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ソフトウェア開発の組織論を野球に学ぶ

2003/10/02 10:05
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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米国はメジャーリーグのプレイオフが今週から始まり、米国野球ファンの盛り上がりもたいへんなものになってきた。

そこで今日は、Jon Udelの「Baseball lessons for software teams」(ソフトウェアチームのための野球からのレッスン)を取り上げよう。マイケル・ルイス著の話題の新刊「Moneyball」(マネーボール)という本で描かれる「貧乏球団が常勝する秘訣」からのレッスンをソフトウェア開発チームにもあてはめてみよう、という話だ。

マイケル・ルイスは、当代ナンバーワンのノンフィクションライターである(本連載9月4日「IT産業は成熟か未成熟か」の中でもご紹介したJim Clarkを描いた「ニュー・ニュー・シング」の著者でもある)。

貧乏球団を常勝チームにした秘訣

まずは、背景知識として「Moneyball」というのがどういう話なのかを簡単にお話ししよう。

「Billy Beane, general manager of MLB's Oakland A's and protagonist of Michael Lewis's Moneyball, had a problem: how to win in the Major Leagues with a budget that's smaller than that of nearly every other team. Conventional wisdom long held that big name, highly athletic hitters and young pitchers with rocket arms were the ticket to success. But Beane and his staff, buoyed by massive amounts of carefully interpreted statistical data, believed that wins could be had by more affordable methods such as hitters with high on-base percentage and pitchers who get lots of ground outs. Given this information and a tight budget, Beane defied tradition and his own scouting department to build winning teams of young affordable players and inexpensive castoff veterans.」(Amazon.comの同書のEditorial Review by John Moetからの引用)

この本の主人公は、貧乏球団・オークランド・アスレチックス (ちなみに今年もアリーグ西地区優勝し、いまプレイオフを戦っている)のGM、ビリー・ビーン。大物(バリー・ボンズ/Barry Bondsみたいな選手)、運動能力のものすごく高い打者(イチローみたいな選手)、豪速球を投げる若いピッチャーを集めるのが成功のカギ、というのが野球の従来の常識。でも、そういうオーソドックスな評価基準で人を集めるやり方はものすごくカネがかかる。ビーンは、膨大な統計データを注意深く解釈し、独自の判断基準を導入することで、世の中ではそれほど評価が高くないけれど実際にはものすごくチームに貢献しそうな選手を集めて常勝チームを作り上げたのだ。

たとえば、「hitters with high on-base percentage」という尺度は、普通の指標に比べて、フォアボールの価値を高く評価するための指標だ。フォアボールの多さは、打率・打点・ホームランといった華やかな数字には現れないが、出塁率(on-base percentage)には反映される。また、「pitchers who get lots of ground outs」(内野ゴロでアウトを取ることが多いピッチャーかどうか)なんていう判断基準は、勝ち星、防御率といった公式統計数字には現れないピッチャーの特質である。自分のチームがやりたいのはどういうタイプの野球なのかを明確にした上で、他のチームがあまり評価しない「目に見えない部分」に目を向けたのが成功のカギだったのである。その結果、「build winning teams of young affordable players and inexpensive castoff veterans.」つまり、若くて手頃な年俸の選手と、他チームから解雇された安いベテランからなる常勝チームを作り上げることができた。

つまり、ポイントは、Undervalued talentを探すことが重要だということと、そのためには世の中での人材評価基準とは違う独自の評価基準を持たなければならない、ということである。

いかに安く、強いチームを作るか

Jon Udelのコラムに戻って、

「Doing more with less is the theme of Michael Lewis’ terrific new book, Moneyball.」

「Moneyball is not just a baseball book; it’s a treatise on the science and economics of individual and team performance.」

と、彼はこの本を称賛するわけだが、「少ない資源でより多くのことをすることがテーマ」の「個とチーム・パフォーマンスについて科学と経済の論文」だと言う。

アメリカ人の野球好きはものすごい。メジャーリーグの選手の成績に関するデータベースはもちろんのこと、年俸データベース(98-2003年までの全選手の年俸)まで広く一般に公開されているから、ビジネス世界でも野球談義というのが本当によく行なわれるわけで、いかにいい選手を安く調達して予算の許す範囲で強いチームを作るかというテーマは格好の話題なのである。かく言う僕も、メジャーリーグの熱狂的ファンであり、贔屓チームであるサンフランシスコ・ジャイアンツのチーム編成については、ああでもないこうでもないといつもあれこれ考えたり議論したりするのが習慣になっている。余談だが、去年のバリー・ボンズ通算600号ホームラン、今年のバリー・ボンズ通算500盗塁、という2つの歴史的瞬間に、現場(サンフランシスコ・Pacific Bell Park)に居合わせることができたのが、ファンとしての自慢である。

「Here’s one: It points to things we might be measuring. At the moment, we seem to have no idea what to measure.」

「We know that the best coders are far more productive than the norm.」

さて、ソフトウェアチームにこの話を応用する場合の教訓は、ソフトウェア技術者に個人差は大きいにもかかわらず、我々が、ソフトウェアチームや個人を評価するのに、本当には何を指標とすべきかがわかっていないことだとJon Udelは言うのである。

そしてこれから、どういう指標でソフトウェア技術者を評価していくべきかについての彼の試論が続くのだが、ここから先の彼の試論はあくまでも例として参考になる程度なので、ここでは詳しくご紹介せず、この問題提起の重要性だけを強調しておきたい。

これからは自分にとって必要な人材の評価軸が重要になる

本連載9月18日「ネットがもたらすプロフェッショナルへの新しい道」では、エンパワーされたアマチュアが従来の狭い意味でのプロの世界に大量新規参入してくる新しい時代について論じたが、Flower Lounge氏より、こんなコメントをいただいた。

「利用者側にしてみれば、両者のリソースの価値、有用性、信頼性の判断に今まで以上に悩むことになります。しかるに、両者を公平にレイティング、オーソライズする(できる)立場な人の登場が望まれますね。」

まさにここがポイントなのである。新しい時代には、オークランド・アスレチックスのGM、ビリー・ビーンが編み出したのと同じ意味での、自社にとっての必要人材をきちんと特定し得る「世の中の判断基準とは違った評価指標」が必要になってくるということなのである。そして、そこをきちんと見極めることができる会社が優位に立つ。なぜならば、これまでに比べて、採用対象(正社員だろうがプロジェクトメンバーであろうが)となる潜在能力を持った人たちの母集団が、これから圧倒的に増えていくに違いないからである。

たとえばGoogleは人材発掘のために、本連載9月24日「日本人プログラマーよGoogleを攻略せよ」でご紹介したような対象を世界中に広げたプログラミング・コンテストをやっている(Googleはそのコンテストを通るような人材がほしいわけだ)し、本連載9月25日「そうは言っても優秀な人材をひきつけるマイクロソフト」でも詳述したように、マイクロソフトはマイクロソフトで、独特な人材観を持って、人材の選別と育成に力を入れている。

日本企業も、日本人偏重の人材観、しかも学歴に偏りすぎた人材観を改めて、「世の中の判断基準とは違った評価指標」をそれぞれの企業が創造的に導入すると、もっと個性的で強い会社になれるのではないだろうか。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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