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CNET Japan ブログ

世界のオタクパワーを借りて日本アニメの海外進出を

2004/03/09 09:01
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プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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[ゲスト] 川野俊充 Toshimitsu Kawano
3月8日(月)〜3月12日(金)までの間、梅田望夫さんの代わりに川野俊充さんがゲストブロガーとして登板します。川野さんは梅田さんと同様シリコンバレーでコンサルタントをされています。P2PソフトのGnutellaの日本版を開発するJnutella.orgでの活動で知られるほか、テクニカルライターとしても活躍しています。川野さんの経歴については川野さんが運営するAbacus::blogをご覧下さい。

日本語の人気Blog、Passion For The Futureに掲載された「スケベ心で巨富を築く技術?テストステロンコンピューティング」にはインターネットの浸透が引き起こしたパラダイムシフトの1つの方向性を指摘する非常に面白い考察が含まれている。

インターネットが可能にした人力分散システム

CAPTCHAという画像を使った認証技術(画像として表示された文字列の入力を求めることで相手が人間の場合だけアクセスを許可する仕組み)を破るために、ポルノ画像を見せるのと引き替えに、コンピュータでは解析できないCAPTCHAの文字列の入力を人間に手伝わせるというクラッキングシステムを

「「人間の認知能力では簡単にできるが、コンピュータには難しいこと」を、大量に処理する人間の分散コンピューティングができるということ」

と表現しているくだりだ。CAPTCHAで保護されたセキュリティを破るアイデアはCMU student taps brain's game skillsで説明されているように、

「But at least one potential spammer managed to crack the CAPTCHA test. Someone designed a software robot that would fill out a registration form and, when confronted with a CAPTCHA test, would post it on a free porn site. Visitors to the porn site would be asked to complete the test before they could view more pornography, and the software robot would use their answer to complete the e-mail registration.」

コンピュータでは破る事が難しいCAPTCHAテストを、ポルノサイトで画像を見たい人に答えさせる、という単純なものだ。それでも、インターネット上に分散している多くの人の欲求/暇/関心などを束ねて何かを解決/実現するためのリソースに変換してしまうこうした仕組みは、ひとつのパラダイムシフトの象徴であると私は思っている。

このCAPTCHAクラッカーは、システムを騙す目的と、画像を見せてパスワードを入れてもらう手段を裏で勝手に付け替えているという点でユニークだが、分散した人手をネット越しに集めてくるという意味では、実はこれまでも似たような事例は数多くある。例えば世界中のエンジニアの暇を束ねて開発リソースに変換してしまうLinuxの分散開発の体制もそうであるし、身近なところでは人力検索サイトはてなもまさしく「人力分散システム」そのものだ。

ユニバーサルなオタクパワー

こうした「ネット上の特定の場所に密集している未開拓の人的リソース」というのは実はほかにもいろいろと存在している。積極的にビジネスに生かせば今までにないことができる。今回はそんな視点から日本のアニメプロダクションが「Fansub(ファンサブ)コミュニティ」と呼ばれる海外のアニメファンにライセンスを与えるというアイデアについて考えてみたい。

FansubとはAnime News Network.comによると以下のように説明されている。

「A fansub is a fan-produced translated, subtitled version of an anime program. Fansubs are a tradition that began with the first anime clubs in the 1980s, although with the advent of cheap computer software and subbing equipment, they really took off in the mid 1990s. Nearly all fansubs are produced by anime fans for fans, and are distributed free (or at the very most, for reimbursement of incidental costs such as blank tape for the particular copy, postage, etc.) Those who do charge money for fansubs are frowned upon as bootleggers. Fansubs are distributed through local anime clubs, trading through the mail or now through file-sharing services on the Internet. Although technically illegal -- Japanese copyrights are honored in the US and other Berne Convention countries and vice versa -- some anime licensors look the other way on fansubs as "free advertising" since people who see a fansub are likely to buy the release on DVD if they enjoy it. Fansubbers also follow a code of honor of sorts, and halt all work on a title once it has been licensed in the US.」(編集部注:上記サイトは一時的に接続しにくくなっているようです)

要は、日本のアニメコンテンツに英語などの字幕を付けて作品を共有するという、ファンのファンによるファンのためのコミュニティ活動だ。こうした活動そのものは20年くらい前から存在し続けてきたが、アニメの編集が自宅のパソコンのありあわせの環境でできてしまうという技術のコモディティ化とインターネットの普及によって、日本語圏外のアニメファン達がここ数年、どっとこの世界に入って来た。かつてはローカルな小さな集まりで手製のビデオテープをやりとりする細々とした活動だったが、いまや日本で放映されている深夜アニメが放映後数日で様々なコミュニティが勝手に英語字幕を付けたムービーファイルとしてネット上に出回るようになった。

もちろん、厳密にはこれは違法行為であるが、米国の日本アニメライセンシーの中にはこれに「広告効果がある」として目をつむっているところもある。事実、私の友人にもこうしたファンサブコミュニティの作品によって日本アニメ/漫画ファンになり、せっせと日本語を勉強して、定期的にジャパンタウンの紀伊国屋に漫画を買いに行くようになった米国人もいるし、ファンサブコミュニティで技術を磨き、ライセンシーに就職して字幕付けを本業とする人も結構いるという。

日本では1日15万人を動員するコミックマーケットなどの盛況ぶりでこの「アニオタ」「マンガオタ」パワーを身近に感じる事があるが、米国でも、実はものすごいことになっている。年間23%成長、昨年1万7000人の参加者を動員し、13年の歴史を持つAnime Expoやシリコンバレーでは最大規模(5500人)のFanimeConなどには米国全国から(時には国外からも)参加者が集まる大イベントで、もちろん、コスプレ大会もある。

また、最近知ったもので思わずひっくり返りそうになったのがYaoi-con(やおいカンファレンス)である。アメリカの女の子たちが日本のやおいものを読んでいるというだけでもびっくりなのに、それがアンダーグランドな存在でなく、こうやってまじめなカンファレンスを開催するほどの規模でファンが育っているのは全く想像だにし得なかった(「やおい」を初めて聞いた方は以下のYaoi-conのFAQ「What is Yaoi」の引用を読んでみてください。私もこれで「やまなし、おちなし、いみなし」の意味である事を学びました。ボーイズラブなどとの違いも丁寧に解説されています)。

「Yaoi is a Japanese publishing genre that encompasses manga, novels and short stories produced by female artists and writers for the enjoyment of female readers. It's a fantasy form which focuses on the romantic, emotional, and above all, sexual relationships of guys together. The word yaoi is derived from the first syllables of each word in the expression, yama nashi, ochi nashi, imi nashi, which means "no peak, no point, no meaning,” and originally referred to badly drawn self-published fan comics (doujinshi). Yaoi is similar to the American genre of slash (m/m pairings based on popular tv series, movies or books), but typically with more of a visual aspect.」

オタクパワーを「人力分散システム」としてのインターネットで1つに集める

こうした「濃い」エネルギーは言葉の壁を越えて存在し、ネットを通じてコミュニティを形成する。そして利害関係を度外視(無視)し、好きな事をどんどんやってしまう。このエネルギーはいわゆる「アントレプレナーシップ」というものを支えるモチベーションと少し似ているところがあると思う。

ウィスコンシンの田舎に住むという小学生の少年がIRCで話しかけて来て、ファンサブ作りに協力しているというので、なぜそんなことをするのかと聞いたら1行の答えが返って来た。

「Because I LOVE anime and manga!!!! jyane-」

彼は日本に行った事も無ければ、どこにあるのかもよくわからないらしいが、とにかくかっこいいコンテンツがあるところだと認識しているらしい。日本語も全てアニメから学んでいるそうだ。そういう「好き」が生み出すモチベーションは誰にも止められないよなあ、としみじみと感じるばかりである。

国外では、日本のアニメコンテンツは国外のライセンシーが権利を取得し、翻訳し、吹き替えを行い、パッケージングを行い、宣伝し、売り始める。日本で発表されてからリリースされるまで何年もかかることもあるし、やはり売れるものしか英語化されないのが現状のようだ。そうやって権利関係の調整で時間がかかり、声優をオーディションして吹き替えを行い、と作業をやっている間に国外のコアのファンたちは待ちきれなくて自分たちで字幕を付け始めてしまう。「正規版を買いたくても売っていないから…」と言われると気持ちがわからなくもない、というのが正直な気持ちだ。

いっそのこと眠っているコンテンツのライセンスをこういうコミュニティに提供するプログラムを考案し、「自分たちで字幕を付けてもいいし、それで商売をしてもいいけれど、もし売り上げが上がったらそれはライセンス元に渡す事」というような形式で彼らの活動にお墨付きを与えることは、プロダクションとファンとの間にWin-Winの関係が築けるのではないだろうか、というのが私の提案である。

もちろん、解決すべき問題は沢山あるが、どうせ放っておいても好きな人たちは勝手に字幕を付けて勝手にばらまいてしまうのである。それをしらみつぶしにすることにリソースを使うよりも、少しでも売り上げが上がるチャネルを増やすことが「とことん1つのコンテンツを再利用する」というアニメ業界の基本戦略にも合致すると思うのだ。

オタクパワーを「人力分散システム」としてのインターネットで1つに集め、それをビジネスの手段として練り上げて行く。こういう視点で世の中の流れを見つめると、最近流行りのソーシャルネットワークサービスなどの意義も見えてくるような気がするのだが、皆さんはどう思いますか?

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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