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「ニューエコノミー」論の嘘と本当

2004/02/26 09:22
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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米国株式市場のピークは2000年3月だったから、まもなく4年が経過しようとしている。早いものである、と言うべきか、まだ4年しか経っていない、と言うべきか。難しいところである。Fast Company誌の2004年3月号は、そんなこともあってか、当時盛んに使われていたが今は使われないニューエコノミーという言葉をタイトルに入れた「What We Learned In The New Economy」という総括長文記事を掲載した。全文無償で読めるようなので、ご紹介しておこう。

何がリアルで、何がバブルだったのか

論点は全部で6つある。

(1) 「インターネットはすべてを変える」論はどうなった?

(2) 「フリーエージェント・ネーションのユートピア」論はどうなった?

(3) 「ITによる生産性向上」論はどうなった?

(4) 「速く走れ、さもなければ死ぬぞ」論はどうなった?

(5) 「インターネットは顧客に無限のパワーを与える」論はどうなった?

(6) 「自らのビジネスを破壊せよ、さもなければ誰かに破壊される」論はどうなった?

「The New Economy isn't dead. It just didn't happen in the way we all imagined. And now it's been long enough that we can think more analytically about which of the shiny and alluring ideas of the New Economy were lasting and real, and which were just the iridescent glint of a bubble.」

「「ニューエコノミー」は死んでいないが、我々が想像したようには起こらなかった」という立場から、ニューエコノミーの何がリアルで、何がバブルであったかを総括しようというのが、この記事の立場である。

ではまず第1の論点(「インターネットはすべてを変える」論はどうなった?)から。

Boom-Time Buzz:
The Internet changes absolutely everything.

Cold Reality:
Absolutist statements are absolutely a bad idea.」

この記事では、各論点の最初にこんなふうにサマリーがついている。第1の論点についての結論は、「インターネットはすべてを変える」的絶対主義者の主張は誤っていた、ということ。この記事では、

「There is no question that the Internet has been a technological earthquake, transforming the way individuals and businesses use information.」

インターネットのインパクトは巨大であったが、ジャック・ウェルチの

「"[the Internet] created new distribution models. But that's all that came out of the Internet. I don't see any new inventions."」

という言葉に代表されるような「インターネット単独での事業よりも、インターネットとリアルビジネスの融合のほうにこそ、インターネットの本質的意義があった」と総括する。そしてこの記事では、その例外として、

「And then there are the clear exceptions--the Amazon.coms, Expedia.coms, and eBays.」

アマゾンやeBayを位置づけている。果たして、アマゾンやeBayを例外と位置づける視点は正しいかは議論の分かれるところだろう。足掛け10年に及ぶ壮大な試行錯誤の末に、アマゾンやeBay(やGoogle)のような全く新しいものを生み出した、という総括もあり得るからだ。

「フリーエージェント」の皮肉な現実

次に第2の論点(「フリーエージェント・ネーションのユートピア」論はどうなった?)。

Boom-Time Buzz:
Free Agent Nation is a utopia. The Brand Called You makes you more marketable than ever.

Cold Reality:
Free Agent Nation is a jungle. The Brand Called You is the only way to survive.」

フリーエージェント国家において、「あなたというブランド」を築けば・・・、そんなユートピアは現れず、フリーエージェント国家はジャングルと化し、「あなたというブランド」を持つことは、ジャングルでの唯一のサバイバル戦略となった。

「Ironically, the dramatic downturn has proven the staying power of both concepts--just not in the idealistic ways we imagined.」

皮肉なことに、バブル時に提起されたFree Agent NationとThe Brand Called Youというコンセプトは、我々が想像したような理想世界とは全く違う形で相変わらず生き残っている。

インド、中国に代表される新しい世界からの厖大な量の労働力の新規参入がネットと相乗効果を起こしたこともあって、我々一人一人が、フリーエージェントとして一生を生き抜いていくことが、実に難しくなっているということである。これは、僕もずいぶん前から主張している「ビジネス社会のプロスポーツ化」現象につきものの「負の部分」である。フリーエージェントという概念自身がプロスポーツから来ているわけだが、プロスポーツの世界ほど華やかだが残酷な世界は他にない。ハリウッドだって同じ。それをビジネス社会全体に敷衍したら、それは確かにジャングルになるのである。我々は好むと好まざるとに関わらず、そういう世界を生きているのだ。

余談になるが、ビジネス・ウィーク誌にローラ・タイソンが書いた「Outsourcing: Who's Safe Anymore?」もこの文脈でご参照ください。伊藤洋一氏の日記「YCASTER Day by Day」の2月17日分で解説されてもいる。

「最新のビジネス・ウィークに載っていたローラ・タイソンの「Outsourcing:Who's Safe Anymore ?」を読みながら、「本当にそうだなあ」と思うと同時に、でも日本はまだ日本語の壁に守られているな、と思いました。「アメリカの景気回復は既に2年を超える長さになっているが、職と労働者の収入は増加の兆しを見せていない。過去の回復期のケースが参考になるとしたら、今頃米国経済は民間部門で800万人分の職を創出していたはずなのに....」で始まるこの文章は、今のアメリカ経済、そして日本を含む先進国経済が直面している問題の核心を突いている。」

続きは、YCASTERサイトでどうぞ。

生産性は向上したけれども

そして第3の論点(「ITによる生産性向上」論はどうなった?)。詳細は原文をあたっていただきたいが、気になった箇所を二つだけ引用すれば、

「But while it's true that IT spending went up dramatically in the late 1990s, its link to productivity is not nearly so neat as the New Economists proclaimed. The McKinsey Global Institute has found that more than three-quarters of the U.S. net productivity gain came from only six sectors: retailing, securities brokerage, wholesaling, telecom, semiconductors, and computer assembly, which together make up just under one-third of GDP.」

マッキンゼーの研究によれば、米国における生産性向上は、主に、小売り、証券取引、卸売り、テレコム、半導体、コンピュータ・アセンブリの6セクター(あわせてもGDPの3分の1以下)でしか現れていない。

「The truth, according to the McKinsey folks, is as much about competition as it is about technology. In sectors where there was a lot of competition, businesses had no choice but to innovate, sometimes with tech but also with new management practices.」

しかも、現実には、その大半がテクノロジーによってもたらされた生産性向上、というよりも、競争によってもたらされた生産性向上、という側面が強い。競争による生産性向上は、多くの失業や、苛酷な労働現場を生み出しているという意味で、我々人間にとって素晴らしいものと言えるか疑問である。しかしこれも仕方ない。不可避な現象として受け止めるしかない。

第2、第3の論点を総合したとき、ニューエコノミーが社会全体にもたらしつつあるのは、かなり苛酷な条件であるに違いない。

第4の論点(「速く走れ、さもなければ死ぬぞ」論はどうなった?)と、第5の論点(「インターネットは顧客に無限のパワーを与える」論はどうなった?)は原文をどうぞ。

米国大企業にとってのインターネットの驚異

そして最後の第6の論点(「自らのビジネスを破壊せよ、さもなければ誰かに破壊される」論はどうなった?)。

Boom-Time Buzz:
Destroy your business, or someone else will.
Cold Reality:
Incumbent businesses aren't so easily destroyed.」

この「Destroy your business」という言葉は、GEのこのイニシアティブによって有名になった言葉だ。

「The notion became scarily concrete in 1999 when General Electric, the decade's It Company, established destroy-your-business.com, a task force staffed by young hotshots charged with inventing Internet businesses independent of GE's mainstream units.」

僕は、このGEのdestroy-your-business.comというタスクフォースのことを詳しく調べて、当時、日本企業のトップに報告したことがある。

ウェルチのこのイニシアティブと、IBMのガースナーが盛んに語り続けたe-Businessという思想が、大企業がちゃんとインターネット・ブームに対応しさえすれば、ドットコムに負けることはないのだという自信を、90年代後半の米国大企業に与えた。

「At the dawn of the Internet era, many old-line companies were indeed unresponsive and inflexible, leaving themselves vulnerable to new competition. Many still are. But those big corporations, it turned out, had other things going for them. One was, well, bigness, which brings leverage over suppliers and customers, plus access to capital markets. Established companies also enjoy powerful distribution channels, brand awareness, and relationships that aren't toppled quickly.」

大企業は、そのプロセスで、大企業ゆえの強みを再確認し、それをインターネットのパワーと組み合わせる企業が現れたわけだ。

「"The new businesses just made people faster, more efficient, and more effective." Despite eBay's success, Welch points out, Wal-Mart still thrives. "The vast majority of beneficiaries of the dotcom era were old-line businesses that became more competitive--not by abandoning their businesses, but by enhancing them." As for destroy-your-business.com, Welch says it "turned out not to be a very good idea." It helped to shake up GE's culture, but it also isolated Internet technology from the company's mainstream businesses. Within 18 months, it was disbanded.」

ウェルチはこう言う。インターネット・ブームは、大企業の旧来のビジネスにより強い競争力を与える結果となったと。

しかし、彼のdestroy-your-business.comは、GEにカルチャーショックを与えるという歴史的役割を終えて、バブル崩壊を横目で見ながら、18カ月後に解散したのである。

以上が、駆け足で追いかけてきた、この記事におけるニューエコノミー論総括である。1994年から2003年までの総括としては特に反論の余地もなく、特に最後の論点などは、大企業経営者のインターネット観、ニューエコノミー観と、ぴったり一致している。さて、こんな総括を超えて、我々はどこに向かっていくのだろうか。

プロでなければ生き残れない時代

僕自身はどう考えているかと言えば、2000年末頃から、結局、この新しい現象というのは、個々人にとっては「ビジネス社会のプロスポーツ化」、ひいては社会に二極分化を引き起こし、個々の企業にとってもこれまでよりも苛酷な「消費者天国・供給者地獄」とも言うべき世界が顕現するだろう、と考えた。そして、その頃からその考えにほとんど変化がない (逆にあまり進歩していないとも言える)。

今も依然として、ミクロには、つまり個々人にとっては(企業に勤めていようが、そうでなかろうが)、こういう厳しい前提を置いて、あるいはこういう厳しい環境がさらに激化していくことを前提に、サバイバルを最優先事項に生きていくしかないなぁと考えている。ビジネスの世界はプロスポーツの世界ほど現役寿命が短くはない。でも、プロスポーツ選手のように、現役として1年でも長く活躍できるよう精進しつつ、体が動かなくなって現役を引退した後のデザインもきちんと考えておかなければ、サバイバルすらおぼつかなくなった。それがニューエコノミーの現実なのではないかと考えている。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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