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いらない顧客を切り捨てられますか?

2003/08/25 10:05
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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顧客を選ぶことの大切さについて今日は考えよう。まずは、Knowledge@Whartonの「Which Customers Are Worth Keeping and Which Ones Aren’t? Managerial Uses of CLV」から読んでみよう。長い論文なので、ポイントのみ引用しながら解説しよう。

タイトルにもあるように、どの顧客はキープする価値があり、どの顧客はキープする価値がないか。CLVとは、Customer Lifetime Valueという物差しのことである。

「“For many companies, their whole business revolves around trying to understand which customers are worth keeping and which aren’t,” says Wharton marketing professor Peter Fader,」

「Although CLV is by no means new - it has long been used in business markets dealing with large key accounts - the concept has been energized by the increasing sophistication of the Internet “which allows companies to contact people directly and inexpensively.” CLV, Dreze says, “sees customers as a resource [from whom] companies are trying to extract as much value as possible.”」

CLVという考え自体は決して新しいものではなく、大口アカウントの管理に使われていた手法だが、インターネットの普及によって、その手法がありとあらゆる場面で有効になってきた、というのがこの論文の問題意識である。

集めた顧客データを行動につなげられるか

そして真の問いは、

「And the basic question becomes, now that you have that data, what are you going to do with it?」

というところにある。「どの顧客はキープする価値があり、どの顧客はキープする価値がないか」についてのデータをあなたが、あなたの会社が持ったと仮定して、それで何をするの? という問いである。

何もしないのであれば、つまり、戦略や行動に結びつける意志がないのであれば、そんなデータは何の価値もないわけだ。

「Some companies use this information to create different programs for different value segments. In the financial services industry, for example, customers get different levels of service depending on how big an account they are. But there is always the risk that by doing this you anger other customers.」

ある会社では、この情報を、違う価値セグメントの顧客に対して違うプログラムを用意するために使っている。金融インダストリでは、たとえば、どれだけ大きなアカウントを持っているかによって、顧客は、全く違うレベルのサービスを受けることが出来る。でも、そうすると、他の顧客の怒りをかう、というリスクが伴う。

この話は、特に日本企業にとっては重要な話である。

日本は、資本主義よりも社会主義的な発想が社会に染み渡っている国だから、すぐに、顧客の選別や弱者切り捨て、みたいな話になることを恐れて、仮に重要な顧客を選別することができても、思い切って重要顧客にフォーカスできない場合が多い。結果として、付き合えば付き合うほど損をする顧客セグメントを切り捨てずに面倒見続けるゆえに、収益の足を引っ張り、全体として沈んでいくという場面すらよく見受けられる。

インターネットの時代は、顧客についての情報が、インターネットがなかった頃に比べて爆発的に増加するという特徴を持つ。それを戦略的に活用できるかどうかが企業の命運を決めるケースも増えてくると思うが、日本企業が「情報収集まではしても、それを活用する段になってためらう」のであれば、それは大問題である。

Dellモデルは顧客の選別から

さて、少し前の論考だが、CNET News.comに掲載されたハーバードビジネススクールの記事「Explaining Dell's transformation」は、Dellが90年代前半に苦境に陥ってからどう変身して復活を遂げたかについて書かれていて面白い。

「In 1994, Dell Computer was a struggling second-tier PC maker. Like other PC makers, Dell ordered its components in advance and carried a large amount of component inventory.」

Dellも1994年には在庫をたくさん持つごく普通の2番手PCメーカーに過ぎなかった。

「At the heart of Dell's profitability management was a seemingly impossible dilemma: The company had adopted a build-to-order system, yet it had to commit to purchase key components 60 days in advance. How did Dell manage this? The answer lay in Dell's tightly aligned business model, which had several key elements.」

Dellがこの収益管理におけるジレンマを解消するために真っ先にやったのが、「Account selection」であったという。

「Dell purposely selected customers with relatively predictable purchasing patterns and low service costs. The company developed a core competence in targeting customers and kept a massive database for this purpose.」

「A large portion of Dell's business stemmed from long-term corporate relationship accounts--customers having predictable needs that were closely tied to their budget cycles. For these, Dell developed powerful customer-specific intranet Web sites with predetermined custom specifications and budgets.」

顧客の選別という概念から、Dellモデルの洗練はスタートしたのだということは記憶しておいていい重要なことだと思う。

顧客を見極める嗅覚を磨け

最後に少しだけ、僕自身の経験をお話ししよう。

僕は1988年にコンサルティング会社に入社して以来、一貫して日本企業のコンサルティングという仕事をし続けているのだが、結局、その間を振り返れば、「顧客を選ぶことの大切さ」ということだけが、One and onlyの最重要事項として浮かび上がってくる。

結局、僕が15年以上この仕事をし続けて身につけたスキルといえば、膨大な量の人と遭遇する中から、大切な顧客としてじっくりと長く付き合っていく価値がある人(若い人でもそういう潜在的なものを持った人)を見分ける直観力だけだ、という気がする。

日本企業と一口に言っても、社風は人格と同じだけ多様だ。さらに、日本企業というのは、肩書きやポジションと関係なく、実力を持った人が散在している上、コンサルティングという機能を米国のようにカジュアルに使うという発想がない。どんなに偉い経営者に会っても、この人とは絶対に仕事上の関係は発生しないな、と直感する人のほうが圧倒的に多い。

そんな中、この会社とはきちんと付き合ってみようかな、と思える会社を見分け、そしてその会社の中でもこの人とはきちんと付き合ってみようかな、と思える人を見分けるのは、論理ではなく嗅覚である。この嗅覚とも言うべきスキルに自信を持ったときに、僕は、独立して会社を作っても、十分にやっていけることを確信したのである。

ではその嗅覚をどうやって身につけたのか。そんなことを身につける王道なんてない。結局は、膨大な試行錯誤からである。大手のコンサルティング会社に居た間に、本当にたくさんの人に会い、本当にたくさんの売り込みをし、たくさんの失敗をして、多くの無駄な時間を過ごした。それが僕の嗅覚を磨いてくれた。

ではなぜこの嗅覚が大切なのか。企業にとっても個人にとっても、突き詰めれば、もっとも重要な希少資源が時間だからである。この嗅覚こそが、時間の効率性を飛躍的に向上させ、ひいては企業の収益に大きく貢献するのである。

僕の場合は小さい事業だから、嗅覚とは、文字通り僕個人が感じる本当の嗅覚のことを言っているのだが、企業が大きな事業を展開していく場合には、それに相当する能力を、CLVがいいのかどうかは知らないが、企業のシステムや戦略の中に作りこんでいくことが重要なのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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