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2004年の世界を展望する

2003/12/15 10:10
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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12月に入ると必ず読む雑誌がある。「THEWORLD IN 2004」だ。英エコノミスト誌が特別に1年に1回編集するもので、エコノミスト定期購読者にも自動的には送られてこないので、本屋で買う雑誌である。定期購読者ならばウェブ上のコンテンツにはアクセスできるが、この雑誌だけは、紙媒体で読むことをお薦めする。日本のアマゾンでも1008円で買える

なぜお薦めなのか。

(1)世界全体をバランスよく俯瞰する視点が得られる。
(2)米国の視点ではなくヨーロッパの視点から書かれている。
(3)138ページからなるそう分厚くない雑誌の中に多岐にわたるテーマの記事群がコンパクトに収められている。
(4)それぞれ一流の記者らによって書かれ、しかもどれも「簡にして要」、図表も実に凝って作ってある。
(5)英語も、いつものエコノミスト誌よりも平易である。
(6)「来年を包括的に考える材料」がふんだんに提供されている。

というところかな。この雑誌の付加価値のポイントは「俯瞰する」ということに尽きる。そして「俯瞰する」にはウェブよりも紙のほうが適している。

まずは、章立ての作り方と、どんなタイトルの記事が並んでいるのかだけをウェブでチェックしてみるだけでも、ちょっと世界が広がると思う。

とくにかく世界を俯瞰してみる

この雑誌を手にすると、僕はまず、「Forecast for 61 countries」(雑誌95ページ、ウェブにはないみたい)を開いて、7ページにわたって書かれている61カ国について、知っていることも知らないことも含めて虚心に一行一行読み、ページを行ったり来たりしながら、あれこれと考える。それぞれの国について費やされているのは、せいぜい15行から30行くらい(すべての国について、GDP、GDP成長率、インフレ率、人口、1人当たりGDPの5つの数字だけは出ている)。それでも知らないことだらけ。知っていると思っていることについても、他の国と比較して俯瞰しようと思った瞬間に、何かを知っているようで何も知らないまま生きている自分に気づく。学校の勉強と違うから、読んで記憶しようと努力する必要はない。俯瞰して考える時間を作れれば、それでいいのだと思う。大きな括りとしてのヨーロッパ、アジア、北米、南米、中東・アフリカの5つのカテゴリーのそれぞれに、2004年のメインイベントは何かが一行ずつ書かれている。

(1)Europe: EU enlargement. Ten new members join the Union on May 1st.
(2)Asia: India’s elections. The world’s biggest democracy in action.
(3)North America: The American presidential election in November.
(4)South America: Negotiations over a Free-Trade Area of the Americas.
(5)Middle East andAfrica: Iraq’s progress towards democracy.

「俯瞰する」というのは、言われれば「ミクロには知っている」ことをたくさん並べて、その関係性や、ミクロな事象の全体の中での意味づけを考えるところに価値がある。

2004年に、EUには新たに10カ国(Malta、Slovenia、Hungary、Czech Republic、Slovakia、Poland、Lithuania、Latvia、Estonia、Cyprus)が参加して全部で25カ国になる。これがヨーロッパのメインイベントであるわけだが、ヨーロッパの視点から見ると、中国・インドの台頭ばかりでなく、こうしたEU新参加国からも、先進国の雇用や賃金を圧迫する姿が見えてくる。東を統合したドイツの人口は8250万人。1人当たりGDPは3万810ドルで、イギリス(6050万人)、フランス(6040万人)の1人当たりGDPを下回っている。中国のGDP総額は1兆4630億ドルで成長率が8.2%だから、まもなくイギリスやフランス(1兆9000億ドル台)に追いつくが、何せ人口が13億人と突出しているから、1人当たりGDPは1120ドルとまだ先進国の30分の1。インド・中国とよく並べて語られるが、インドは人口が11億人でGDPは中国の約半分弱。つまり先進国の50から60分の1である。まぁたとえば、こんなことを、頭の中であれこれ考えながら、61カ国分、ずっと読んでみるといい。横に簡単に世界地図をおいておけばなおいい。忙しい毎日を過ごしていても、1年に2-3時間だけでも、こんな時間を持つ価値は大きい。

ITは復活しても先進国の雇用が課題に

さて、本欄読者の関心領域であるITや経済や経営についてだが、思い切り粗っぽく「THE WORLD IN 2004」を総括すれば、

(1)経済全体としてみれば、2004年は2003年よりも明るい。ITも復活基調。
(2)しかし最大かつ深刻な問題は、先進国の雇用。

ということに尽きるようである。我々1人1人が自分の問題として考えなければならない課題だ。

「The new American job」は、

「When the great American job-creating machine at last starts to crank up again, what type of jobs will it be churning out?」

経済が戻ってきたアメリカではどんなセクターに雇用が生まれるかという記事。

The Rise of the Creative Class」という本を題材の1つにして、これからの雇用について考えている。

「The relentless search among American corporations for more efficiency andcost-savings is bad news for those workers caught in the middle. These are the people who are either unskilled or who have the wrong skills, and those who find it hard to shift career.」

ポイントは、この部分。Creative Classはいいけれど、中国やインドへの雇用シフトが起きて、(a)スキルのない人々、(b)Wrong Skillを持つ人々、(c)those who find it hard to shift career(キャリアをシフトすることが難しい人々)が大変になる。この「Wrong Skill」というところが怖いところ。自分では「Right Skill」だと思って一生懸命Skillを磨いてきたのに、ある日それがWrong Skillだということになってしまうと、プライドが高い人たちだけにキャリアのシフトができない、なんていう場合がいちばんきついのであろう。

またCreativeClassのほうには、地理的なシフトが起こると、この記事は予測する。

「In 2004 the same lure of a better quality of life will encourage high-value workers to move to mountain states such as Colorado, Idaho and Utah. They will also seek desert locations in Arizona and Nevada, where the price of property and state taxes are lower than in overcrowded California.」

40年以上前にエアコンが導入されたことでアメリカ人口は南に大きくシフトした、アトランタやフェニックスの勃興はエアコンと深い関係にあると書いたあとの文章がこれ。High-valueworkerといえども、生活コストや税金が安い地域に移っていくので、アリゾナやネバダの砂漠地域などへと人口が流失していく。いくら安いからといっても、灼熱・乾燥の砂漠地帯で住むのはけっこうきつい。でもアメリカ人は安ければそういうところにもどんどん移っていくさ、ということ。エコノミスト誌というのは、いつもこんなシニカルな視点を、アメリカに対して向けている。

変わる企業のグローバル化

もう1つだけご紹介するとすれば、「The third age of globalisation」という記事。
企業のグローバル化が第3世代に入るという話。第1世代は、

「The first stage of global strategy was most famously expressed by Theodore Levitt in a 1983 article in the Harvard Business Review.」

20年前のレビット論文で書かれたグローバル化。一言でいえば「"the emergence of global markets for standardised consumer products on a previously unimagined scale of magnitude"」。製品レベルのグローバル化。

第2世代は、

「Driven largely by a desire to cut costs, big western firms moved chunks of their production facilities to countries where wages were cheaper. In the 1990s this contributed to a rapid rise in foreign direct investment. By 2001, for example, foreign multinationals owned 39% of the 500 largest companies in Latin America, up from 27% ten years earlier.」

コスト削減欲求にドライブされての生産拠点のシフト。生産レベルのグローバル化。
そしてこれからの第3世代のグローバル化の特徴を次の4つだとする。

(1)Further dispersion of headquarters
(2)More outsourcing of key business processes to the developing world
(3)More integration of managers of different nationalities
(4)Growing use of R&D from sources other than the firm's own laboratories

またまた粗っぽく総括すれば、製品レベル(第1世代)、生産レベル(第2世代)のグローバル化の次の総仕上げが、経営レベルのグローバル化ということになる。本社がさらに分散し、キーとなるビジネスプロセスの発展途上国への移行が起こり、異なる国籍のマネジャーが統合され、R&Dはオープン・イノベーションを指向するというわけだ。カルロス・ゴーンの日産も、第3世代のグローバル化の(3)の事例の1つに加えられている。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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