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CNET Japan ブログ

情報産業が不安定なのにはわけがある

2004/02/24 08:56
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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Financial Timesに載るネット論や情報産業論(ヨーロッパ的視点)をたまには取り上げたいのだが、FTはけっこう高額の定期購読制なので、なかなか、それがままならない。幸い、2月16日にFT.comに掲載された「Eli Noam: Market failure in the media sector」が無料で読めるので、今日はこれを題材にしよう。

ネットやITの可能性にネガティブなヨーロッパ

僕は以前、ADLというコンサルティング会社に10年勤めていたが、グローバルにはTIME(Telecom, IT, Media, Entertainment)プラクティスというグループに属していた。ADLという会社は、ボストンに本社があるアメリカの会社だったが、歴史的にアメリカよりもヨーロッパの事業のほうがうまくいっていたので、ヨーロッパのコンサルタントたちの力が強かった。たとえば、僕が関わっていた「シリコンバレーに事務所を開く」というような案件の意思決定にも、ヨーロッパのトップがかなりの発言権を持っていた。そんな背景から、1994年から1997年というインターネット萌芽期に、インターネットの意味やら、IT産業のこれからやら、そういったテーマで、ヨーロッパのコンサルタントやヨーロッパの顧客企業とさんざん議論した。

結論としていえば、ヨーロッパは、ネットやITの可能性について超短期的で超現実的、もっといえばいつもシニカルでネガティブであり続けた。新しい何かに対して、シニカルにネガティブに言い続ければ、いつかはあたる。94年からダメだダメだと言いつづけて、2000年のネットバブル崩壊に際して、ほら見たことか俺はずっとそう言ってたろう、と言うのはたやすいが、そういう言説にいったい何の意味があるのだろう、なんてよく思ったものである。

シリコンバレーは全くその正反対だから、いつも何かと、ボコボコにやられる。それが宿命で、それはそれでなかなか辛いものがあるのだが、やっぱりそういう風土だからこそ、ときどきGoogleのようなとんでもない会社が生まれる。ヨーロッパからは、理論は生まれたって、それを基にしたもの凄い会社なんかは生まれない。

メディアセクターにおける市場の失敗

さて、今日の「Eli Noam: Market failure in the media sector」の筆者は、アメリカの大学の教授(professor of economics and finance at Columbia University)であるが、いかにもFTが好きそうな言説を展開している。題して、「メディアセクターにおける市場の失敗(市場の不成立)」である。

「When the leaders of media, telecommunications, IT and internet companies congregate, as they did recently in Davos, the talk is upbeat about new accomplishments but subdued about recent ordeals: the dotcom bubble; the telecoms crash; the music industry bust; the advertising downturn; the e-publishing revenue stagnation; the PC slowdown; the wireless saturation; the semiconductor slump; the newspaper recession; the R&D retrenchment.」

冒頭からして、ヨーロッパっぽい。ダボス会議にメディアやテレコムやITやインターネット企業のトップが集まって、新しい達成について自信を示したらしいけれど、悪いニュースの話はちゃんとしたのかい? みたいな感じ。そこからは悪いニュースの一覧---ドットコムバブル、テレコム・クラッシュ、音楽産業の破綻、広告事業の沈滞、電子出版売り上げの不振、PCスローダウン、ワイヤレスの飽和、半導体不況、新聞不況、R&D費削減。

「And the question is, why do these predicaments sweep over the information sector so regularly?」

問題は、情報セクターには、どうしてこんなに規則的に、こういう窮状が押し寄せるのだろうか、ということだと教授は問題提起する。

「The prevalence of these problems points to fundamental issues beyond a specific industry or short-term period. Instead, we need to recognise that the entire information sector - from music to newspapers to telecoms to internet to semiconductors and anything in-between - has become subject to a gigantic market failure in slow motion. A market failure exists when market prices cannot reach a self-sustaining equilibrium. The market failure of the entire information sector is one of the fundamental trends of our time, with far-reaching long-term effects, and it is happening right in front of our eyes.」

この部分が、この論考のエッセンス部分である。

こうした問題が行き渡るということは、個別の産業とか短期的な視点を超えた、もっと本質的な課題が存在することを意味している。音楽から新聞からテレコムからインターネットから半導体まで、すべての情報セクターが、ゆっくりとスローモーションで、a gigantic market failure(巨大な市場の失敗)に陥ろうとしていると考えるべきだ。市場の失敗(不成立)は、市場価格が、self-sustaining equilibrium(持続可能な均衡)に到達できないときに起こる。情報セクター全体の「市場の失敗(不成立)」は、我々の時代の根本的なトレンドであって、長期的影響は広範囲にわたる。

「The basic structural reason for this problem is that information products are characterised by high fixed costs and low marginal costs. They are expensive to produce but cheap to reproduce and distribute, and therefore exhibit strong economies of scale with incentives to an over-supply. Second, more information products are continuously being offered to users. And information products and services are becoming more "commodified", open, and competitive.」

そして、この問題の基本的かつ構造的な理由は、第一に、情報製品が高固定費と低限界費用によって特徴付けられるからだ。作るのにカネがかかるが複製やディストリビューションは安価。規模の経済を皆が志向するので、供給過剰になりやすい。第二に、より多くの情報製品が、継続的にユーザの前に押し寄せ、コモディティ化、オープン化、競争激化が引き起こされているというわけである。原文では、さらに詳しい説明が続く。

そして、結論は、

「The conclusion is, therefore, that as countries rely more on information-based activities, their economies become more volatile.」

国が、より情報ベースの活動に依存するようになると、その国の経済は、もっとvolatile(気紛れ、移り気、不安定)になる。

さらに文章は続くが、基本的には、こういう悲観的な視点が提示されているだけ。詳しくは原文をどうぞ。

コンソリデーション(合併・統合)とシンジケーション(連携)

さて、これを読んだWERBLOG(Kevin Werbach)の感想がある。Kevinはこの筆者のEliについて、

「Eli is by nature a cynic, so what he has to say is often not pleasant. But he has the unfortunate habit of being right much of the time, and ahead of the curve virtually all the time.」

こう書き、

「I've disagreed with some of his conclusions, but I'm with him on the core insight: there is a basic structural disconnect in the economics of information industries, with painful consequences. We saw it first in telecom, where VOIP is now bringing the issue to a boil, but it's broader than that.」

彼の指摘に全面的な賛成ではないが、いいポイントを付いていると評価する。

そして、彼としての、一つの答えはコンソリデーションで、

「One answer, which Noam thinks may be inevitable, is consolidation to the point of monopolization. Ma Bell held back the tide of commoditization in an industry characterized by high fixed and low variable costs, and Microsoft is doing the same thing in the PC business. That outcome isn't all bad... but it's far from good. And, I believe, far from assured.」

もう一つの答えが、シンジケーションだと、

「Is there another answer? I think there is. I proposed it four years ago in the Harvard Business Review (and a year earlier in Release 1.0): syndication. At the time, the idea may have sounded like new economy hype. In reality, syndication is a roadmap for pulling out of the commoditization death spiral. It won't be simple and it won't be painless, but syndication will provide a foundation for new growth in the information sector. Just look at the performance of the two Web-based companies most heavily built on the syndication model: Google and Amazon. Another useful test case for syndication will be the development of the RSS/RDF/Atom ecosystem around Weblogs.」

そう、Kevin Werbachは言っている。コンソリデーションとシンジケーション。なるほど。改めて情報セクターについて、この2つのキーワードで考えてみることにしたいと思う。

この「Eli Noam: Market failure in the media sector」については、Ross MayfieldもそのBlog「Collapse of Information Markets?」で感想を述べている。そして、それについては、SW's memo「情報経済は崩壊するのか?」に解説があるので、そちらもご参照ください。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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