お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

雇用なき景気回復とITエンジニアの雇用をめぐる大転換

2003/10/20 10:05
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
ブログ管理

最近のエントリー

日経新聞を読んでいたら、10月11日の地球回覧というコラムで、アメリカの「雇用なき景気回復」の話が取り上げられ、その中で、ニューヨーク連邦準備銀行がそのテーマの調査レポートを出したと紹介されていた。さて、原論文はネット上にあるのかな、と探してみることにした。

「jobless recovery New York」とGoogleでサーチしたら、トップでその論文が出てきた。便利になったものだ。「Has Structural Change Contributed to a Jobless Recovery?」。

「The current recovery has seen steady growth in output but no corresponding rise in employment. A look at layoff trends and industry job gains and losses in 2001-03 suggests that structural change?the permanent relocation of workers from some industries to others?may help explain the stalled growth in jobs.」

この論文では、この「雇用なき景気回復」は、循環的要因によるものよりも構造的要因によるところが大きい、と結論づけている。

「The job losses associated with cyclical shocks are temporary: at the end of the recession, industries rebound and laid-off workers are recalled to their old firms or readily find comparable employment with another firm. Job losses that stem from structural changes, however, are permanent: as industries decline, jobs are eliminated, compelling workers to switch industries, sectors, locations, or skills in order to find a new job.」

循環的要因ならば、景気回復とともに元の職場または同じ産業内の似たような職場に戻れる。でも構造的要因ならば、産業が衰微し仕事が減ることを意味するから、新しい仕事を見つけるためには、産業やセクターや住む地域やスキルを転換しなければならない。

米国IT産業の雇用なき景気回復

米国IT産業やシリコンバレーのキーワードも「Jobless Recovery」である。

IPOs picking up steam in third quarter」によれば、

「According to new data from Thomson Venture Economics and the National Venture Capital Association, 22 companies sold shares to the public for the first time during the third quarter. That's almost triple the total of eight IPOs completed during the year's first six months.」

第3四半期(7-9)のIPO件数22は、1月から6月までのトータル8に比べて、ぐっと増えている。

でも景気回復という感じが社会全体を覆わないのは、IT産業に雇用が生まれないから。生まれてもテンポラリーな雇用ばかりだからである。

本連載でも、5月6日「米国のITエンジニアが直面する厳しい現実」、9月5日「年収500〜1000万円の仕事がなくなっていく米国」、や、折々の話題の中で、米国におけるエンジニアの雇用の問題(これは先進国には共通の問題だから日本にも部分的にあてはまる)を取り上げてきたが、そろそろ、この「Jobless Recovery」構造論を前提にして、ニューヨーク連銀のいう「to switch industries, sectors, locations, or skills in order to find a new job.」ということを、ITエンジニア一人一人が真剣に考える時期が来ているのかもしれない。

この問題は極めて重要で大きな問題なので継続的に話題として取り上げながら考えていきたいが、今日ひとつだけ問題提起しておきたいのは、「ITベンダーからITユーザへの雇用の転換」という可能性についてである。

ITベンダー、ITユーザという言葉はもう古語かもしれないが、ITベンダーは道具や技術やインフラを提供する企業で、ITユーザはITを活用して自らの商売を行なう企業とでも定義しておこうか。この違いについては、だいたいコンセンサスがあると思うので、厳密な定義には踏み込まないが、GEやユニクロやセブンイレブンはITユーザで、マイクロソフトやインテルやソニーはITベンダーである。ITユーザの仕事を丸ごと引き受けるのが、ITベンダーが指向するアウトソーシング事業やソリューション事業だ。

エンジニアの花形職場がベンダーからユーザーへ

これまで、ITエンジニアにとっての花形の職場、就職先はITベンダーであったわけだが、ひょっとするとこれからそれがITユーザの方に移行していくのではないか。それがITエンジニアの雇用をめぐる大転換なのではないかというのが、いま僕が考え始めている仮説である。間違っている可能性はかなりあるのだが、今のところ、こういう仮説を置きながら、しばらく考え事をしてみようかという気分になっている。

こんなふうに考えるきっかけになったのは、「AmazonやeBayやYahoo!やGoogleやInterActiveCorpは、ITベンダーなのITユーザなの?」と、この文脈で自問し始めたときだった。振り返れば、ITベンダーに勤める人たち(経営者、エンジニアともに)がネット時代到来後に生まれたAmazonやeBayを見る視線は、「あれはコマースだ(つまり俺たちとは関係ない)」というものであった。つまりAmazonやeBayは商取引を行なうことを生業とする会社、つまりITユーザであって、自分たちITベンダーにとってはお客さんではあっても、競合とかIT産業の新しい担い手とか、そういう意識はなかった。今でもないかもしれない。その意味では、AmazonやeBayやYahoo!やGoogleやInterActiveCorpは、テクノロジーの先端性という意味ではITベンダーを凌駕するにしても、ITベンダーではなく、ITユーザだと言える(古い定義に従えば)。

その21世紀型ITユーザでの仕事、つまり「自社の事業にITを活用してその結果自社事業を繁栄させることに対する対価を得る」ユーザでの仕事に、「ITを道具やインフラや技術そのものとして他社に提供して対価を得る」ベンダーでの仕事よりも、少なくともシリコンバレーでは、ITエンジニアが魅せられ始めているという現実があるわけだ。

ネット企業におけるソフトウェアエンジニアの役割

本欄10月3日「エンジニアにとってシリコンバレーが天国な理由」で、ソフトウェアエンジニアの上田ガクさんの「ほぼ日刊イトイ新聞」での「シリコンの谷は、いま」という連載をご紹介したが、連載第五回「ネット企業のお仕事ってどんなのがあるのですか?〜ソフトウェアエンジニア編〜」で、彼は自らの仕事を、こんなふうに語っている。

「僕の場合は、ネット企業でソフトウェア・エンジニアをやっているので、その役割をこんな風に考えています。「インターネットを使って世界中の人の生活がより楽しく、便利になるようなアイデアに溢れたサービスを作るのが僕らの仕事です。」ちょっとカッコつけすぎでしょうか。でも、楽しくて面白いものを作ることっていうのが大事なのは本当です。つまらないものを作ったら誰も使ってくれませんから」

「このようなサービスは、そういった要求を満たすために、何百台ものコンピューターを使って作られています。普通はその何百台かのコンピューターを色々な役割に分けて使います。一部のコンピューターに仕事が集中して遅くならないよううまい具合に仕事の分散ができるような役割分担の方法を考えたり、それぞれの役割に何台のコンピューターを割り当てればコンピュータを無駄遣いしないで済むかなどを考えなければなりません。」

「あーでもない、こーでもないとみんなで頭をひねり、「こういう機能があったら絶対面白い!」というようなアイデアを出し合ったり、時にはトラブルの対応に夜中に叩き起こされたりしながらも、日々進化してゆくサービスを支えるのがソフトウェア・エンジニアというわけです。コンピューターを動かすプログラムを作るという作業は、エンジニアの仕事の一部ですが、他にもサービス全体がどう構成されるかの設計をしたり、様々な問題の解決策を考えたりすることができなければ、この仕事は務まりません。そんなことから、プログラマーという呼び方はあまり使われないのでしょう。インターネットビジネスのアイデアを形にするには効率よく、しかも安定して動く大規模なサービスを作らなければなりません。しかし、こういった大規模なサービス作りは、ノウハウが少ないので、エンジニアの職人的な経験と勘がものをいいます。」

この上田さんの文章を読んだNDO:: Weblog氏が、そのBlog「「ほぼ日刊イトイ新聞 - シリコン谷は、いま。」が面白いこの頃」の中で、こんな感想を述べている。

「このコラムの中触れられている "ソフトウェア・エンジニア" という職業が今の僕の職業にかなり近くて、少し嬉しくなりました。」

「なぜ嬉しいかと申しますと、ここ最近、自分の職業の位置づけでちょっと悩んでいたというのがありまして。一般にみなさんが想像される SI、SE やプログラマ、ITコンサルなどには、ある程度型にはまったイメージがあると思います。」

「ところが、僕の仕事はそのどれにも当てはまらないというか。プログラマというほどプログラムをガリガリ書きまくるわけでもないし、SE のようにクライアント相手に分析/設計を行って仕様に落とし込むプロというわけでもなく。時としてサーバの運用なんかもやるし、アプリケーションを作ることもあり、その一方で新しいサービスのアイデアを企画したり色んなサービスのブレストに参加したりもします。良く言えばオールマイティ、悪く言えば中途半端というやつなのです。色々やれて楽しいと言えば楽しいのですが、じゃー僕の職種は一体何なんだって思ったときに、一言では言い表せないし、万が一転職なんて話になったときに、こんなキャリアで相手にしてもらえるんだろうかとか。」

「でもここでのコラムを読んだら、どうもシリコンバレーではそんな職種が花形でもあったりするようなことが書いてあって、少しだけ自信を持つことができました。「インターネット関連の企業でエンジニアやってます」と言えばいいのですね。」

NDO:: Weblog氏が言う「SI、SE やプログラマ、ITコンサルなどに対する、ある程度型にはまったイメージ」というものこそ、ITベンダーにおけるITエンジニアの職のイメージなのである。上田さんやNDO::Weblog氏の仕事のイメージこそが、生まれたばかりの、21世紀型ITユーザにおけるITエンジニアの職のイメージとは言えないであろうか。

すべての企業のIT化、ネット化がこれからますます進むこと(その最先端に存在するのが現在のネット企業と位置づける)、そして競争優位の源泉がその中に作りこまれていくITシステムの重要性が企業で減じることはあり得ない。ITを全部外に丸投げする企業ばかりとは限らない。といろいろと考えていくと、「ITベンダーからITユーザへの雇用の転換」という可能性は、少なくともしばらく抱え込んで悩んでみるに値する、あながち的外れな仮説でもない、と思い始めている昨今なのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー