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スティーブ・ジョブズ、コンテンツ産業の未来を語る

2004/01/14 10:00
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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1月前半の話題を独り占めしたのはアップルだったと言っていいだろう。249ドルのiPod miniの発表があり、HPとの提携発表があった。スティーブ・ジョブズ健在である。日本のネットメディアでもBlogでも、アップルやiPodやiTunesの話は溢れているので、何を本欄でご紹介しようか悩んだが、ローリングストーン誌が行なったジョブズのインタビューが長文かつ秀逸だったので、それを取り上げることにしよう。iTunesの背景にある彼の思想がきちんと語られているし、ジョブズの例の「歯に衣着せぬ」言いたい放題が素晴らしい。もちろん、産業の将来についての至言も溢れている。

iTunesの音楽配信はまだ始まったばかり

先週の「まだインターネットは始まったばかり」ではアマゾンのベゾスの講演録を読み、彼が「It's Day One for the Internet」と言っている話を書いたが、ジョブズも同じような表現から始める。

「Remember there are 10 billion songs that are distributed in the U.S. every year -- legally, on CDs. So far on iTunes, we've distributed about 16 million [as of October]. So we're at the very beginning of this. It will take years to unfold.」

アメリカで毎年CDとして売られている音楽は100億曲。今のところiTunesで1600万曲。本当に始まったばかりなのだと。インタビューの中ごろで、さらにこう詳述する。

「There are approximately 800 million CD's sold in the U.S. a year, I believe. That's about 10 billion tracks, right? About 10 billion tracks in the U.S. -- sold legally. Our next milestones are to get up to 100 million tracks a year, then a quarter a billion, and then half a billion, and then a billion. And that's gonna take a little bit of time. But we can see a path that people will buy a billion tracks a year online. From us and others. And that'll be 10% of the music that's sold today in the country, and then it will keep going from there. And, someday, maybe all of the music will be delivered online -- 'cause the Internet was built to deliver music. I mean, if nothing else, Napster proved that.」

次のマイルストーンは年1億曲。その次の目標が2.5億曲。そして5億曲。それでオンライン音楽全体で10億曲になると、今売られている音楽全体の10分の1になるが、最後は全部ネット経由になるに違いない。

このインタビューでまず面白かったのは、アップルが音楽レーベルにアプローチしていった際の裏話である。18カ月かけてジョブズが「技術に疎い」連中の心をどう動かしていったのかが語られている。ジョブズの信念は、「You'll never stop that. So what you have to do is compete with it.」、インターネットの到来によって音楽産業の姿を昔のまま維持することは絶対にできないのだから新しい環境で競争しなければならないのだ、ということと、「音楽におけるサブスクリプション・ビジネスは成立しない、音楽を人々は所有したいのだ」ということである。特に後者については繰り返し語っている。

音楽サブスクリプション・ビジネスは全部失敗する

「We said: These [music subscription] services that are out there now are going to fail. Music Net's gonna fail, Press Play's gonna fail. Here's why: People don't want to buy their music as a subscription. They bought 45's; then they bought LP's; then they bought cassettes; then they bought 8-tracks; then they bought CD's. They're going to want to buy downloads. People want to own their music. You don't want to rent your music.」

音楽サブスクリプション・ビジネスは全部失敗する。人々は、ドーナツ盤を買い、LPを買い、カセットを買い、8トラックを買い、そして今、CDを買っている。皆、ダウンロードを買いたいのだ。所有したいのだ。レンタルしたいんじゃないんだ。

「And, you know, at 10 bucks a month, that's $120 a year. That's $1,200 a decade. That's a lot of money for me to listen to the songs I love. It's cheaper to buy, and that's what they're gonna want to do.」

それでレンタルするコストが月に10ドルだって。年に120ドル、10年で1200ドルじゃないか。好きな音楽を聴くだけにその値段は高いじゃないか。買うほうがずっと安い。音楽会社は「we want a subscription business」と、月10ドルのサブスクリプションモデルの正当性を主張するが、

「We said: It ain't gonna work.」

ジョブズは、それはワークしない、とただ断定する。インタビューのあとのほうでも、ジョブズは重ねて言う。「The subscription model of buying music is bankrupt.」、サブスクリプション・ビジネスは破綻していると。

しかし時間が経って、ゆっくりとだが確実にジョブズの主張が音楽会社に浸透していき、

「Slowly but surely, as these things didn't pan out, we started to gain some credibility with these folks. And they started to say: You know, you're right on these things -- tell us more.」

やっと彼らが、もう少し詳しく話を聞かせてくれ、と言ってきた。こうした経緯を経て、iTunesのサービスが生まれた。

そして、違法コピーの問題についても、コピーライトについても、彼はその考えを短い言葉で明解に語る。

「Our position, from the beginning, was that 80% of the people stealing music online don't really want to be thieves.」

オンライン上で違法コピーをやる80%の人々はやりたくてやっているんじゃない。「without a legal alternative」、違法でない代替案がないことが真の問題なのだ。

「If copyright dies, if patents die, if the protection of intellectual property is eroded, then people will stop investing. That hurts everyone. People need to have the incentive that if they invest and succeed, they can make a fair profit. Otherwise they'll stop investing.」

コピーライトが死ねば、特許が死ねば、知的所有権保護が侵食されれば、人々は投資しなくなる。それは皆に害を及ぼす。人々には投資して成功するインセンティブが必要だ。それがなければ投資しなくなる。

音楽と映画は違う

音楽と映画の違いについても彼の説明は明解である。音楽と映画は違うのだと。

その理由は3つ。

第1に、ファイルが100倍でかい。

「So in countries like the U.S., where broadband is not very evolved, it takes forever to download a high-quality version of a movie.」

これは皮肉であるが、ブロードバンド後進国の米国では未来永劫、映画のハイクオリティ・バージョンをダウンロードできない。しかも4年後の「high-definition DVDs」になったらなおさらダウンロードなんかできない。

そして第2に、映画のDVDは、CDと違って、1曲1曲に分けることが出来ない。映画はまるごと全部ほしい。CDはそうじゃない。

「Second, movies are not deconstructable into songs, like an album is, that are easy to download. Five minutes of a movie isn't very useful. You want the whole thing.」

第3に、音楽はもともとCDを買うというビジネスモデルしか存在していなかったけれど、映画のチャネルは、映画館、DVD、DVDレンタル、ペイ・パー・ビュー、ケーブルテレビ、テレビともう既に多様で複雑である。

「There was only one way to legally get music. That's a really big difference. The distribution is much more highly evolved in the movie industry than it ever was in the music industry.」

ディストリビューションが単純か複雑かの違いは、本当に大きな違いなのだ、とジョブズは強調する。「people who just make the leap that movies are next are wrong.」、音楽の次は映画だと飛躍する奴は間違っているんだと。

さて、音楽と映画の違いに関しては、Jupiter ResearchのBlog「Steve Jobs on Video iPods」も合わせて読むと面白い。ジョブズが「Video iPod」に否定的である理由が3つ挙げられている。1つ目は、「there’s just no equivalent of headphones」、ヘッドフォンに相当するものがない。2つ目は、「Hollywood has been a much better job of providing outlets for its wares than the recording industry」、ローリングストーン誌インタビューにおける第3の理由と同じ。3つ目は、「people just don’t consume music and movies the same way」、音楽は繰り返し聴くが映画は繰り返し見ない、とジョブズは言う。

ここまでのジョブズの言葉を読み、複雑で重要な課題のそれぞれに対して粗っぽい議論しか展開していないではないかと思われた読者の方もいるかもしれない。でも、ビジョナリー起業家と批評家・学者の違いはこういうところに現れる。ビジョナリー起業家が、「解が存在しない問題」について、どういうレベルで新しいビジョンを自ら納得し、あまたある事業アイデアの大半を捨てて1つに絞るか、そしてそれをどういうレベルのロジックで他者への説得を試みるか、という観点から読み直してみると、学ぶところが多いことと思う。

また競合に関するこのコメント

「And Apple's in a pretty interesting position. Because, as you may know, almost every song and CD is made on a Mac -- it's recorded on a Mac; it's mixed on a Mac. The artwork's done on a Mac. Almost every artist I've met has an iPod, and most of the music execs now have iPods. And one of the reasons Apple was able to do what we did was because we are perceived by the music industry as the most creative technology company. And now we've created this music store, which I think is nontrivial to copy. I mean, to say that Microsoft can just decide to copy it, and copy it in six months -- that's a big statement. It may not be so easy.」

は、ジョブズらしさ、アップルらしさの表現である。自分たちこそが「もっとも創造的なテクノロジー企業」だと音楽業界から「認知されていること」(are perceived)がアップルの競争優位だという信念である。

ミュージシャンと音楽レーベルの関係

インタビューでは、このあと、音楽のアルバムとしての価値が喪失されるのではないかという問題、アップルが音楽レーベルになろうとするかという問題、ミュージシャンと音楽レーベルの関係が語られるが、そこは原文をどうぞ。

たとえば、ジョブズは、音楽レーベルがミュージシャンに契約金を前払いで支払うシステムが悪いと言っている。なぜ悪いか。契約金を支払ったミュージシャンの大半が成功しないわけだから、本来一部の成功者が本来とるべき報酬の中から、失敗したミュージシャンへの契約金が支払われているとジョブズは言う。

「The accounting will be simple: We're gonna pay you not on profits -- we're gonna pay you off revenues. It's very simple: The more successful you are, the more you'll earn. But if you're not successful, you will not earn a dime.」

売り上げの一部をミュージシャンに支払うこと。シンプルなのがベストだ。成功すればもっと稼げる。でも成功しなければ一銭も入らないシステムがいいのだと。そしてその方向に音楽レーベルが進むのかという質問には、

「No. I said: I think that's the remedy. Will the patient swallow the medicine is another question.」

これが処方箋だが、患者がその薬を飲み込むかどうかは別の問題だ、と答える。

アップルがイノベートし皆がまねする

最後に、少し話題が変わって、PC産業についての次のくだりがおかしい。質問は、

「But skeptics have long viewed Apple as little more than as the cool R&D lab for the computer industry. Apple innovates -- everybody else takes it and makes money off it. How does Apple survive in an industry that's getting more consolidated, more mature?」

である。ジョブズの答は、「アップルがイノベートし皆がまねする」の何が悪いんだよ、というものだ。

「Well, first of all, I don't think that's a terrible thing, what you've just portrayed. Right now, in the personal-computer business -- in terms of companies that sell personal computers -- everyone is losing a lot of money, except for two companies.」

だって、PC産業で利益を出しているのは、デル(reasonable money)とアップル(a little money)だけじゃないか。HPだってソニーだってゲートウェイだってIBMだって東芝だって、売っても売っても損しているんだからさ。アップルがかろうじて儲けられているのはイノベートしているからだよ。

以上。あとは原文をどうぞ。

さてアップルとイノベーションと経営というテーマについては、Fast Company誌が、ジョブズを表紙に持ってきた上で、長文のカバーストーリー「If He's So Smart...Steve Jobs, Apple, and the Limits of Innovation」を書いている。当該テーマを専門として考え続けているプロフェッショナルの方にとってはやや物足りない内容だと思うが、一応無償で読めるようなので、参考文献として掲げておきたい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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