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カネがありすぎるのも考えもの、ベンチャーの成功要因

2004/01/28 09:44
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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昨日に引き続き、ベンチャーへの過剰投資の問題を取り上げる。今日はそれをベンチャー成功要因という観点から考えていこう。

題材は、「A VC」の「Overfunding Companies」と、Darwin Magazineの「What Makes Some Startups Succeed?」である。前者の問題意識はこうだ。

「Because my experience tells me that more money doesn't usually translate into a better business. In fact, most of the time more money has translated into a worse business.」(私の経験では、より多くのカネがより良いビジネスに転ずるとは限らない。実際には、ほとんどの場合、より多くのカネはより悪いビジネスに転ずるものだ。)

そして、「too much money leads to all kinds of mistakes」という言い方をする。つまりカネがありすぎると、それが、すべての種類のミステイクにつながっていくのだと言うのである。

450社以上の成功要因を分析

さて、後者は、

「Some surprising answers are provided by a new study that analyzes more than 450 startups over three decades, shining a hard light on what works and why in building successful tech firms. The effort was begun about a year ago by Crescendo Ventures of Palo Alto, Calif., an early-stage VC firm, with the intent of improving future decision-making by startup founders and the investors who back them. Their report detailing the findings was just released.」

シリコンバレーのアーリーステージに特化したVCが行なった、30年に及ぶ450社以上のスタートアップの成功要因分析結果がベースになった記事である。ちなみに、この記事の元になった80ページからなる報告書は、しかるべきプロセスを経れば入手できるものらしい。

「The 80-page report, "Venture Investing in the Storage Sector: The Cold, Hard Facts," may be requested from Crescendo. (You can download it as an 8.4-Mb PDF file, or request a hard copy.)」

僕は試していないが、興味のある方は、Crescendo Ventures Reports & Presentationsへお問い合わせください。

「The particular tech sector the firm studied was data storage and storage networking, which has been an especially active one in recent years. It's also a sector that's produced better than average returns for investors (including for the firm doing the study). The sector is a cross-section of the entire IT landscape because it's made up of companies selling hardware, software, chips, components, and services, including consulting and outsourcing.」

この分析対象となった450社は、データ・ストレージとストレージ・ネットワーキングの会社である。このセクターには、ハード、ソフト、半導体、部品、コンサルティングやアウトソーシングを含むサービスのすべてが含まれるので、母集団としてよい。

成功要因は資金調達ではなかった

分析結果として、ベンチャー成功要因について「some of the unexpected findings」が4つ出てきたという。

(1) Companies raising the most capital don't have the strongest chance to succeed.

(2) A fully staffed executive team is not necessarily a requirement for success.

(3) Most successful storage startups fail to meet all the criteria for being a truly "disruptive innovation."

(4) In 93 percent of the cases, the strategy that a company emerges with (at exit) is completely different from the strategy it set out to implement.

最も多く資金調達した会社群の成功確率が高かったわけではなく(1)、経営チームを完全に揃えることが成功のための必要条件でもなく(2)、ほとんどの成功企業は「disruptive innovation」(破壊的イノベーション)を引っ提げてのものではなかったし(3)、93%の場合、最初に考えていた戦略とexit時の戦略とは全く異なったものであった(4)。

この4項目は、僕の経験から来る実感とも、かなりフィットする内容である。

今日のテーマと直接関係するのは(1)だが、

「In fact, the research report states, "there is a negative trend in the number of (successful) exits as funding exceeds the average range." Over-funding actually allows companies to follow a flawed strategy for too long, the report points out.」

過剰投資は、欠陥のある戦略をその会社が長く継続することを可能たらしめてしまう。それが問題なのだとこの分析では指摘している。

詳しくは原文をどうぞ。

成功の鍵は

さて、ここからは、この2つの題材に刺激を受けての、僕の私見である。なぜベンチャーにカネが豊富だとかえってよくないのだろうか。

僕はベンチャーの成功要因は、創業者・経営チームが(a)どれだけその事業の詳細を深く把握しているか、(b)どれだけ成長を強く希求しているか、の2点に集約されるのではないかと、最近は考えるようになった。

むろん核になるアイデアや技術がある程度以上のものであることは必須条件であるが、この調査結果の(3)(4)で示されるとおり、破壊的イノベーションが必ずしも成功要因ではないし、最初のアイデアのまま最後まで行ける例などほとんどない。環境変化に適応しながら、短い時間の間に猛スピードで試行錯誤を繰り返す濃密な時間を過ごしていくのが、ベンチャーの日常であるからだ。

(a)はベンチャーにもスモールビジネスの両方にあてはまる成功要因であり、(b)は成長しなければ無価値のベンチャー特有の問題である。(a)だけで(b)が欠けていると、以前にご紹介した「Living Dead」(生ける屍)になってしまう。「Living Dead」については、昨年6月18日の「利益が出ている会社がなぜ「生ける屍」なのか」をご参照。一方、(b)はあるが(a)が欠けている場合が、ベンチャーが失敗に陥る落とし穴としての典型例であると思う。

正しいカネの使い方を探し続ける

では(a)「事業の詳細を深く把握している」ということはどういうことか。

それは、突き詰めて言えば、正しいカネの使い方を毎日毎日し続けることができるかどうかということである。「事業の詳細を把握している」ということは、「無駄ガネに終わりそうな支出」を直感で判断できることだ。人を雇うこと(正しい人を必要なだけタイムリーに雇う、不要な人は雇わない)、雇った人に何かをさせること(正しいことをさせる、意味のない仕事はさせない)、モノを買うこと(正しいモノを正しいときに正しい値段で買う、要らないモノは買わない)。当該事業立ち上げに関して、まずシンプルにこの3つだけをやることを考えて、自信を持って「事業にとって意味のないカネはいっさい使っていない」と言い切れることが「その事業の詳細を深く把握している」ということに他ならない。

もちろん「事業の詳細を深く把握している」ということは、最初からどうすれば成功できるかの手順が全部わかって粛々とそれを執行するという意味ではない。そんなことはあり得ない。だから試行錯誤のためのカネは、「事業にとって意味のないカネ」ではない。意味のあるカネである。「事業の詳細を深く把握している」ということは、正しく試行錯誤ができるという意味なのである。失敗をたくさんしなければ成功に出会わないわけだが、その試行錯誤を無駄なくやれる能力でもある。これは、「言うは易いが、行なうは難し」だ。

「事業にとって意味のないカネはいっさい使っていない」と自信を持って言える範囲の広さを、創業者・経営者チームの器(キャパシティ)と言うとすれば、その器以上に「カネを使う」となると、その器の外に溢れた分の余ったカネは、器の範囲内で正しく使われているカネに比べて、かなり無駄が多く使われることになる。それが、カネが豊富だとかえってよくないケースが多くなる大きな理由のひとつなのだと思う。冒頭の「too much money leads to all kinds of mistakes」というのはそういう意味も含まれていると思う。創業者・経営者チームの器を越えて使われたカネがミステイクにつながるのである。

(a)の条件を満たさず(つまり事業の詳細もろくに把握していないのに)、(b)成長への希求のみ強すぎる場合、いい加減なプランで、正しいカネの使い方もわからないのに、一気に必要以上の資金を調達して、無駄遣いして、失敗してしまうのである。

月曜日の「気になるショートトピックス8本」の中で、同じ「A VC」の「You Are Only A First Time CEO Once」をご紹介したが、CEOが失敗から学んで2回目以降はこんな点がよくなっていくという部分の記述である

「And the next time, they don't make the same mistakes. They move faster. They listen better. They spend less. They hire better. The list goes on and on.」

の「Move faster」も「Listen Better」も「Spend less」も「Hire better」も、すべて、この正しいカネの使い方という問題に帰着される。CEOが失敗から学ぶのは、正しいカネの使い方に関する自らに対する厳しさのスタンダードなのである。しかしこれは精神論ではなく、実務的で現実的なスキルの問題だ。

若い起業家志望の人に僕がいつも言うのは、起業したい事業領域の事業の詳細をできるだけ深く把握できる経験を積むことの重要性だ。いくらいいアイデアが生まれても、そのアイデアのまわりに大きな事業を構築するには、大きなカネを正しく無駄なくタイムリーに使えなければならない。その前提条件をクリアできないと、いくらアイデアがよくても、いくら成長への希求が強くても、成功することは難しいからである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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