の感覚では、大規模商用ソフトウェア開発の現場というのは、シリコンバレーのごく一部の企業以外(マイクロソフトは厳密にはシリコンバレーではないが、象徴としてのシリコンバレー的なもの)ほとんど存在しないのではという感じを持っていた。いわゆる商用ソフトウェアは御承知の通り米国が圧倒的に競争力を持つので、その現場は東京や北京やバクダッドにあるのではなく、シリコンバレーにしかないと言う感覚である。わたし自身、技術者として最先端の場所にいるには、少なくとも大規模商用ソフトウェア開発の現場に身を投じるにはシリコンバレーに行かざるを得ないと感じていたのである。西海岸に行ってみて、ソフトウェアの作り方の非常に大雑把な点とか問題もいろいろ見えたことは見えたのだが、それ以上に、ソフトウェア開発のダイナミズムに圧倒された。一言でいうと、スピードとスケーラビリティである。」

と書かれている。2月12日の「グローバル化が進む分散開発体制の今」でご紹介した分散開発に関わる技術や研究なども、日本より圧倒的に進んでいる。3月1日「オフショア開発で明暗別れるプログラマーのキャリア」では、米国300万プログラマーのピラミッド構造をご紹介したが、このピラミッドの上位で、オフショア耐性が強い職種と結論付けられた上位階層で実際に行なわれていることは、やはり世界最先端と言えると思う。

(4) 資本主義的なこと。実に曖昧な言い方で申し訳ないが、やはりアメリカの特徴はここにある。ベンチャーキャピタル、バイアウト・ファンドや、そこから資金調達しての企業の創造や再生。厳然たる資本主義を前提としたルールや仕組みは、やはり圧倒的に日本より進んでいる。最近のエントリーでは、3月17日「日本企業の40代に提案-バイアウトを活用して外に出よう」がこのカテゴリーの議論である。

(5) 技術をカネに変えるプロセス。先日のJTPAツアーで、講師の1人として参加者にお話しいただいた金島秀人先生は、「自分の後半生は、日本のバイオベンチャー立ち上げのサポートに捧げたい。日本の研究者の技術自身は世界的に見て遅れていません。遅れていたら学会発表すらできませんから。20年遅れているのは、その技術をもとに会社を作って、それを大きくしていける仕組みと人材なのです」と力説されていたが、この話はバイオに限らない。テクノロジーベンチャーの創造だけでなく、さまざまな手法を使って技術をカネに変えるプロセスについては、やはりアメリカが圧倒的に進んでいて、見るべきものが多い。

(6) 起業家精神、起業家経済、リスクテイク。3月23日「シリコンバレーの良心、ダン・ギルモアの危機感」の最後に、彼がアメリカの最後の拠り所はリスクテイキングなのだと書いていた。また、3月1日「オフショア開発で明暗別れるプログラマーのキャリア」の最後で、Tom Petersも、オフショアリングが進む中アメリカがサバイブするためには、さらなる起業家精神が不可欠と主張していた。「アメリカという国は逆境のときこそ凄みを見せるものだ」というのが僕の根本的なアメリカ観であるが、次の10年、20年で、アメリカはさらなる起業家精神を高揚させるためには何をすればいいかということを、資本主義の仕組みの中で徹底的に極めていこうとするだろう。ここは、アメリカらしいフロンティアであり続けよう。

(7) 利益追求に向けての企業のIT徹底活用。昨年11月6日「「楽しい日本の会社」にアンチテーゼを突きつけるデル」などで、これまでデルの経営については詳述してきた。(4)資本主義的なこと、とも深く関わるが、デルに限らず、「企業は利益を追求するものだオシマイ」みたいな経営感覚を、IT徹底活用と組み合わせると何が起こるのか、企業の生産性というのはどこまで上がっていくのか。こんな領域の追求も、アメリカが先行するフロンティアであろう。

(8) 大学、大学院、そして国家予算(軍事予算も含めて)での研究開発に関わること。ここもアメリカの生命線である。MITのオープンコースウェアについては、たびたび取り上げてきた(去年の9月8日9月9日、今年に入って2月13日)し、大学経営における合理性の追求や競争のあり方(9月16日「大学の経営は進歩しているか」参照)、門戸を世界に広げた大学院の思想、国家研究予算をできるだけ有効に使うための仕組みや経験、その成果を産業界に移転していくことに関する法律の整備や仕組み。こういった部分のアメリカは、やはり優れている。2002年5月に産経新聞「正論」欄に、「若い頭脳活用する環境つくれ」という文章を書き、その冒頭を

「トップクラスの若い頭脳が徹底的に競争する環境がアメリカにはある。大学受験で競争が終わるのではなく、研究やビジネスの第一線から離脱するまで、永久競争とも称すべき競争が繰り広げられる。そのプロセスは厳しいが、トップクラスの若者たちを強くたくましく育てる。」

こう始めたが、まさにこういう領域のことである。

(9) IT産業に特有の経営戦略。IT産業の経営と他産業の経営は違う、と僕は思っている。11月12日「年月を経ても色あせないアンディ・グローブのIT産業経営論」、11月21日「グローブ流経営術「変化を察知する予言者を社内に見つけろ」」で詳述したが、IT産業に特有な経営戦略は、学問的研究成果も含めて、やはりアメリカに「見つめるべきこと」が多いと思う。

(10) NPO、財団など、富の社会への還元に関わること。アメリカという国は、資本主義を追及するゆえに、富が成功者に偏在する傾向を持つ。そしてそれを社会全体に還元する仕組みのすべてを、政府が担っているわけではない。偏在した富を、富裕層が自ら社会に還元する仕組みについても、アメリカには学ぶべきものが多い。企業の社会貢献ということも、広義ではこのカテゴリーに入るだろう。たとえば、去年11月20日「優良未公開企業Salesforceは社会貢献に対する考え方が違う」なんてあたりもその1つの例である。

まだまだ列挙できるかもしれないが、とりあえず10項目に達したので、今日はここで終わりにしよう。

若者にとってのバンテージポイントは?

この連載は、10代、20代の若い人たちを想定して書いている。想定読者である彼らの関心、悩みの中心に、「これから何をやって生きていこう」というキャリアに関わるテーマが重く存在することはよく承知している。自分だって20代の頃は、そういうことで悩んでばかりいたから、よくわかる。

先ほど、海老沢泰久「美味礼讃」を題材に、情報の質と量にギャップが存在するところには、アービトラージを取ることでビジネスチャンスが生まれ、キャリアが開ける、という話をした。ただ今はもう高度成長期ではないから、わかりやすいギャップが存在するところ、表面的な知識でアービトラージが取れるところは、ほとんどすべてやり尽くされて、終っている。ここで列挙した10領域でも、何かそこを専門に勝負しようとするならば、それぞれ相当深い経験をしなければいけない時代にはなっている。

たとえば、シリコンバレーが体現する(6)で書いた「起業家精神やそれを支える仕組み」を例にとれば、僕が最近よく顧客企業の人たちに言うのは、

「日本企業はシリコンバレーについて、「わかったつもり」になって「わかったふり」をしていますね。そういう現状は、何も知らないからと学ぶ姿勢を持っていた10年前、20年前よりも退行しているんじゃないかな」

ということだ。確かに少しは経験してみた。そしてその上に教科書的知識は豊富になった。それで何もかもわかったような気になっている。だけど、その本質はぜんぜん掴んでおらず、行動を起こそうとしたときになって馬脚を現す。そういう人がどれほど多いことか。今日挙げた10項目というのは、そういう生半可な人たちが、日本に溢れている領域だと言いかえてもいい。そんな中、本当に深い経験を積んでその世界のプロになれば、某か道は開けるだろう。キャリア戦略という観点からも、本稿で列挙してきた10領域を読んでいただければと思う。

1月30日「若者はバンテージポイント(有利な場所)でキャリアを磨け」で書いたバンテージポイント(有利な場所)とは、高度成長期の日本の料理人にとって辻調理師学校やフランスの三ツ星レストランがそうだったように、勉強したり、働いたりしているうちに、知らず知らず、世界で最も進んだ何かについての経験が自分の中に溜まっていく場所のことでもある。今日提示した10項目+αも含め、「ITとアメリカに関わることで、若い人にとってのバンテージポイント(有利な場所)は今どこにあるのか」ということを、主題としてより意識して、連載2年目を続けていきたいと思う。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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